2021年4月1日、「政府による入管法の改悪に断固反対し廃案を求める声明」を発表しました

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政府による入管法の改悪に断固反対し廃案を求める声明

 

2021年4月1日

自  由  法  曹  団

団長 吉  田  健  一

 

1 2021219日、菅内閣は「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下、「法案」という。)を閣議決定し、同日、国会に提出した。
 この法案は外国人に対する長期収容の問題を解消するものであるとされている。現行法では、退去強制令書に基づく収容には期間の制限がなく収容が長期化している。それを解消するために、法案では、一定の場合には収容をせずに社会の中で生活をすることを認め(監理措置制度の創設)、また、速やかな送還を担保する制度(難民認定申請者等の送還停止効の撤廃、送還を忌避した場合の刑事罰の創設等)を設けるなどの措置をとるものとされている。
 もちろん長期収容を含む入管における外国人に対する人権侵害は直ちに解決されなければならない問題である。しかしながら、法案による新制度の創設によっては、長期収容が解消される法的な保証が全くないばかりか、現行の出入国管理制度の問題を無視し、外国人に対する必要な支援を行わない一方で、刑事罰を背景とした強権的な管理を強めるものであって,廃案にすべきものである。以下,法案の問題点を指摘しておく。

 2 第1に、法案は、主任審査官が収容しないことが相当と認めるときは、当該外国人を収容せずに、親族等を監理人とし、監理人による監理に付することにより社会生活を認める「監理措置」を定めている(55条の2、44条の2)。
 この制度は一見、収容を減らすもののようにも思えるが、実際にはその保証はない。外国人が監理措置の対象となるためには、入管が相当と認めた場合でなければならず、その判断は、逃亡の危険、不法就労の危険その他の事情という極めて広範な要素が考慮されることから(52条の2、参照44条の2)、結局は入管の運用次第となるからである。現行法のもとでも仮放免が認められる例は限られている現状があり、このような運用が監理措置制度の創設によって改善される保証はない。したがって、監理措置の創設は長期収容の解消につながる法的な保証は全くないのである。
 また、監理措置の対象となった者(以下、法案の文言に従い「被監理者」という。)には、「住居及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務」等の条件が課され(52条の2、44条の2)、許可なく就労した場合には3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは300万円以下の罰金を科し、又はこれらを併科し(70条、10号9号)、逃亡した場合等にも1年以下の懲役若しくは20万円以下の罰金を科し、又はこれらを併科するものとされている(72条4号)。
 その一方で、法案は、被監理者に対する支援措置についてはほとんど定められておらず、52条の3第3項(参照44の3条第3項)において、監理人に対し、被監理者による条件の遵守の確保に資する目的で、被監理者からの相談に応じ、住居の維持に係る支援、必要な情報の提供、助言その他の援助を行う努めることとされているに過ぎない。
 しかしながら、現行の仮放免制度においても、仮放免者による就労ないし逃亡が問題視されているが、仮放免者がそのような行動をとらざるを得ない背景には、長期収容と収容中の人権侵害、仮放免者に対する厳格な制限と支援の欠如があると考えられる。その問題を無視して、支援を充実させることもなく罰則を科すこととするのは、何らの問題解決にもならず、手段として不必要である。
 このように、監理措置制度は、被管理者に対する人権保護という観点が欠如しており、むしろ被監理者を管理の対象としてしか捉えていないものであり、長期収容を生じさせている現行制度が持つ人権無視の本質は全く変わっていないと評価せざるを得ない。

