2020年3月12日付、『「雇用によらない働き方」を拡大する高年法「改正」法案に反対する』声明を発表しました

カテゴリ:労働,声明

「雇用によらない働き方」を拡大する高年法「改正」法案に反対する

1 安倍内閣は、2020年2月4日、雇用保険法等の一部を改正する法律案を閣議決定し、今国会に提出した。同法案は、高年齢者雇用安定法、雇用保険法、労働者災害補償保険法、労働施策総合推進法、労働保険料徴収法等の一括「改正」法案である。また、政府与党は、同法案は日切れ法案であり、審議時間が制約されていると主張している。
 しかし、これらの「改正」法案を一括法案にする必要はまったくなく、充実した審議をするためには、それぞれの法案を分離して審議すべきである。また、日切れ法案とは、予算関連法案、限時法の期間延長のための法案等、年度末等の特定の期日に成立することを前提として審議される法律案であり、高年齢者雇用安定法「改正」法案は日切れ法案に該当しない。

2 高年法「改正」法案は、65歳までの安定した雇用の確保を目的とする現行9条はそのままにして、新たに10条の2を設け、同条1項で、「65歳以上70歳未満の定年の定めをしている事業主又は継続雇用制度を導入している事業主」に対して「当該定年の引上げ」、「65歳以上継続雇用制度の導入」、「定年の定めの廃止」の措置を講ずることにより、65歳から70歳までの安定した雇用を確保する努力義務を定める一方で、但書において「創業支援等措置」によって70歳までの間の就業を確保する場合の例外を設け、同条2項において「創業支援等措置」について「高年齢者が新たに事業を開始する場合に、事業主が、当該高年齢者との間で、委託契約その他の契約を締結し、当該高年齢者の就業を確保する措置」及び「社会貢献事業について、当該事業を実施する者等が、当該高年齢者との間で、委託契約その他の契約を締結し、当該高年齢者の就業を確保する措置」をあげている。

3 この高年法「改正」法案10条の2は、使用者が、労働契約の下で「当該定年の引上げ」等の措置を講ずること(1項)を選ぶのも、高年齢者との間で労働契約を除く委託契約その他の契約を締結する「創業支援等措置」を講ずること(1項但書、2項)を選ぶのも、いずれを選ぶか、まったく自由としている。
 これでは、ほとんどの使用者は、高年齢者を働かせるにあたって労働法の規制のない「創業支援等措置」を選ぶであろう。高年齢者こそ、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、最低賃金法等の労働法の保護が必要である。そうであるのに、「創業支援等措置」は、高年齢者から労働法の保護をすべて奪うのである。
 そもそも、現行高年法は、高年齢者の意欲及び能力に応じた雇用確保を事業主に求め(4条1項)、65歳までの安定した雇用を実現しようとするものであるが、現行9条に基づく「継続雇用制度」ですら、実際は長年従事してきた仕事を奪われ、生活できない条件におかれるなど同法の趣旨に反する事案も問題とされるなど高年法の理念が十分実現されているとはいいがたい。このような現状において、さらに65歳以上に「雇用によらない働き方」を広げることは、65歳未満の労働者にも非雇用化、労働条件低下等の悪影響が及ぶことが懸念される。

4 私たちは、「雇用によらない働き方」を拡大することを可能とする高年法「改正」法案に反対し、高年齢者から労働法の保護をすべて奪う高年法「改正」法案10条の2の「創業支援等措置」(1項但書、2項)をすべて削除することを強く要求する。
 私たちは、今進められつつある「雇用によらない働き方」の拡大、悪用に反対し、労働法の適用とあわせて、年金・医療・介護の拡充等、すべての者が安心して働き、暮らすことのできる制度の拡充を強く要求する。

 

2020年3月12日

自 由 法 曹 団
団長 吉  田  健  一

 


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