2025年10月20日、「治安維持法100年を迎え、改めてすでに成立した治安立法を廃止し、 「スパイ防止法」制定の策動を断固阻止するべく奮闘する決議」

カテゴリ:決議,治安警察

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治安維持法100年を迎え、改めてすでに成立した治安立法を廃止し、
「スパイ防止法」制定の策動を断固阻止するべく奮闘する決議

 

1 今年は、天皇絶対の専制政治による国民弾圧の武器として猛威を振るった治安維持法の制定から100年を迎える年である(1925年3月19日成立、同4月22日公布、同5月12日施行)。
 治安維持法は、政党政治と大正デモクラシーの高揚期にあって、普通選挙法と抱き合わせで成立した。第1条で「国体を変革しまたは私有財産制度を否認することを目的として結社を組織しまたは情を知りてこれに加入したる者は10年以下の懲役または禁錮に処す」と定められた通り、制定当初は結社の自由を侵害する治安立法で、かつ、最高刑は懲役10年であった。
 しかし、小さく生まれた治安維持法は、幾度となく改悪がなされて史上最悪の弾圧立法と化した。1928年には天皇の緊急勅令によって最高刑を死刑に引き上げ、目的遂行寄与罪を新たに設けて、目的意識がなくとも当局が「結社の目的遂行のためにする行為をなしたる者」と認定さえすれば処罰の対象となるなど対象を思想弾圧にまで拡大した。また、1941年には処罰範囲が広げられただけでなく、治安維持法被告事件については二審制となり、指定弁護人制度や予防拘禁制度、検面調書に対する特別の証拠能力付与など司法に対する制限なども設けられ、完成形に至った。
 治安維持法は、その実行を担った特別高等警察による無法な拷問によって、小林多喜二をはじめとする知識人など幅広い人々を虐殺した。同法による国内検挙者数は7万5000人を超え、弾圧による死者は拷問死した93人を含め500人余にのぼる。なお、ここには、治安維持法改悪に帝国議会で反対して殺された山本宣治など暗殺された者は含まれておらず、これらの者も含めれば被害の規模はさらに甚大である。また、日本国内だけでなく、当時の植民地であった朝鮮や台湾、旧満州国でも死刑を含む弾圧が横行し、植民地独立運動を弾圧した。この状況下にあって布施辰治などの自由法曹団員は果敢に治安維持法被告事件の弁護に取り組んだが、弁護活動を理由とする不当な有罪判決や弁護士資格の剥奪がなされるなど治安維持法はここでも猛威を振るった。
 治安維持法は制定後20年余にわたって侵略戦争の遂行を支え続け、第二次世界大戦終戦後の1945年10月15日にGHQの命令によって廃止されるまで弾圧立法として国内外で猛威を振るい続けた。

2 日本史上最大最悪の弾圧立法として戦争準備期及び戦時に猛威を振るった治安維持法制定から100年を迎えるいま、再び国内政治は形を変えて改憲策動と並行して次々と治安立法や弾圧立法などを強行的に制定し続けている。例えば、特定秘密保護法、共謀罪法、デジタル監視法、重要土地規制法、経済安全保障法、経済秘密保護法、サイバー先制攻撃法など枚挙にいとまがない。
 また、今秋の臨時国会に向けて、改憲勢力によって「スパイ防止法」の制定の動きが強まっている。スパイ防止法案は、中曽根康弘政権下の1985年に国際勝共連合の後押しのもとで自民党によって提出がされ、外交・防衛にかかわる国家秘密を外国に漏らした者に死刑など厳罰を科す内容で、時の政府が恣意的に構成要件該当性を判断できるなど「現代の治安維持法」といえる悪法であった。同法案は国民的な反対のなかで廃案にこそなったが、今年になって自民党や補完勢力が「スパイ防止法」制定を公約に掲げるなど制定を狙う動きが加速している。
 特筆すべきは、「極左の考え方を持った人たちが、浸透工作で社会の中枢にがっぷり入っている」「極端な思想の人たちはやめてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法だ」「日本も共産主義者がはびこらないように、治安維持法をつくった。『悪法だ』というが、共産主義にとっては悪法だろう。」などと、外国勢力だけでなく「極端な思想の人」を広範に対象とすること、治安維持法を肯定し共産主義思想を取り締まるべき対象であることを明言する公党の代表も現れている点である。また、自民党総裁となった高市早苗氏も、「スパイ防止法」導入を提言した「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」の会長を務めるとともに、総裁選の際には選挙公約に「スパイ防止法」を掲げることを明言するなど看過できない動きを見せている。
 このように特定の思想・言論を取り締まることは、戦前の治安体制下での思想弾圧に対する反省から生まれた憲法19条を始めとする精神的自由権を骨抜きにするものであって断固として阻止しなければならない。「戦争する国づくり」が急速に進められ「新たな戦前」といわれるもとで、「国体の変革」防止の名のもとに共産主義者だけでなく、社会主義者、宗教者、果ては一般市民にまで対象を拡大させていった治安維持法を現代に復活させるがごとき動きが出ていることは極めて危険であり、国民的な世論と運動を高めることが急務である。

3 以上を踏まえ、自由法曹団は、治安維持法100年を迎える年に治安維持法を復活させるかの動きが出ていることに警鐘を鳴らし、特定秘密保護法に代表される数々の治安立法を改めて廃止するべく奮闘することを、また、「スパイ防止法」制定の策動を断固阻止するべく奮闘することをここに決議する。

 

2025年10月20日

自 由 法 曹 団
2025年茨城・筑波山総会

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