2026年10月19日、「政府案による改正再審法成立に抗議し、5年後の再改正に向けて奮闘する決議」
政府案による改正再審法成立に抗議し、5年後の再改正に向けて奮闘する決議
1 2026年7月17日の参議院本会議にて、政府提出の再審法改正案(改正刑事訴訟法)が賛成多数で可決成立した。この政府提出の改正案は、法制審議会刑事法(再審関係)部会による法務大臣への答申を受けて法案化されたものである。政府案と並行して国会に提出され、審議されていた野党(中道改革連合、日本共産党、チームみらい)案による改正は今国会では実現しなかった。
2 もともと刑事訴訟法の再審に関する規定は極めて不十分な内容しか定められておらず、具体的な審理手続は担当裁判官の広範な裁量に委ねられるという重大な欠陥があり、それにもかかわらず1948年の現行刑事訴訟法制定以来、実に78年間にわたって一度も改正されてこなかった歴史がある。そのような再審法が78年もの時を経てようやく改正するに至ったこと自体は画期的というべきである。
3 しかし、今回成立した改正再審法は、次に述べるように、極めて重大な欠点を残すものと言わなければならない。
第一に検察官の不服申立て禁止に抜道を認めた点である。検察官による不服申立ては、憲法で定める二重の危険の禁止原則に抵触するだけでなく、えん罪被害者の早期雪冤を阻んできた悪法的規定である。えん罪被害者の早期救済のためには是が非でも明文による禁止が必要であった。ところが、政府案のもととなった法制審答申では再審開始決定に対する検察官の不服申立ては一切禁止されておらず、法案を国会に提出する段階で、えん罪被害者や元裁判官、学者、市民からの大きな反対の声を受けて、ついに不服申立ての「原則」禁止に踏み切ったものの、最終的には、「十分な根拠がある場合」という例外要件のもとで不服申立てが認められるようになり、抜け道が残されてしまった。その上「十分な根拠」という極めてあいまいな要件の解釈により原則と例外が逆転する危険性も否定できない点で、改正法には重大な欠陥が残されている。
第二は証拠開示に関する問題である。改正再審法では、通常審における弁護人への証拠開示のような制度ではなく、 証拠提出命令」という検察官が裁判所に手持ち証拠を提供する職権主義的な制度が導入され、提出の対象となる証拠の範囲も「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」に限定された。しかも、必要性や相当性といったその他の要件も付加され、実質的な証拠開示の範囲は極めて狭く制限されている。こうした制限は、弁護人請求による場合だけでなく、裁判所の職権による場合にも妥当するとも解釈しうるため、職権による証拠開示が認められる余地が極めて狭められる可能性がある。袴田事件や日野町事件などの多くの再審無罪事件で、開示証拠が雪冤に向けた大きな力を発揮しているように、証拠開示は再審無罪への生命線とも言える。証拠開示の態様や範囲を制限しようとする改正法には依然として克服すべき課題があると言わなければならない。
第三は、そのようにして開示された証拠につき目的外使用が禁止され、その違反に対する刑罰が規定された点である。再審事件を闘うには、えん罪被害者を支援する救援運動や支援者らによる検証活動等を通じて世論を突き動かすことが不可欠である。これまでの再審無罪事件を見ればそのことは明らかである。目的外使用禁止による制限や罰則規定による制限は、こうした救援運動や検証活動を不当に萎縮させ、また阻害するものであって認められない。
第四は、再審請求を受けた裁判所が証拠開示や事実の取調べを行うことなく書面審査によって請求棄却とすることを義務付ける「スクリーニング制度」が導入された点である。証拠開示や事実の取調べもなく、安易に再審請求が棄却されてしまうかもしれず、無実の罪を着せられているえん罪被害者の救済という趣旨が没却される危険性がある。
4 ただし、今般の再審法改正の動きは、えん罪被害者や弁護団、各地の自由法曹団員、国民救援会が中心となって、各弁護士会や日弁連などを巻き込んで進めてきた広範な市民による再審法改正運動の成果にほかならない。78年にわたって閉ざされていた再審法の厚い壁に、市民による再審法改正運動が風穴を開けたのである。再審法改正運動は、地方議会での意見書採択や首長の意見表明等を獲得することに精力的に取り組み、全国の自由法曹団員も国民救援会の一員として、あるいは各弁護士会の会員として再審法改正運動に尽力してきた。意見書採択に漕ぎつけた地方議会数は全国の過半数にものぼり、複数の都道府県で全地方議会での意見書採択が実現している。こうした地道な取り組みが世論の作り上げ、国会での超党派議連の結成につながるとともに、超党派議連案による立法を強力に後押しする役割を果たしたことは決して忘れてはならない。
5 また改正法の附則2条に政府が法律施行後5年ごとに証拠開示にかかる制度を含む再審制度の在り方について検討することが盛り込まれた。今後はこの規定を梃子にした 5年後の再改正を実現させるための取組みが始まることとなる。とりわけ改正法のもとで闘う再審事件において、新しい諸制度をえん罪被害者の権利救済につなげられるよう、法運用や法適用の場面で今まで以上の積極的な取組みや、さらなる前進を勝ち取ることが求められる。
自由法曹団は、重大な欠点を残したまま改正再審法を可決成立させたことについて断固抗議をするとともに、5年後の再改正に向けた積極的な取組みを進めて奮闘することを決意する。
2026年10月19日
自 由 法 曹 団
2026年東京・浅草総会
