2024年2月17日常任幹事会において、「離婚後共同親権制度の導入をはかる民法改正の拙速な動きに反対する決議」を採択しました

カテゴリ:司法,子ども・教育,決議

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離婚後共同親権制度の導入をはかる民法改正の拙速な動きに反対する決議

 

2024年2月17日

自由法曹団常任幹事会

 

 2024年1月30日、法制審議会家族法制部会において、「離婚後共同親権制度」の導入を含む「家族法制の見直しに関する要綱案」が示され、2月15日の法制審議会第199回会議において原案どおり採択され(以下「要綱」という。)、法務大臣に答申された。今国会において、要綱を具体化した民法改正案が提出される可能性が高い。
 「離婚後共同親権制度」の導入について要綱どおりの民法改正がなされた場合、新たな類型の紛争の発生が懸念されるとともに、特に子どもとDV被害者など、弱い立場にある人達が深刻な不利益を受けるおそれがある。また、「離婚後共同親権制度」に対応する家庭裁判所の人的物的体制は極めて不十分であって、離婚事件の実務に携わる弁護士として看過できない深刻な問題が発生することが予想される。要綱は、「離婚後共同親権制度」の賛否いずれの立場に立つとしても、こうした懸念や問題に対応できないものであり、自由法曹団としては、同要綱どおり「離婚後共同親権制度」を導入する民法改正の拙速な動きに強く反対する。

1    要綱における離婚後共同親権制度

 要綱が導入を求める「離婚後共同親権制度」とは、離婚後も父母が親権行使を共同で行う、すなわち、教育、医療、居所指定等の、子に関する重要事項を父母のいずれか単独では決定できず、父母が共同しなければ決定できないとするものである。
 この点、「親権」の意味を正確に伝えていない報道も散見され、その意味を誤解している市民も多い。「親権」の意味や制度に対する誤解から「父母が離婚した場合に非同居親が子どもに会えないのはかわいそうだ」「共同親権になったら別居親が養育費を支払うのではないか」として共同親権に賛成する意見もあるが、これらは「監護」の問題である。単独親権の現状においても、親権者でない親も養育費を支払う義務はあり、子との面会について父母の協議で決定できない場合には裁判所を通じて解決する方法がある(民法766条)。

2 予想される紛争の増加 

 要綱によれば、離婚時父母の協議により共同親権とできる(以下「合意型共同親権」という。)だけでなく、父母の協議がなくても、裁判所が共同親権を命じることができる(以下「非合意型共同親権」という。)。
 父母に婚姻関係も事実婚関係もない場合であっても、父が子を認知すれば(出生後の認知に母の同意は不要である)、共同親権の申立が可能となり、裁判所が共同親権を命じることができる。加えて、現在の法制度下で離婚した父母も共同親権への変更を求めて裁判所に申立ができることとなる。
 このように、親子関係の規律が大きく変わり、今までになかった紛争が増加することが予想される。

3 DV・虐待事案を除外する方策が講じられていない合意型共同親権 

 合意型共同親権において予想されるのは以下のような問題である。
 日本の離婚の約9割は裁判所が関与しない協議離婚だが、その際に、どのような「合意」をするかは当事者に委ねられており、必ずしも双方が真摯に納得した「合意」が成立するとは限らない実情がある。実際に、養育費の支払がなければ経済的に困窮する状況にある多くのシングルマザーが養育費を取り決めずに離婚するのは、養育費を要求できないほど、父母が対等な関係性にないからである。
 このような現状において、離婚後共同親権制度が導入されると、父親が「共同親権にしなければ離婚には応じない」と強く主張した場合、母親が離婚したいために共同親権に合意せざるを得ず、「父母の協議により共同親権を選択した」という形になるケースの多発が予想される。
 要綱では、協議離婚においてDV・虐待事案を共同親権の対象から排除する方策が何ら講じられていない。そのため要綱のままでは、DVや虐待の事案であるにも関わらず、「合意型共同親権」を選択した協議離婚となる事態が多発するおそれがある。むしろDV・虐待事案でこそ、加害者の「離婚してほしいなら共同親権にしろ」という要求を被害者が断れないまま、共同親権に合意するよう追い込まれることになる。離婚した後も、DV・虐待の加害者に連絡をとって協議しなければ子についての重要事項を決定できないということになれば、DV・虐待から逃げることができなくなる。
 結果として、離婚後に改めて単独親権への変更の申立を余儀なくされるなど、当事者が大きな負担を強いられることになる。

