2020年6月3日、「新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けているすべての賃借人,賃貸人に対し必要十分な支援を,迅速かつ確実に実施することを求める要請」

カテゴリ:声明,市民・消費者

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けているすべての賃借人,賃貸人に対し必要十分な支援を,迅速かつ確実に実施することを求める要請

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
経済産業大臣 梶山 弘志 殿
厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
国土交通大臣 赤羽 一嘉 殿

 

2020年6月3日

自  由  法  曹  団
団長 吉  田  健  一

【要請の趣旨】

1 不動産賃貸借契約の維持・継続を可能とする賃貸借契約解除の特例に関する特別措置法の制定を求める。

2 居住用家屋(住宅)の家賃支援につき,生活困窮者自立支援法及び同施行規則を改正し,コロナウイルス問題深刻化に苦しむ市民の救済をより広範かつ簡便なものにすることを求める。

3 事業用店舗(テナント)の家賃支援につき,日本政策金融公庫が中小事業者の家賃の全部又は一部を代位弁済し,その求償権につき一定額の免除あるいはその支払いを相当期間猶予し,賃借人の事情に応じて求償権を放棄する制度を創設することを求める。

4 賃貸人が賃料減額に応じた場合の税務上の特別措置や固定資産税等の免除措置等の周知の徹底とともに,店舗等家賃を減額した賃貸人に対して減額した家賃の一部を直接助成する支援制度の創設を求める。

5(1) 家賃債務保証業者等に対して,賃貸人が自主的に家賃の減免に応じた場合に,保証事業者が減免された家賃につき行った代位弁済につき,賃借人に求償権行使しないよう通達することを求める。

 (2) また,上記3の事業用店舗(テナント)の家賃支援制度につき,日本政策金融公庫が行う代位弁済につき,社会経済情勢や当該事業者の事業状況等を考慮したうえで,賃借人に対する求償権の行使を相当期間猶予し,状況に応じて放棄するよう通達することを求める。

【要請の理由】

 政府は,本年4月7日,新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき,7都府県に緊急事態宣言を発出し,同月16日にこれを全国に拡大,5月4日には,同月31日までの延長を決定し(なお,同宣言は同月26日,全都道府県で解除された),これを受けた各都道府県知事は,市民に対して外出自粛と休業等を要請した。その結果,多くの経済活動が停止又は縮小を強いられ,収入が減少するなどして,住居の賃料の支払いに窮する市民が現れている。言うまでもなく,住居は生活の基盤であり,新型コロナウイルスによる収入減少を原因とする賃貸借契約の解除,賃借物件の明渡請求は,何としても防がなければならない。
 また,同様に,緊急事態宣言及びこれに基づく外出自粛及び休業要請等により,中小事業者が,事業用店舗(テナント)の賃料の支払いに窮する事態が発生し,5月28日時点で192件の倒産・廃業が報告されている。かかる件数は,氷山の一角であり,今後も増加すると考えられる。日々の売り上げにより賃料等の固定経費を賄っている中小事業者にとって,賃料が重い負担になっていることがうかがわれる。緊急事態宣言及びこれに伴う外出自粛及び休業要請等が解除された現在においても,感染拡大の第2派,第3波に警戒しなければならない状況下で,収入がすぐに従前の水準に回復する保障はどこにもない。このような事態が続いた場合,市民や中小事業者からの賃料の未支払いにより,賃貸人も生活に困窮する事態が予想される。
 以上のとおり,居住用家屋(住宅)か,事業用店舗(テナント)かの別を問わず,賃借人及び賃貸人の生じている事態は深刻であり,一刻も早い支援が必要である。
 政府は,上記各問題に対処するために,これまでに,生活困窮者自立支援法施行規則の改正する一方,賃貸人に対する税制優遇措置を設けるなどの対策をし,さらに,5月27日,第2次補正予算案を閣議決定し,家賃支援給付金制度を創設する方針も明らかにしている。
 しかしながら,これまで発表されている政府の政策は,いずれの制度においても,対象者の範囲や補償額,利便性等の点で,救済として不十分と言わざるを得ない。
 そこで,自由法曹団は,国民の権利擁護のために活動する法律家団体として現在の賃貸借契約に関する裁判実務も踏まえ,政府に対し,支援を必要とする市民に,迅速かつ確実に,必要十分な支援が行き渡るように,以下のとおり制度の創設,周知,見直し等を要請する。

