2025年10月20日、「発効日を遅らせることなく最低賃金を速やかに改訂するとともに 最低賃金の大幅引上げと全国一律化並びに中小企業支援を求める決議」

カテゴリ:労働,決議

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発効日を遅らせることなく最低賃金を速やかに改訂するとともに
最低賃金の大幅引上げと全国一律化並びに中小企業支援を求める決議

 

1 国際的なエネルギー・原材料価格の上昇や円安、政治の無策等を背景として物価高騰が続いている。政府が2025年4月18日に公表した2025年3月分の2020年基準消費者物価指数は、総合指数については2020年を100とすると、111.1、前年同月比3.6%の上昇となっている。一方、厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、2025年7月分については、現金給与総額は前年同月比で3.4%増であるが、実質賃金指数は0.2%減となっており、物価上昇に対し賃金上昇が追いついていない。このような状況において、最低賃金の大幅な引上げが喫緊の課題であることは明らかである。
 2025年は中央最低賃金審議会が全国加重平均で目安63円(前年度比6.0%)を引き上げるように厚生労働大臣に答申した。また、「各ランクの引き上げ額の目安」として、A・Bランクを63円、Cランクを64円としており、1円ではあるがCランクをA・Bランクより高い額とした。また、これを受けた各都道府県地方審議会の努力により、全国加重平均で目安額を上回る66円の引き上げが実現し、1121円となった。これにより最も高い東京都の1226円と最も低い沖縄県、高知県、宮崎県の1023円の金額差は昨年より縮まり、地域間格差解消の流れが強まった点は極めて重要であり評価できる。

2 しかし、看過できない今年の問題として、最低賃金の発効日を大幅に先送りする都道府県が急増したということが挙げられる。発効日は、「公示の日から起算して30日を経過した日」(最低賃金法14条2項)が原則であるところ、今回の引き上げでは10月発効は20都道府県に留まり、それ以外の地域では発効日はいずれも来年以降に持ち越される。先送りの理由は使用者の準備期間とされているが、およそ半年もの間、労働者にとって重要な最低賃金を引き上げなくてよい理由には到底なり得ない。また、先送りによって、2025年12月で比較すれば、最も高い東京都と最も低い県の差は275円に拡大し、地域間格差解消の流れに水を差すものとして看過できない。
 最低賃金法は「賃金の最低限を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって労働者の生活の安定を」図ることに目的があるところ(同法1条)、発効日の安易な先送りはかかる精神を没却するものとして許してはならない。

3 また、過去最高額の引き上げとなったはいいが元々の金額があまりにも低額で物価高騰分を補うには足りず、多くの労働者にとり生活改善など実感できない水準である。政府が2024年11月22日に閣議決定した「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済政策」では2020年代に最低賃金全国平均1500円を達成することを掲げてたゆまぬ努力を継続していくことを宣言しているところ、この引上げのペースでは到底2020年代に1500円には達しない。そもそも、最低賃金額が1500円となった場合でも、現在の物価基準を考えれば最低生計費を満たしていないことは明らかであり、1500円にとどまらない更なる引き上げが必要である。

4 同時に、最低賃金の上昇により影響を受ける賃上げ原資が脆弱な中小企業に対する支援も必要である。とりわけ、原材料価格等が高騰を続ける今日においては、より手厚い中小企業支援が求められる。具体的には、助成金制度の拡充や社会保険料等の負担減等の手厚い中小企業支援策が必要であり、また、大企業による不当な条件の押し付けや取引制限などによって中小企業が犠牲を強いられている現状があることからすれば、こうした不当な条件の押し付け等を取り締まる実効的な規制や適正な価格転嫁を実現させる効果的な取り組みも必要である。

5 さらに、地域間格差解消の流れが強まったとはいえ、依然として地域間格差が大きいことも重大な問題である。地域間格差の根拠となっている最低生計費について近時の調査で地域差がほとんどないことが明らかとなっている一方、物価高については全国一律であり、地域別最低賃金制度を維持する必要性は失われたと評価できる。現行制度の地域別最低賃金である限りは必ず地域間格差は残ってしまうという問題があり、かつ、地域別最低賃金の必要性が失われた現状からすれば、地方の最低賃金額を大幅に引き上げて全国一律最低賃金制度を速やかに実施することが必要である。

6 よって、自由法曹団は、今年の最低賃金について発効日を先送りする都道府県に対しては、発効日を遅らせることなく速やかに発効するよう求め、日本政府に対しては、中小企業支援も含めた最低賃金の大幅引上げ策を直ちに講じること、また、最低賃金法の改正を含めた全国一律最低賃金制度の実施を速やかに求める。

 

2025年10月20日

自 由 法 曹 団
2025年茨城・筑波山総会

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