2025年5月26日、「イスラエルによるパレスチナ攻撃の即時停止・パレスチナ占領政策の終結及び 日本政府に国際社会における法の支配を徹底する立場に立つよう求める決議」

カテゴリ:国際,国際平和,決議

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イスラエルによるパレスチナ攻撃の即時停止・パレスチナ占領政策の終結及び
日本政府に国際社会における法の支配を徹底する立場に立つよう求める決議

 

1 2023年10月7日にイスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区に対する大規模な侵攻を開始してから、1年7か月が経過した。本年1月には、ガザ地区をめぐって、イスラエルとイスラム組織ハマースが3段階からなる停戦案で合意したものの、ガザからの完全撤退が盛り込まれた第2段階への移行にイスラエル側が応じず、3月18日に攻撃が再開された。イスラエル軍は今もガザ地区及びヨルダン川西岸地区での民間人殺害、生活インフラの破壊、支援物資搬入妨害などによって、パレスチナ人の人道危機を増幅し続けている。
 現地保健当局の発表によれば、2023年10月から2025年4月20日までで、ガザ地区では、確認された死者数は少なくとも5万1305人(うち少なくとも1万7400人が子ども)、負傷者数は少なくとも11万7096人にのぼり、攻撃再開後の確認された死者数は少なくとも1928人(うち少なくとも500人が子ども)、負傷者数は少なくとも4683人にのぼっている。[1]さらにイスラエルは、本年3月2日からガザ地区への物資搬入を止めており、それから3か月が経とうとしている今、ガザ地区の人道状況はいっそう壊滅的なものとなっている。
 ヨルダン川西岸地区においても、現地保健当局によれば、死者数は少なくとも905人(うち少なくとも181人が子ども)、負傷者数は7370人以上に上っている[2]

2 イスラエルによるパレスチナ攻撃は、パレスチナ人およびパレスチナ社会をあたかも根絶やしにするかの如きものであって、集団殺害罪の防止および処罰に関する条約(ジェノサイド条約)が禁止する集団殺害と断じるほかない。その根底には、1948年のイスラエル国家建国から続く入植型植民地主義や人種差別・民族差別がある。イスラエル国家建国は約70万人のパレスチナ難民を発生させ、以来3次にわたる中東戦争の中、イスラエルは1967年の第三次中東戦争以来ガザ地区とヨルダン川西岸の違法な占領を続けてきた。
 2024年7月、国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルにおけるパレスチナ占領を国際法違反とする勧告的意見を発出し、これを受けて緊急特別会合を開いた国連総会が9月18日にイスラエルにパレスチナでの占領政策を1年以内に終わらせるよう求める決議を124か国の賛成多数で採択するなど、グローバル・サウス諸国を中心に国際社会によるイスラエル批判が今、かつてなく高まっている。

3 2024年11月21日には、国際刑事裁判所(ICC)が、ガザ紛争における戦争犯罪及び人道に対する罪の疑いで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相及びヨアヴ・ガラント前国防相に対する逮捕状を発付した。逮捕状発付にあたり、ICC第一予審裁判部は、同2名が、「意図的かつ故意に、ガザ地区の民間人から生存に不可欠な物資を奪った」、「人道救援活動へのアクセスに対する制限について、国際人道法に基づく明確な軍事的必要性またはその他の正当化を特定できない」、「食料、水、電気、燃料、および特定の医療品の不足が、ガザの民間人の一部を破壊することを意図した生活条件を作り出し、その結果、栄養失調と脱水症による子どもを含む民間人の死をもたらした」と信ずるに足る合理的な根拠があり、「医療物資や医薬品、特に麻酔薬や麻酔器がガザに入るのを意図的に制限したり防いだりすることで、二人は治療を必要とする人々に非人道的な行為によって大きな苦痛を与えていることの責任も負っている」などと述べた上、同2名が、ガザ紛争中の公務において、「戦争手段としての飢餓という戦争犯罪」「殺人、迫害、その他の非人道的行為に対する罪」に関して、刑事責任を負うと信ずるに足りる合理的な根拠があると述べた[3]。
 同逮捕状発付は、ICC加盟国124か国に対して同2名が自国内で発見された場合に逮捕義務を課すものであり、ガザ地区での暴虐についての責任追及を確保するための重要な一歩であった。
 しかるに、ドナルド・トランプ米大統領は、本年2月、ICCが上記逮捕状を発付し権力を乱用したなどとして、ICCの職員やその活動を支援する人々の資産凍結と入国禁止の制裁を可能にする大統領令を発令し、実際にICC検察官に制裁を科すに至った。
 戦争犯罪・人道に対する罪の責任追及確保のためにICCの果たす役割は極めて重要であり、米国による制裁は、このようなICCの権限行使に深刻な影響を生じさせるだけでなく、捜査に携わるICC職員を威迫し、また被害者を支援する市民社会組織等を含むICCとの幅広い協力関係に対して萎縮効果を及ぼすものであり、強く非難されるべきものである。

4 自由法曹団は、イスラエルに対し、直ちに無条件でガザ地区とヨルダン川西岸地区の違法な占領をやめてイスラエル軍を撤退させるとともに、恒久的停戦によって、パレスチナの人々が当然に有しているはずの生命、身体、財産、居住の権利、移動の自由、教育を受ける権利その他の基本的人権すべてを保障・尊重するよう、繰り返し強く求める。
 また日本政府に対しては、イスラエルに対して、即時停戦と軍の撤退・違法な占領政策の終結を強く求めるとともに、米国政府に対しても、上記大統領令の撤回を求めるなど、国際社会における法の支配を弱め・破壊する行為に対して敢然と立ち向かい、国際法遵守を求める立場から国際社会に働きかけ、誰もがひとしく恐怖と欠乏から免れ平和のうちに生存できる世界の実現に向けた先頭に立つよう求める。

[1] https://www.aljazeera.com/news/2025/3/18/gaza-tracker
[2] https://www.aljazeera.com/news/longform/2023/10/9/israel-hamas-war-in-maps-and-charts-live-tracker
[3] https://www.icc-cpi.int/news/situation-state-palestine-icc-pre-trial-chamber-i-rejects-state-israels-challenges#:~:text=Today%2C%20on%2021%20November%202024%2C%20Pre-Trial%20Chamber%20I,and%2019%20of%20the%20Rome%20Statute%20%28the%20%E2%80%98Statute%E2%80%99%29.

 

2025年5月26日

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