2026年5月25日、「高市政権が進める新自由主義的策動を阻止し、労働者のための労働法制を実現するために奮闘する決議」
高市政権が進める新自由主義的策動を阻止し、労働者のための労働法制を実現するために奮闘する決議
2026年5月25日
自 由 法 曹 団
2026年滋賀びわこ・5月研究討論集会
1 裁量労働制
大企業・財界は、かねてより労働基準法が定める労働時間規制の緩和について強い要求をしてきた。労働基準法改正自体は、労政審・労働条件分科会において、2026年通常国会での法改正に向けて準備が行われてきていたが、その検討過程において、一部使用者側委員からの裁量労働制拡大の議論を行うべきとの意見もあったが、労働者側委員からの強い反対意見もあり、裁量労働制拡大に向けた具体的な議論は進められてこなかった。
しかし、2025年10月21日に高市政権発足後、労働時間規制緩和に向けた検討指示がなされ、突如として首相直轄の日本成長戦略会議において、労働時間規制の緩和等に向けた議論がなされることになった。かかる議論は、高市首相の施政方針演説においても触れられたように、裁量労働制の見直しを含むものとなっている。同会議は、本年3月11日(第1回会議)、同年4月3日(第2回会議)、同年4月22日(第3回会議)に実施され、本年5月に取りまとめを行うという拙速とも呼べる早さで議論が進められている。
日本成長戦略会議は、上記のとおり、首相直轄の機関である日本成長戦略本部の主催する会議であるため、日本成長戦略会議の検討結果をトップダウン方式で労政審・労働条件分科会に押しつけられる危険が高い。それだけでなく、労政審・労働条件分科会の委員構成(公労使三者が等しい人数構成)と異なり、日本成長戦略会議では労働者側の立場からの有識者委員は1名のみであり(学者を除き使用者側は7名)、労働者の立場を十分に踏まえた公正・公平な議論がなされることがおよそ考えられない偏った構成となっている。
加えて、裁量労働制の拡大を行う立法事実がないことも明らかとなっている。すなわち、2026年3月5日に公表された「働き方改革関連法施行後5年の総点検」のアンケート調査結果では、「労働時間を増やしたい」と回答した労働者はわずか10.5%にとどまる上、そのうちの58.1%の労働者は所定労働時間が週35時間以下であった。また、上記回答者の労働時間増加を望む理由は、41.6%が「たくさん稼ぎたいから」、15.6%が「収入(残業代)がないと家計が厳しいから」との回答であり、収入の増加を求めていることが明白である。そうであれば、みなし労働時間を基準として残業代の支給の有無や金額が決定される裁量労働制の適用拡大は労働者のニーズに合致しておらず、むしろ労働時間の規制の強化を行った上で大幅な賃上げを行うことや、物価高を抑え、実質賃金を上げる経済対策を行うことこそが真に求められているものといえ、高市首相が施政方針演説で述べた「働く方々のお声を」全く踏まえていない裁量労働制の拡大を行うことは到底許されるものではない。
2 解雇の金銭解雇解決制度の突然の議論再開
また、高市政権となってから、長年議論が行われていなかった「解雇の金銭解決制度」についても、急遽議論が再開されることとなった。従前の労政審・労働条件分科会では同制度の検討は一度も行われていなかったが、高市首相が誕生した後の同分科会で突如として同制度の導入を前提とする別途の有識者検討会が2026年に発足されることが特に議論を経ることなく発表された。
本来、解雇は、裁判例により確立された解雇権濫用法理、ないし、それを立法化した労働契約法16条により厳格に制限されており、解雇について客観的合理的理由及び社会通念上の相当性を欠く場合は、解雇は無効とされる。そして、その過程において、使用者より、退職条件として一定の金員の提示があったとしても、そのこと自体は、解雇を有効とさせる事情にはならない。このように、現行の解雇をめぐる法制度は、いかに金銭を支払ったとしても、労働者の雇用上の地位を奪うことはできないという立場に立脚している。これに対し、解雇の金銭解決制度は、金銭で労働者の地位を奪うことはできない、という労働法上の極めて重要な制度趣旨を根本から覆すものであり、到底許されるものでない。なお、制度導入時点では、金銭解決の申立権等を労働者側にのみに認める形が取られる可能性もある。しかし、いったんそのような形で導入されたとしても、その後、申立権等を使用者側にも拡大する改正がなされる危険性が高く、申立権の限定の有無にかかわらず、金銭解決制度の導入は許されない。
3 労基署の監督指導の運用をねじ曲げ、限度時間規制を緩和する動き
現在、労働基準監督署の監督・指導の運用として、月の時間外労働が45時間を超えた場合、適法であっても指導対象としている。これは、例え適法であっても、労基法上明文で規定される月45時間の時間外労働を行うことが過労死のリスクが高まることがわかっているため、過労死防止の観点から指導対象とすべきものとされているからである。
しかし、2026年4月9日、自民党・日本成長戦略本部は、「時間外労働を月45時間以内に削減することを求める一律の指導を見直す。その上で、違法な時間外労働とならないように36協定や特別条項の締結に向けた指導・助言を行うこと。」との提言を行っている。
また、同年4月3日の日本成長戦略会議の中でも使用者側委員から、「時間外労働時間が45時間を超えた場合には、適法の範囲内であっても指導があるという声も中小企業から聞いております。こういった指導が取り締まり当局からの指示として来ることで、企業活動を萎縮させているという実態があるのではないかと考えております。規制を受ける中小企業の視点から申し上げれば、労働基準監督署が行う指導は、やはりできるだけ簡素で透明性の高い、分かりやすいものにしていただきたいと思います。どのような時にどういった形で指導されるのかをより明確にしていただいた上で、適法内の時間外労働に対して指導するのではなく、法制度の違反あるいはその事前の予防という観点での指導に限定するべきではないかと考えます。」との意見を述べており、過労死リスクについての認識の甘さが如実に顕れている。労働者の命と健康を軽んじる動きであり、断固として阻止しなければならない。
4 新自由主義に基づく労働規制緩和に反対し労働者の権利擁護のための法制度実現を求める
上記3点に代表されるように、高市政権発足後、高市首相の主導により、大企業・財界の求める労働時間規制の緩和や解雇制限の緩和に向けた検討が急ピッチでなされている。
しかし、労働時間規制は、労働者の命・健康をむしばむ長時間労働を制限・是正するための、労働基準法性の根幹となる規制である。裁量労働制の拡大により、労働者の命と健康を脅かすことになるのは明白であり、断固阻止しなければならない。労働基準監督署の運用に対する干渉行為も同様である。また、解雇の金銭解決制度も、労働者の地位を守るために発展してきた解雇権制限法理を骨抜きにし、解雇の自由化につながる恐れのある危険な制度である。
高市政権によるこれらの策動は、新自由主義に基づく規制緩和をさらに推し進め、労働者の権利を踏みにじるものであり、到底許されるものではない。
自由法曹団としては、このような高市政権による新自由主義的策動に対し断固反対するとともに、労働者の権利や命・健康を守り、賃金の上昇(最低賃金の大幅上昇含む)や、正規・非正規労働の格差を是正するための労働法制の実現を、強く求めるものである。