1 不動産賃貸借契約の維持・継続を可能とする契約解除の特例に関する特別措置法について
 現在の裁判実務では,不動産賃貸借契約の解除については,単に債務不履行があるだけでなく,賃貸人賃借人間の信頼関係が破壊されたといえるか否かがメルクマールとされる。賃料の滞納であれば,個別の事情にも影響を受けるが2~3か月の賃料の滞納がある場合,信頼関係の破壊があると評価される傾向にある。
 もっとも,現在の情勢は,本年3月ころからのコロナウウイルス問題深刻化に端を発し,同年4月から5月にかけて市民の大半の経済活動が停止した。また,同年6月以降も経済活動が直ちに回復するわけでもなく,労働者の場合,勤労に対する給与が翌月払いになるケースがあることも考えると,少なくとも本年7月までは,多くの市民がコロナウイルス問題の発生前の収入が確保できない状況が続き,その状態がその後も継続することが想定される。
 にもかかわらず,不動産の賃借人は,この本年4月から7月にかけた4か月間(以下,「経済停止期間」という。)についても賃料の支払義務を負担せざるを得ない。もちろん,賃貸人の財産保障も必要ではあるが,かかる保護は後記の施策によって補填するものとした上で,不動産賃貸借契約が,賃借人の生活・仕事等の基盤となっていることに鑑み,少なくとも緊急事態宣言が発せられた日から6か月の間は,経済停止期間の賃料不払を理由とする契約解除・明渡し請求を一律制限する旨の特別措置法の制定を急ぐべきである。
 なお,この点に関し,法務省は,本年5月22日,「新型コロナウイルス感染症の影響を受けた賃貸借契約の当事者の皆様へ」と題するQ&Aを発表し,その中で,「新型コロナウイルス感染症の影響により3か月程度の賃料の不払が生じても……(中略)……オーナーによる契約解除(立ち退き請求)は認められないケースも多い」と指摘するところであるが,もともと判例による「信頼関係破壊の法理」は通常の一般賃貸人・賃借人には理解しにくい論理である。
 私たちは,この点につき,基準をより明確にするため,新型コロナウイルス感染症の影響を受ける賃料支払の対象期間を,上記経済停止期間の4か月と明確にし,かつ,同期間の賃料滞納を理由とする解除権の行使,明渡請求を緊急事態宣言発令日から6か月間制限することを法により定め,周知させることを求めるものである。

2 居住用家屋(住宅)の家賃支援策として生活困窮者自立支援法及び同施行規則の改正を求める
(1) 生活困窮者自立支援法及び同施行規則の以下の4点を改正し,コロナウイルス問題深刻化に苦しむ市民の救済をより広範かつ簡便なものにすることを求める。
 ア 同法3条3項の「離職又はこれに準ずるものとして(厚生労働省令で定める事由)」及び「就職を容易にするため」との文言,並びに,生活困窮者自立支援法施行規則10条1号の2年以内に離職又は減収という要件及び同条5号の「誠実かつ熱心に求職活動」を行うという要件を削除し,多くのコロナウイルス問題に苦しむ市民が広く救済されるよう,住居確保給付金の支給要件を緩和すること
 イ 同施行規則10条2号の離職等の前に主たる生計維持者であったことという要件を廃止し,外国人技能実習生を含む外国人,アルバイト収入や親からの仕送りの減少によって学業の継続が困難となっている大学生・専門学校生を住居確保給付金の支援対象に含めること
 ウ 同施行規則10条3号の収入基準及び同施行規則11条の支給上限額を相当程度緩和して運用するものとし,生活困窮者が家賃滞納に陥らないように実効性をもたすこと
 エ 同施行規則18条1項の求職者支援法に基づく職業訓練受講給付金との併給を認めない旨の要件を廃止し,新型コロナウイルス収束後に,失業者がより良い再就職を果たす機会を保障すること
(2) 自力で住まいを確保することが困難な国民に対し,みなし公営住宅など公的賃貸住宅の提供を進め,かつ,公的賃貸住宅における家賃の減免,支払猶予等に柔軟に対応することを求める。