4 共同行使を支援する制度が欠落した下での非合意型共同親権における紛争 

 非合意型共同親権は、共同親権への合意自体ができない父母に対し、裁判所が、「子に関する重要事項は父母二人で決定すべき」と命じる制度である。
 離婚する程度に関係性が破綻した父母は多くの場合、共同の婚姻関係が維持できないほど関係性が悪化している。にもかかわらず、裁判所が共同親権を命じることは無理を強いるものであるケースが大多数である。
 面会交流や養育費支払等の監護について裁判所が強制する手続は既に存在しており、「父母双方が子の養育に関わったほうがいい」という理念はこれによって実現することが想定されている。
 他方、親権の共同行使を裁判所が強制することは前例がなく、裁判所がどのような証拠、調査によりどのような判断をすべきか全く不明である。
 また、仮に非合意型共同親権が妥当する事案があったとしても、裁判所が親権の共同行使を命じるだけでは共同親権は実際にはうまく機能しないことは明らかである。親権の共同行使を円滑にするための社会的な支援が必須であるが、現在の日本社会には見るべき支援制度は存在しない。
 実際には、裁判所が共同親権を命じた後、具体的な意思決定が円滑にいかず、結局単独親権への変更を改めて申し立てざるを得なくなるといった紛争の増加が強く懸念される。

5 子に関する重要事項を決定できないおそれ 

 合意型、非合意型いずれであろうと、離婚後共同親権が導入された場合には新たな類型の紛争の多発が懸念される。
 例えば、離婚後、子と暮らす母が旧姓に復氏したため、子の姓も母の旧姓に変更しようとする場合に、父の合意が必要となる。
 子と暮らす親が再婚することとなり、再婚相手と子が養子縁組をするためには、元の配偶者の合意が必要となる。
 子と暮らす親が、子を保育園に入所させるためにも、元の配偶者の合意が必要となる。
 子と暮らす親が、就職や転職、親の介護等のために遠方に転居しようとする場合、子の居所を変更することになるので、元の配偶者の合意が必要となる。
 このような合意を求められた時に元の配偶者が反対できるのが「共同親権」であり、要綱によれば、元の配偶者の合意を得られない場合には家庭裁判所に判断を求めることが必要となる。この点、1月23日に自民党法務部会に提出された最高裁判所事務総局作成による「家族法改正を見据えた家庭裁判所の取組」(※1)には、「新たな事件類型や意見調整すべき事項の追加」なる文言があり、まさに、今まではなかった、「新たな事件類型」の増加を最高裁判所も予想しているのである。
 要綱では、父母双方が親権者であっても、「子の利益のために急迫の事情」があるときや「監護及び教育に関する日常の行為」については単独行使ができるとする。しかしこのような定めでは、およそ上記のような紛争は防止できない。一方が「急迫の事情」あるいは「監護及び教育に関する日常の行為」だと考えても、他方から「それにあたらない」として事後に無効確認訴訟や損害賠償請求訴訟を起こされる事態が予想されるためである。
 また、父母双方が「監護及び教育に関する日常の行為」に該当すると考えて単独で行った行為が矛盾し、結局どちらとも決定できない事態も生じる。例えば、受験日が同じ別々の高校への願書提出を父母それぞれが行った場合、子の中学校は内申書をどちらの学校に提示すればいいのか決まらず受験先を決定できない。また、一方が子に手術を受けさせたいと考えても他方が受けさせたくないと考えていた場合、どちらの判断が優先するのか不明であり、もし手術が実施された場合、手術に反対していた側の親は他方の親や医療機関に対し親権侵害を主張できる事態も生じる。
 このように、要綱は、子の重要事項に関する意思決定に混乱と遅滞が生じることについて具体的な方策を打ち出せるものとなっていない。

