2021年1月22日付、『核兵器禁止条約の発効を歓迎し、核兵器廃絶に向けて日本政府に核兵器禁止条約の批准を求める』(声明)を発表しました。

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核兵器禁止条約の発効を歓迎し、核兵器廃絶に向けて日本政府に核兵器禁止条約の批准を求める(声明)

2021年1月22日
自       由      法      曹      団
団長  吉  田  健  一

1 本日、核兵器禁止条約が発効した。核兵器禁止条約は、核兵器を包括的に禁止した初めての国際条約であり、その発効は核兵器廃絶を大きく進める一歩といえる。平和の問題に取り組んできた当団体としても、核兵器禁止条約の発効は、世界平和にも大きな前進をもたらすものと評価し、心から歓迎するものである。

2 核兵器禁止条約は、2017 年7 月7 日、国際連合総会において、賛成122、反対1、棄権1 で採択され、本日時点で、86 か国が署名し、51 か国が批准(又は加入)している。
 核兵器禁止条約は、前文において、被爆者や核実験の被害者が受けた「容認し難い苦しみに留意し」、核兵器の非人道性と核兵器がもたらす壊滅的な結末を強調して、「あらゆる核兵器の使用は、武力紛争の際に適用される国際法の規則、特に国際人道法の諸原則及び諸規則に違反する」と明言した。そして、核兵器が再び使用されないことを保証する唯一の方法として、核兵器を完全に廃絶することが必要であり、「法的拘束力のある核兵器の禁止」に向けて行動することを宣言する。
 核兵器禁止条約の締約国は、核兵器その他の核爆発装置(以下、「核兵器等」という。)の開発、実験、生産、製造、取得、占有、貯蔵、移譲、使用、使用するとの威嚇の禁止に加え、これらの行為への援助、奨励、勧誘、設置・展開等を他国に認めることも禁止される(1 条)。このように厳しく核兵器等を排除する核兵器禁止条約は、世界の核兵器を廃絶するために大きな役割を果たすことが期待される。
 また、核兵器禁止条約は、核兵器保有国やその傘下の国々に対しても、定められた期限までに国際機関の検証を受けて核兵器等を廃棄する義務を果たすことを前提に、加盟する道が開かれている(4 条)。実際に、北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、国内にも米国の核兵器の配備を受け入れているベルギーは、核兵器禁止条約への署名賛成の世論が60%を超え、2020 年9 月に誕生した7 党連立の新政権は、「核兵器禁止条約が、多国間の核軍縮にどのような新しい弾みを付けられるのかを探求していく」と宣言し、核兵器禁止条約に前向きな姿勢を示している。他にも、各国において核兵器禁止条約への署名・批准を求める市民運動は高まりつつあり、核兵器禁止条約に基づく核廃絶を目指す世界的な流れはよりその力強さを増しつつある。日本における世論調査でも核兵器禁止条約への参加を求める声が多数に上っており、核兵器禁止条約に基づく核廃絶プロセスこそ、世界の市民が求める方策であることは疑いがない。

3 しかしながら、日本政府は、核兵器廃絶という目標は共有していると述べながらも、北朝鮮の核問題等の脅威を強調し、日米同盟下での米国の核兵器による抑止力を維持することが重要であり、核兵器禁止条約は安全保障の観点が踏まえられていないと批判している。日本政府がよって立つ核抑止論は、究極的には核兵器の使用を前提としたものであるが、核兵器等がひとたび使用されれば、人類及び地球環境に取り返しのつかない壊滅的な打撃を与えることは明白であり、このような非人道的結果を許容する核抑止論は安全保障政策としても到底許されるものではない。また、長年にわたる核抑止論に基づく安全保障政策は、未だに全世界に1 万3000 発以上の核兵器の存在を許しており、終末時計を史上最短の100 秒まで押し進めた。したがって、核抑止論は既に破綻しているものというほかなく、核兵器禁止条約への加盟国を全世界へ広げることが、核兵器廃絶への最短の方法である。
 それにもかかわらず、唯一の戦争被爆国である我が国が、極めて危険かつ不合理な核抑止論に基づき、核兵器禁止条約に背を向ける姿勢を取り続けることは断じて許されない。1945 年8 月にヒロシマ、ナガサキに投下されたたった2 発の核兵器は、その年の12 月までに21 万人の人々の命を無惨に奪い、生き残った多数の人々にも放射線等による耐え難い苦しみを与えてきた。2020 年8 月時点の原爆死没者名簿の登録者数は、広島市で32 万人4129 人、長崎市で18 万5982 人に上る。このような非人道的な核兵器は二度と使用されることはあってはならない。このような悲劇を繰り返さないために、核兵器等の使用等を明確に禁止する核兵器禁止条約に参加することは、戦争被爆国として当然果たすべき責務である。
 日本国憲法は、前文において「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全を保持しようと決意し」、9 条において、徹底した戦争放棄、交戦権の否認、戦力不保持を定めているのであり、決して核兵器による恐怖に基づく偽りの平和を意図しているものではない。唯一の戦争被爆国であり、かような崇高な平和主義を掲げる日本が採るべき態度は、まさに日本国憲法の理念を体現する核兵器禁止条約に署名し批准するとともに、さらに日本国憲法9 条の理念を世界に敷衍することである。

4 以上のとおりであるから、自由法曹団は、核兵器禁止条約の発効を歓迎するとともに、日本政府に対し、戦争被爆国として核兵器廃絶のために果たすべき責務として、1 日も早く核兵器禁止条約への署名及び批准をするよう求める。

以上

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