8月21日付、「育鵬社版歴史・公民教科書の採択案を可決したことに抗議し、採択手続きのやり直しを求める」抗議書を発表しました

カテゴリ:声明,教科書問題

育鵬社版歴史・公民教科書の採択案を可決したことに抗議し、採択手続きのやり直しを求める

 

2020年8月21日

埼玉県教育委員会 御中

 

自  由  法  曹  団

団 長 吉  田  健  一

自 由 法 曹 団 埼玉支部

支部長 島  田  浩  孝

 

 埼玉県教育委員会は、本年8月11日、埼玉県立伊奈学園中学校で2021年度から4年間使用する歴史及び公民の教科書として育鵬社版教科書を採択する採択案を可決した。

 育鵬社版歴史教科書は、「自虐史観」からの脱却を唱え、日本の引き起こしたアジア太平洋戦争が、アジア諸国を欧米の植民地支配から解放することを目的としていたかのように教え、日本の加害責任については曖昧な記述にとどまっている。また、同公民教科書は、国民主権よりも天皇の役割を情緒的に強調し、基本的人権を軽視して、日本国憲法及び平和主義を連合国から押し付けられた憲法であって「改正」すべきものであるかのように教え、国際紛争の平和的な解決よりも、自衛隊を海外に派遣する必要性を強調する内容となっている。育鵬社版教科書の憲法に対する見方はあまりにも一面的で、教育基本法や学習指導要領に照らしても問題がある。このことについて、私たち自由法曹団は、今回の教科書採択に先立って、育鵬社版公民教科書の問題点を明らかにする意見書を公表し、本年7月には貴教育委員会にも意見書を届け、育鵬社版教科書を採択しないよう要請した。

 貴教育委員会では、これまでも育鵬社版教科書が採択されてきたが、これに対しては県民から強く批判がなされてきた。今回の採択案の可決は、かかる批判・反対の声を全く無視して行われたものである。

 採択案で決議された育鵬社版教科書で教育を受けることになる中学生は、人格的成長の途上の重要な時期にあり、育鵬社版教科書によって、上記のような一面的で偏った教育を受けることにより、生徒に回復しがたい重大な悪影響が及ぼされることが強く危惧される。

 また、本件の採択案の決議には手続上も重大な問題がある。今般教育委員の1人がかつて日本教育再生機構の理事に就任していたことが明らかとなった。日本教育再生機構は「歴史と伝統を否定する『戦後教育』が国民の心と体を蝕んでいる」と主張し(同機構結成呼びかけ文)、一貫して育鵬社版教科書の採択活動を支援してきた。育鵬社の宣伝紙「虹」では、同機構について「育鵬社の教科書作成や普及を応援していただいております」と記載され、育鵬社版教科書の見本本の販売を同機構に委託して行っているとしている(同紙vol.22)。このように、同機構は教科書発行者である育鵬社と密接に関連する団体である。同機構の理事職にあった者が、育鵬社が教科書を発行している歴史及び公民教科書の採択に関与するのは、教育委員自身や配偶者・親族に直接の利害関係ある事件の議事に参与できないとする地教行法14条6項の趣旨に反するものである。

 貴教育委員会も、教科書採択に関するガイドラインにおいて、教育委員が教科書発行者及びその関連会社が発行する書籍等の著作・編集に関与した場合は採択に関与できないと定め、市町村教育委員会に対し、教科書発行者と関係がある者を採択事務から確実に外すよう求めている(「市町村教育委員会等が教科用図書を採択する際の留意事項」)。かかる趣旨からして、日本教育再生機構の理事であった教育委員が教科書採択の審議に関与した手続きには、その公正さに重大な疑義があると言わざるを得ない。

 私たち自由法曹団は、貴教育委員会の今回の歴史・公民教科書の採択案の可決に対し抗議するとともに、改めて採択手続きをやり直し、育鵬社教科書を採択しないよう求めるものである。

以上


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