6 子を高葛藤の父母の間に置き続ける事案の増加のおそれ 

 要綱は、離婚前の子連れでの別居が違法であるかのような誤解を与える。
 離婚前の父母においては、わかりやすいDVや虐待がないとしても、様々な価値観の不一致により父母間に高葛藤が生じていることが通常であり、このような状況の父母が、「別居にあたり、子どもはどちらが監護すべきか」を協議して合意に至ることなどおよそ非現実的である。また、父母間の高葛藤の狭間におかれた子の健全な成育が阻害されていることも多々ある。そのため、現実には、同居に耐えられなくなった側が家を出て行くこととなり、その際、他方配偶者の承諾が無いまま子連れで別居することも珍しくない。
 そして、このような、他方の承諾が無い子連れ別居が適法であるか否かについては、現状「子の利益」に反するか否かで判断されており、①子を連れて家を出た場合と、子を残して自分だけが家を出た場合とで、どちらが子の健全な成育に資するか、②協議の実現可能性があったかどうか、という点が考慮されている(東京高等裁判所平成29年1月26日判決参照)。誤解されているような「連れ去り勝ち」という状況にはなく、現在のこの基準に照らし問題がない子連れ別居は、今後も違法とされるべきではないのは当然である。
 ところが、要綱には、「親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。(中略)ウ 子の利益のため急迫の事情があるとき」と定めており、「急迫の事情」がなければ、相手方の承諾がない子連れ別居は、相手方の親権を侵害するとされるおそれがある。「急迫」との文言は通常、相当差し迫った緊急の事情があることを指すものであり、「相当差し迫った緊急の事情がない限りは無断で子連れ別居することは許されなくなる」という誤った解釈を生むおそれがある。その結果、当事者が子を連れた別居を躊躇したり、弁護士やDV被害者支援関係者が、別居の際に子を連れて出てもよいと助言することを控えざるをえなくなる懸念もあり、そのことが、子を高葛藤の紛争の渦中に置き続けることに繋がることを強く憂慮する。
 法制審議会資料(部会資料35-2)には「『急迫の事情』の意義については、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時の親権行使をすることができずその結果として子の利益を害するおそれがあるようなケースを想定」とあるが、「急迫の事情」との文言からそのような広い意味を導くことは困難である。
 よって、「急迫の事情」という文言を用いる要綱には反対である。

7 極めて不十分な家庭裁判所の人的物的体制 

 共同親権の導入によって新たな事件類型も含め、大幅な紛争増加が想定される。にもかかわらず、家庭裁判所の人的物的体制の強化が全くなされていない。
 それどころか、現在でも、全国的に家裁が取り扱う事件総数は増加傾向にあり、人的物的体制は全く追いついていない。
 日本弁護士連合会は2023年10月6日に「子ども・高齢者・障害者を含む住民の人権保障のために、地域の家庭裁判所の改善と充実を求める決議」を発出したほどである(※2)。
 子に関する紛争であることから、調査官が関与すべきケースが激増することが見込まれるところ、特に調査官不足は顕著である。現在、地方の家庭裁判所では本庁にしか調査官が常駐しておらず、支部や出張所には調査官がいないため本庁から調査官が出張する運用も珍しくない。試行的面会のための部屋がない庁舎もあり、調停室も足りていない。このようなことから、調停期日が2か月以上空いてしまうことも珍しくなく、地方やとりわけ支部では、3か月も空いてしまうこともあるのが現状である。
 現在でも、過重労働にも起因する裁判所職員の病気休暇が増えている状況下、定員数どおりの調査官がいるように見える庁でも、実質的には定員以下の人数で稼働せざるを得ない状況もある。そもそも裁判所職員定員法によれば、裁判官以外の裁判所職員の定員は減少し続けている。
 このような状況下、専門職である調査官を増員することは一朝一夕にできることではない。
 全く新たな制度であることから、調停委員への研修内容も新たなものを検討しなければならないし、専門性の強化も必須である。
 増加する紛争に対応するには、家庭裁判所の物的体制の充実も必須である。調停室を増設するためには新たな庁舎の確保なども必要であり、容易なことではない。裁判所の物的体制の充実にも相当の時間と費用を要するのは明らかである。この点、裁判所予算が国家予算全体の中で占める割合は減少傾向にあり、近時は0.4%を下回る状況が続いていたところ、2023年度は0.282%と、ついに0.3%を下回っている。
 このように、現在でも人的物的体制が不十分であるにもかかわらず、その強化もしないまま共同親権を導入することは非現実的であり、共同親権導入に伴う紛争等の増加に現在の家庭裁判所では全く対応できない。
 この点、弁護士ドットコムが実施したアンケート(176人の弁護士が回答)では、回答した弁護士の8割が「たたき台どおりに改正された場合、家裁はうまく機能しない」と回答し、「家裁はうまく機能する」と回答したのはわずか1.1%であった(※3)。
 家裁が対応できないことが目に見えている状態で拙速に共同親権制度の導入を先行させる要綱を認めることはできない。

8  結語 

 このように要綱では懸念される新たな類型の紛争の発生に対する対応が示されず、DV・虐待事案を除外する方策が講じられていない。その上、「離婚後共同親権制度」の導入に対応する家庭裁判所の人的物的体制は極めて不十分であることに鑑みれば、要綱に基づく「離婚後共同親権制度」を導入する民法改正は拙速のそしりを免れない。
 よって、自由法曹団は、同要綱をそのまま具体化し、「離婚後共同親権制度」を導入する民法改正の拙速な動きに強く反対する。

以上

※1 https://twitter.com/shiba_masa/status/1749925518865273271?s=20

※2 https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2023/2023_2.html

※3 https://www.bengo4.com/c_18/n_16520/

 

 

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