3 事業用店舗(テナント)の家賃支援の拡充を求める
 上記で述べたとおり,政府は,5月27日,第2次補正予算案を閣議決定し,5月~12月のいずれか1か月の売上高が前年同月比で50%以上減少した中小事業者,又は,連続する3か月の売上高が前年同期比で30%以上減少した中小事業者に対し,家賃支援給付金を支給する制度を創設する方針を明らかにした。
 しかしながら,中小事業者には,3月又は4月から営業自粛あるいは外出自粛の影響により売上げが減少し,貯蓄を切り崩して耐えている事業者が存在している。
 しかも,持続化給付金等の支援制度についても,申請方法の煩雑さや支給の遅れなどが指摘されている。
 迅速かつ十分な支援を行い,中小事業者の従業員への給与の支払いを確保しつつ,同事業者の倒産を回避するためにも,対象者に新規事業者も含めるべきであるし,2月~4月の売上高が減少した場合にも給付金を支給すべきである。また,売上高の減少幅についても,1か月の売上高の減少が前年同月比で20%程度であることを基準とすべきである。
 そして,給付上限額が,個人事業者の場合は月額50万円,法人の場合は月額100万円とされている点についても,救済として不十分と言わざるを得ない。
 以上のとおり,国が中小事業者に対し家賃支援することは歓迎すべきであるものの,支給対象者や支給要件,給付額は不十分であり,家賃支援を必要とする中小事業者に十分な支援が行き渡らず,倒産を強いられることは想像に難くない。また,給付金が家賃以外の支払いに充てられ,賃貸人・賃貸事業者が困窮する事態も懸念される。
 そこで,日本政策金融公庫に対する簡易な手続きにより,先ず,日本政策金融公庫が中小事業者の家賃の全部又は一部を賃貸人又は賃貸事業者に対し,直接代位弁済したうえで,その求償権については,一定額(たとえば月額100万円)までは一律免除,一定額を超える部分については,その支払いを相当期間猶予するとともに,社会経済情勢や当該事業者の事業状況等に応じて求償権を放棄する等の制度を創設することを求める。

4 賃貸人及び賃貸事業者に対する直接支援制度の創設を求める
 法務省は,すでに賃料の減免や猶予に応じた賃貸人への支援策として,賃料減額分について税務上の損金として計上することができる旨の明確化や,賃料減免・猶予を含む収入減の額に応じた2021(令和3)年度の固定資産税等の全額又は半額免除等の措置を定めているが,周知が徹底されておらず,賃貸人・賃借人間の協議に十分に反映されているとは言い難い。賃貸人が,損害を被らずに賃借人に配慮できる環境づくりを可能とするため,上記措置の周知及び勧奨を徹底するよう求めるとともに,政府に対し,新宿区実施の店舗等家賃を減額した場合に,賃貸人に対して減額した家賃の一部を助成する支援制度の創設を求める。
 また,賃借人の倒産,廃業,事務所・店舗の閉鎖等により,賃料収入を失った賃貸人に対して,国が支援金を支給する等の支援制度を創設し,可及的な賃貸人に生じる財産的損害の補填を行うことを求める。

5 家賃債務保証業者等に対する指導を求める
(1) 賃貸人が自主的に家賃の減免に応じた場合に,家賃債務保証事業者が減免された家賃について代位弁済したとしても,賃借人に求償権を行使しないよう関係各所に通達することを求める。
(2) 上記3の事業用店舗(テナント)の家賃支援制度につき,日本政策金融公庫が中小事業者の家賃を代位弁済したとしても,社会経済情勢や当該事業者の事業状況等を考慮したうえで,賃借人に対する求償権の行使を相当期間猶予し,状況に応じて放棄するよう通達することを求める。

以 上


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