2025年10月20日、「佐賀県警察における不正なDNA型鑑定につき第三者機関での徹底検証及び全国的な調査の実施を求めるとともに、警察の情報収集活動について法規制を求める決議」
佐賀県警察における不正なDNA型鑑定につき第三者機関での徹底検証及び
全国的な調査の実施を求めるとともに、警察の情報収集活動について法規制を求める決議
1 2025年9月8日、佐賀県警察(以下、「佐賀県警」という。)は、科学捜査研究所(以下、「科捜研」という。)に所属する技術職員が、およそ7年余にわたってDNA型鑑定につき、130件もの不正行為をしていたことを明らかにした。不正行為の内容としては、DNA型鑑定結果の捏造、残った試料を廃棄・紛失したため別の試料へのすり替え、ワークシート記録日時やDNA濃度の計測結果の改ざん、分析結果の波型の改ざんなど、悪質な行為を繰り返していたというものである。また、佐賀県警の説明によれば、130件の不正行為のうち16件の鑑定結果は証拠として佐賀地方検察庁に送られており、鑑定資料が残っている124件について再鑑定を行ったところ当初鑑定と8件に食い違う結果が出たとのことである。
日本の刑事手続においては、虚偽証拠による裁判はそれ自体が再審事由にあたるものであり(刑事訴訟法435条1号)、憲法31条の保障する適正手続きを蔑ろにする行為であって到底許されるものではない。特にDNA型鑑定に代表される科学的証拠は供述証拠と比較して客観性・確実性が高いとされており、捜査の基礎となる重要情報であるが、本件の不正行為は科学鑑定に対する信頼を根幹から揺るがすものであって看過できない。
2 佐賀県警は、不正行為について再鑑定の実施や調査を行い、不正行為すべてについて捜査・公判への影響はなかったと結論付けているが、捜査機関内部でのみ実施された調査結果を信頼することなど到底できない。また、警察庁は佐賀県警に対して首席監察官らによる特別監査を実施するとしているが、結局は警察内部の調査であって第三者ではなく公平性・中立性にはなおも疑問が残る。
本件の不正行為について、警察内部での調査にとどまらず警察組織から独立した第三者調査機関を速やかに設置し、詳細な事実関係、背景、捜査公判に影響がなかったのか、なぜ7年余にもわたり不正行為が看過されてきたのかなどについて、捜査機関や裁判所のみならず被疑者、被告人及び弁護人であった者らへの聴き取りも含めて徹底的な調査が行われる必要がある。併せて、再発防止に関する具体的な方策も検証し、提言される必要がある。
3 さらに、佐賀県警が関与していない事件でもDNA型鑑定の杜撰な管理が明らかとなっている。例えば、足利事件では科捜研のDNA型鑑定によって無期懲役が確定したが、再審段階での再鑑定によって科捜研のDNA型鑑定の誤りが明らかとなった。また、乳腺外科医師えん罪事件では科捜研のDNA型鑑定の記録について消しゴムで消されて書き直された箇所等が複数箇所あり、再鑑定に必要なDNA抽出液を廃棄していることが明らかとなっている。ほかにも、飯塚事件では有罪の証拠とされた鑑定資料等を科捜研が全量消費したことが原因で再鑑定ができず、雪冤を果たすための大きな障壁となっている。
これらの事態からすれば、佐賀県警の不正行為は氷山の一角の可能性が高く、佐賀県警以外の全捜査機関において同様の問題が起きていないか徹底的に明らかにされる必要がある。
4 本件の不正行為が起きたのは、日本において科学捜査における鑑定部門が警察組織から独立しておらず、鑑定のルールの詳細が法定されていないこと、また、DNA型の取り扱いを規制する法律がなく、警察内部の取扱いに任されており、国民の監視が行き届いていないことに一端がある。
DNA型についてはさらに、プライバシー権との関係で、取得後の保管に関するルールも存在しないという問題もある。
名古屋市白龍町マンション暴行でっち上げ事件DNA等抹消請求訴訟(名古屋白龍町事件)で2024年8月30日に言い渡された名古屋高裁判決においては、DNA型の抹消を命じる判決の理由として、「公権力によるDNA型の採取、保管及び利用に厳格な規制がなければ、恣意的に悪用されたり、誤用されたりして、誤認逮捕されたりするなどの危険が常に生じ得る」とされ、DNA型を残すことによって事件が捏造されて冤罪を生み出す危険があると指摘された。また、「我が国においても、取得や保有の要件を明確にし、捜査機関から独立した公平な第三者機関による実効性のある監督や・・・憲法の趣旨に沿った立法による整備が行われることが強く望まれるところである(捜査機関内部での検討や捜査機関による推薦を受けた者らによる答申などでは、捜査の便宜等に偏ったものとなってしまう可能性が高い。)」とされ、DNA型について警察内部での取り扱いでは不十分であり、法制化及び独立した第三者機関の設立が必要であると指摘されている。
自由法曹団も同事件を踏まえて、警察の情報管理の在り方を規律する法律が早急に必要であることを昨年の岐阜・下呂温泉総会で決議した。
そして、改めて本件佐賀県警による不正行為を踏まえれば、鑑定のルールやDNA型の取扱いなど、警察の情報管理の在り方を規制する法律の制定が急務であると言わなければならない。
5 よって、自由法曹団は、佐賀県警における不正なDNA型鑑定につき第三者機関での徹底検証及び佐賀県警以外の全捜査機関に対する全国的な調査の実施を求めるとともに、DNA型鑑定のルール化やDNA型の取扱いなど警察の情報収集活動について早急な法規制を求めることを決議する。
2025年10月20日
自 由 法 曹 団
2025年茨城・筑波山総会