3 第2に、法案61条の2第3項は、法務大臣において当該外国人が補完的保護対象者に該当すると認めるときは、補完的保護対象者の認定を行うことができるとし、2条3号の2は補完的保護対象者を「難民以外の者であって、難民条約の適用を受ける難民の要件のうち迫害を受ける恐れがある理由が難民条約第1条A(2)に規定する理由であること以外の要件を満たすものをいう」と定義している。正式には難民と認定されない者について、在留を認める範囲を明確化しようというのである。
 しかし、補完的保護対象者に認定するか否かは結局のところ法務大臣の裁量次第となるところ、そもそも難民認定申請のうち、ほぼ100%が不認定とされている現行の運用実態に照らせば、別にこのような制度を創設したところで、適切な認定が行われる法律的・制度的な保障も全くない。
 他方、法案61条の2の9第4項は、難民認定申請又は補完的保護対象者認定申請(以下「難民認定申請等」という。)を過去に2回行って認定されなかった者、及び無期若しくは3年以上の懲役若しくは禁錮に処せられた者等については、原則として難民認定申請等をした場合であっても送還の停止をしないことを定めている。これは、難民認定申請の「濫用」によって、送還の回避が繰り返されることを防止することを目的としたものと説明されている。
 しかしながら、本国から迫害を受けたこと等を理由として難民認定申請をしている者に対して、強制的に迫害のおそれのある本国に帰国させるということは異常な対応であり、国際慣習法といわれるノン・ルフールマン原則に違反する。上記の法案61条の2の9第4項の該当者は、日本も批准している難民条約33条2項において例外的に送還等が禁止されない者よりも広範な者を含むものとなっていることから、難民条約にも違反する。
 そもそも、日本は、他国であれば当然に難民と認定される申請者をも難民認定をしない姿勢をとっており、そのような実態のもので、送還停止効を解消してしまえば、保障されるべき人権が保障されない事態は生じることは避けられず、むしろ送還先の国家による迫害等に加担することは必至である。
 政府の講ずべき措置は、難民認定されるべき申請者に対し、適切に難民認定が行われるように、現行の難民認定制度を抜本的に見直すことであり、申請者に対する送還を促進する制度を設けることは、難民保護に逆行するものである。

4 第3に、法案52条12項は、主任審査官が退去強制令書の発付を受けた者を送還するために必要がある場合に、その者に対し、相当の期間を定めて、旅券の発給の申請その他送還するために必要な行為をするよう命ずることができることを定めている。また、法案55条の2第1項は、主任調査官が一定の理由による退去強制を受ける者を送還することが困難である場合において、相当と認めるときは、その者に対し、相当の期間を定めて、本邦からの退去を命ずることができることを定めている。そして、それらの命令に応じなかったものには1年以下の懲役若しくは20万円以下の罰金を科し、又はこれらを併科することを定めている(72条6号、8号)。
 これらの制度は、送還停止効が認められない難民申請者、家族を有する者、日本で誕生した子どもなど、様々の事情から退去ができない者に対しても、刑事罰をもって送還を強制するものであって、人道上極めて大きな問題がある。そもそも現行法のもとでは、在留特別許可の認定の運用が厳格すぎるという問題があり、その結果、容易に退去強制令書が発付されている。まずはこのような運用を見直すべきであり、それをせずに刑事罰を新設することは本末転倒である。なお、法案では在留特別許可の考慮要素が明文化されることになったが(50条5項)、要件それ自体は「在留を特別に許可すべき事情があると認めるとき」(50条1項5号)と抽象的なままである上、考慮要素として、児童の最善利益(児童の権利条約3条)、家族がともに暮らす自由(自由権規約17条)等、真に必要な事項は明記されていないなど、これまでの運用が改善さえる保証は全くない。
 また罰則の創設により、外国人を支援する市民団体、労働組合、法律家も共犯として処罰される危険があるばかりか、処罰をおそれて外国人支援を躊躇する者が現れることが予想され、外国人の人権保護を大きく後退させることにもつながるものである。
 難民申請者や在留特別許可の申立者が刑事罰で退去を強制されたからといって、任意に退去できるわけでもなく、刑事罰は手段としても関連性を失している。

5 以上のように、法案の内容は、長期収容の解消という目的とはかけはなれたものであるうえに、外国人に対する根本的な人権保障を無視し、外国人に対する管理を強める一方で支援を妨げ、外国人を犯罪者扱いすることによって偏見・差別の助長にもつながりかねない有害なものである。このような政府の対応は、外国人の人権を出入国管理制度に劣後させるものであって、人権が前国家的性格を有し、外国人の人権も保障されなければならないとする日本国憲法の基本理念にも反している。
 自由法曹団は、日本政府が提出した入管法改定法案に断固反対し、廃案を求めると同時に、国籍の違いによらず人間としてふさわしい取扱いが実現されるよう制度の運用の見直しと、必要な立法措置をとることを強く求める。

以 上

 

 

 

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