2025年5月26日、「労働基準法解体につながるデロゲーションの拡大ではなく、真に労働者の権利を擁護するための立法に向けた労政審での議論がなされることを求める決議」

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労働基準法解体につながるデロゲーションの拡大ではなく、真に労働者の権利を擁護するための
立法に向けた労政審での議論がなされることを求める決議

 

 厚生労働省(以下「厚労省」という)は、労働基準関係法制の法的論点の整理、及び働き方改革関連法の施行状況を踏まえた、労働基準法等の検討を行う研究会として、労働基準関係法制研究会(以下「労基研」という)を設置した。労基研は、その後16回の研究会を開催し、2025年1月8日付で、「労働基準関係法制研究会報告書」(以下「報告書」という)を取りまとめた。
 現在、厚労省の諮問機関である労働政策審議会(以下「労政審」という)では、労働条件分科会を中心に、報告書の内容を踏まえ、2026年通常国会での立法化に向けた議論が開始された。
 上記報告書の最大の問題点は、労働基準法の解体につながる、法定基準の労使の合意等による、「法定基準の調整・代替」、すなわち「デロゲーション」をさらに拡大することを見据えた内容となっていることである。
 労働基準法の趣旨は、使用者と労働者の間に存する経済力・交渉力格差から、法律により労働条件の最低基準を定めることで契約自由の原則を修正し、労働者の保護を図ることにあり、これは、憲法27条2項に基づくものである。しかし、報告書は、「労使の合意等の一定の手続の下に個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とする仕組みとなっていることが必要」であるとし、「それを支える基盤として実効的な労使コミュニケーションを行い得る環境が整備されていることも必要」などとして、「法定基準の調整・代替」ないし「デロゲーション」の拡大を見据えた内容となっている(この点は、2025年2月25日付「労働基準関係法制研究会報告書の問題点を明らかにし、労働者の権利保護のための議論を求める意見書」に詳述した通りである)。
 「法定基準」を、「労使コミュニケーション」の名のもとに適用除外を認める「デロゲーション」を拡大・一般化させることは、労働基準法の最大の役割を骨抜きするものであり、同法の解体につながるもので、断じて許されるものではない。
 労政審では、使用者代表委員から、既に「法定基準の調整・代替」ないし「デロゲーション」の必要性が説かれ、その一つである裁量労働制のさらなる拡大を求める意見もなされている。

 このような基準・規制緩和のニーズが出されるのは、使用者側・財界からである。労働者の権利を擁護する自由法曹団として、今後の労政審において、「法定基準の調整・代替」ないし「デロゲーション」の拡大=労基法の解体につながるような議論がなされることに断固反対し、労働者の権利を擁護するという労基法の趣旨をいっそう実現していくために、労働基準法の規制内容・方法を強化するための議論を求めるものである。
 また、労基法上の「労働者」性については、報告書の内容を踏まえ、「労働基準法における「労働者」に関する研究会」が立ち上げられた。この研究会において、「労働者」として保護されるべき者が確実に保護されるよう、適切な推定規定を設けることなどを含めた議論がなされることに期待する。また、その議論の場には、企業経営者や研究者だけでなく、請負委託で働いている人、プラットフォームワーカー、労働組合関係者、法律家団体関係者等が参加の上、「国内外の実態や国際的な動向」を把握できる機会を提供し、広く、労働により生活する者の権利や健康を実質的に保護する立法につながる議論・検討を進めることを、強く求めるものである。

 

2025年5月26日 

自  由  法  曹  団
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