2020年3月4日付、「少年法の適用年齢の引下げに反対する~年長少年に対する新たな処遇制度案(「別案」)では適用年齢引下げの弊害は解消されない~」声明を発表しました。

カテゴリ:声明,子ども・教育

少年法の適用年齢の引下げに反対する~年長少年に対する新たな処遇制度案(「別案」)では適用年齢引下げの弊害は解消されない~

1 法制審議会少年法・刑事法部会での議論
 法制審少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下「法制審部会」という)では、2022年4月1日の改正民法施行により成人年齢が20歳から18歳に引下げられることにあわせて、少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げるべきか否か、また引き下げた場合に少年法の適用から外れる18歳及び19歳の年長少年を対象とする「新たな処分」等について検討が行われてきた。そして2020年2月までに法制審の答申のとりまとめ、さらに2020年通常国会への適用年齢引下げ法案の提出を想定した議論が進められてきた。
 ところが、2019年12月9日、突如、事務局から18歳・19歳の年長少年を対象とする「新たな処分」に代わり、「別案」が示されるなど、従来の議論の方向を転換しようとする動きがあり、2020年2月の法制審答申のとりまとめは見送られている。
 しかし、少年法の適用年齢の引き下げそのものに重大な問題があるのであって、「新たな処分」はもとより、「別案」によっても、問題が解決されるものではない。以下、少年法の適用年齢の引き下げ自体を行うべきではないことを重ねて明らかにするものである。

2 少年法の適用年齢を引き下げるべきではない
 少年法は全件送致主義のもと、成人では不起訴処分となる事件でも全て家裁に送致され、家裁調査官が少年の資質だけでなく、少年犯罪の背景にある家庭環境や学習環境等をきめ細かく調査し、その調査をふまえて家裁が教育的な観点から処遇を決定する。
 このように少年の事情に即して手続や処遇が行われるのは、少年の成長発達権を保障し、立ち直りや「育ち直り」を図るためである。とりわけ、18歳・19歳の者は進学や就職等、それまでの生活環境が大きく変化する時期であり、挫折や新たな人間関係に伴うトラブル等にも直面しやすい時期である。かかる時期にこそ少年法による教育的な関与が必要であるが、適用年齢が引き下げられると、18歳・19歳の者には少年法の手続に従った環境調整や教育的処遇が図られず、成長発達権を保障しえなくなるおそれが強い。
 法制審部会の検討においても、現行の少年法に基づく教育的処遇が18歳・19歳の者の更生や再犯防止に大きな役割を果たしていることは共通認識とされている。
 そもそも、少年法の適用年齢の引下げは民法の成人年齢引下げに合わせることを目的とするものであるが、飲酒や公営ギャンブルについて20歳未満の禁止が維持されることからも明らかであるが、適用年齢は当該法律の目的ごとに定められるべきものである。ましてや、適用年齢引下げにより大きな弊害が生じることが分かっているにもかかわらず、無理に年齢の統一を図ることはむしろ不合理と言うべきである。
 したがって、少年法の適用年齢は現行の20歳未満から引き下げるべきではない。
【自由法曹団意見書「少年法の適用年齢引き下げに反対する」(2018年4月26日付)及び「改めて少年法の適用年齢の引き下げに反対する」(2019年3月26日付)参照】

3 新たな処遇制度によっても引き下げによる弊害は解消されない
 これまでの法制審部会では、18歳・19歳の者が不起訴や略式罰金処分となった場合、少年法による教育的な関与がないままに放置されてしまうという少年法適用年齢引き下げの大きな弊害を軽減する観点で、18歳・19歳の者が不起訴処分となった場合に、家裁に送致されるという「若年者に対する新たな処分」が検討されてきた。
 しかし、「若年者に対する新たな処分」は、理論的にも問題点が多く、教育効果の実効性の観点からも多数の疑問が指摘されてきた。そのため、2019年12月9日の部会第21回会議において、それまで議論されてきた「若年者に対する新たな処分」等に代わるものとして、「別案」が法務省から提案された。同月25日の部会23回会議においては、「別案」をさらに具体化させた制度として、「甲案」と「乙案」が提案された。
 「甲案」は、検察官は一定の事件については直接起訴し、それ以外の事件は家庭裁判所に送致するとしたうえで、送致を受けた家庭裁判所は、施設収容処分を含む「新たな処分」を科すことができ、検察官送致(逆送)については現行制度に基づく(一定の事件は「原則逆送」される)というものである。
 「乙案」は、検察官はすべての事件を家庭裁判所に送致するものとしたうえで、送致を受けた家庭裁判所は、施設収容処分を含む「新たな処分」を科すことができるが、一定の事件については、必要的に検察官送致しなければならない(必要的逆送)とするか(「A案」)、必要的逆送制度は設けず現行制度に基づくものとする(「B案」)のいずれかを採用するというものである。
 この「別案」は、検察官が家裁送致しなければならない事件の範囲(甲案と乙案の違い)と、事件送致を受けた家裁が検察官へ送致(逆送)しなければならない範囲(A案とB案の違い)との組み合わせにより制度設計を行う案であるが、これらの制度をどのように選択するかによって、制度の内容が大きく異なる。すなわち、①「一定事件」の範囲如何によって多くの事件が直接起訴の対象とされるおそれがあり、また、②検察官送致(逆送)の範囲が拡大される可能性もあること、③家裁で科される「新たな処分」は行為責任の範囲で定められるとされているが、いかなる処分であれば行為責任の範囲内と言いうるのか明らかではないなどの問題点が残されている。「別案」自体、他の制度の選択や具体的内容の定め方により、家裁が処分に関与しうる権限が制限され、家裁の教育的関与の実効性が大きく損なわれる危険性があることは否定できない。
 さらに「別案」について、どの制度の組み合わせを選択したとしても、18歳・19歳の者を少年法の適用年齢から外して成人とした場合に、なぜ18歳・19歳の者には他の成人の刑事処分と異なって家裁が教育的な関与をなしうるのかという、そもそもの処遇の正当化根拠が曖昧であるという「別案」自体の理論的な問題点は解消されない。
 また、「別案」では、これまで少年法が保護対象としてきた「虞犯」について対象とされていないことなど「別案」には家庭裁判所の教育的関与が限定されてしまうという少年法適用年齢引き下げの弊害が解消されない上に、理論的にも大きな問題点が残されている。

4 まとめ
 少年法の適用年齢を引き下げることなく、18歳・19歳の年長少年についても現行の少年法の適用を継続すれば、このような問題の大きい「別案」を採用する必要性は全くない。
 いま必要なのは「別案」ではなく、年長少年の更生や再犯防止に大きな役割を果たしている少年法を、引き続き年長少年に対しても適用を継続することである。
 したがって、自由法曹団は、少年法の適用年齢の引き下げに強く反対する。

2020年3月4日              

自由法曹団
 団  長   吉 田 健 一

 


(PDFはこちら)20200304 少年法の適用年齢の引下げに反対する~年長少年に対する新たな処遇制度案(「別案」)では適用年齢引下げの弊害は解消されない~

TOP