2025年5月26日、自民党・西田昌司参議院議員の「ひめゆりの塔」に関する歴史修正主義発言に強く抗議し、 発言の誤りを認めた上で真摯に謝罪することを求める決議
自民党・西田昌司参議院議員の「ひめゆりの塔」に関する歴史修正主義発言に強く抗議し、
発言の誤りを認めた上で真摯に謝罪することを求める決議
1 自由民主党・西田昌司参議院議員(京都府選挙区)は、2025年5月3日に那覇市内で開催された「憲法シンポジウム」での講演で、「ひめゆりの塔、何十年か前、国会議員になる前にお参りにいった。あそこ、今はどうか知りませんが、ひどいですね。」「日本軍がどんどん入って来て、ひめゆりの隊が死ぬことになった。アメリカが入って来て、沖縄が解放された、そういう文脈で書いている。」「歴史を書き換えられるとこういうことになる。」「沖縄の場合には、地上戦の解釈を含めて、かなりむちゃくちゃな教育のされ方をしている。」「自分たちが納得できる歴史を作らないといけない。それをやらないと、日本は独立できない。」などと発言した(以下「西田発言」という)。
2 ひめゆりの塔・ひめゆり平和祈念資料館における記載・展示は、「ひめゆり学徒隊」を構成した沖縄師範学校女子部・沖縄県立第一高等女学校の同窓生たちによる、その言語を絶する壮絶な戦場体験の証言、「戦争トラウマ」の苦しみが続くなか絞り出すように語られた言葉と、これを支える客観的資料にもとづき、歴史研究者、学芸員ら専門家も交えて検討され、構成されたものである。西田発言はこのような展示について、具体的事実の指摘もないまま「歴史を書き換えられ」た、と主張するものであり、ひめゆり学徒隊の犠牲者、証言者を冒涜し、また、沖縄戦研究の成果を貶めるものと言うしかない。
3 西田氏は、5月9日にいたって記者会見で、「丁寧な説明なしにひめゆりの塔の名前を出して講演したこと」についてひめゆりの塔の関係者・沖縄県民に「謝罪」し、発言を「訂正・削除」すると述べた。しかし、同会見では、西田氏が2004年にひめゆりの塔を訪れた時点では、年表に、「日本の『侵略』により戦争が始まり、米軍の『進攻』又は『反攻』により戦争が終わった」との記載があり、当時「まさに東京裁判史観そのもの」と感じたが、展示内容が「2022年1月にリニューアルされた」ため現時点では確認できない、と主張したうえで、西田発言中の「沖縄の場合には、地上戦の解釈を含め、かなりむちゃくちゃな教育のされ方をしている。」という部分については撤回・謝罪はしない、と強弁した。
4 このような西田氏の対応は謝罪に値しないばかりか、沖縄における地上戦の解釈およびその教育内容について、非難を重ねるものであり、発言の撤回にすらなっていない。そして、これら一連の発言等は、アジア太平洋戦争が日本による侵略戦争であったという史実や、「日本軍がどんどん入って来て、ひめゆりの隊が死ぬことになった。」、すなわち、ひめゆり学徒隊や、沖縄戦当時の沖縄県民の多数の犠牲の原因が、皇民化教育やあらゆる社会生活の軍国主義化による県民の戦争動員への強制、「皇土防衛」のための「捨て石」として沖縄での持久戦を強いた大本営の戦略、そして、日本軍による沖縄県民の虐殺、集団自決の強制にあるという史実を否定し、塗り替えようとするものにほかならない。西田氏自身が「自分たちが納得できる歴史を作らないといけない。」と述べたことに端的に示されるように、このような発言が歴史修正主義に基づくものであることは明らかである。
5 西田発言が企むような、沖縄戦、そしてアジア太平洋戦争全体における日本政府・日本軍の責任を否定しようとする歴史修正主義に基づく言動は、過去にも繰り返されてきた。それらは枚挙に暇がないが、西田発言も強調する教育分野においては、1982年と2006年に、教科書の記述における、県民虐殺や集団自決における軍の強制の記述を教科書検定で削除させたことがあり、そのたびに、沖縄県民より猛烈な抗議の声があげられ、記述は復活することとなってきた。今回の西田発言に対しても、当然、多数の沖縄県民から抗議の声が上げられている。西田氏は、「何度同じ叫び声を上げなければならないのか」という沖縄県民の怒り、失望、不信に思いをいたし、自身の言動を真摯に反省し、謝罪すべきである。
6 1989年よりひめゆり平和祈念資料館学芸員をつとめ、戦後生まれではじめて館長となった普天間朝佳・現館長は、「沖縄戦を知る事典 非体験世代が語り継ぐ」(吉浜忍ほか編)において、「今『ネット』では、これまでの調査研究によって積み上げられてきた『沖縄戦認識』や『沖縄戦後史認識』を根拠もなく否定し、『反日的である』『左翼的である』と誹謗する言説がばらまかれています。そこには史実に対する真摯な姿勢がないばかりでなく、沖縄戦で理不尽に、虫けらのように殺されていった人びとのことを“自分ごと”として考える想像力もないように思います。」と述べられている。
西田発言も、まさにこのような発言にほかならないが、「ネット」上の妄言ではなく、現参議院議員が、「憲法シンポジウム」において行った発言である。このような発言を行い、真っ当な謝罪も発言の訂正も行わない西田氏に、国会議員の資格はない。
7 私たち自由法曹団は、西田昌司参議院議員に対し、自らの発言が誤っていたことを認め、沖縄県民及びすべての戦争被害者に対し真摯に謝罪することを強く求めるとともに、戦前・戦時下における日本政府、日本軍による沖縄県民に対する人権侵害の史実を否定しようとする歴史修正主義を許さず、真実を語り継ぐ一員となるために尽力する決意を、ここに表明する。
2025年5月26日
自 由 法 曹 団
2025年沖縄・5月研究討論集会