2021年6月16日付、改憲問題対策法律家6団体連絡会は『「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」の 可決成立に強く抗議する法律家団体の声明』を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和,明文改憲

「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」の可決成立に強く抗議する法律家団体の声明

2021年6月16日

     改憲問題対策法律家6団体連絡会            
社会文化法律センター   共同代表理事 宮里 邦雄
自由法曹団            団長 吉田 健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野  格
日本国際法律家協会        会長 大熊 政一
日本反核法律家協会        会長 大久保賢一
日本民主法律家協会       理事長 新倉  修

1 拙速な可決成立に対して、強く抗議する
 本年6月11日、参議院本会議で、「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改正改憲手続法」または単に「改正法」という。)が、自民、公明、維新、国民、立民などの賛成多数で可決成立した。改正改憲手続法は、2016年に累次にわたり改正された公職選挙法(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰延投票、投票所への同伴)の7項目にそろえて改憲手続法を改正するものである。衆議院憲法審査会での立民の修正提案で、「施行後3年を目途に」、有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの「検討と必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」附則第4条が加えられた。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、2018年6月の法案提出以来一貫して法案の重大な欠陥を指摘し続けてきた。昨年11月から始まった衆・参憲法審査会の審議において、その欠陥は動かしがたく明らかとなったにもかかわらず、何らの見直しもないまま法案を成立させたことに強く抗議する。附則4条は、立法者自ら改正改憲手続法の重大な欠陥を認めて、この法律のままでは公平公正な国民投票が実施できないことを明らかにしているが、だとするならば、重大な欠陥の解決を先送りにしてまでこの改正法を成立させる理由は全くなく、徹底審議の上で一旦廃案にする選択以外にはなかったはずだ。

2 改正法は、憲法改正国民投票の公平公正が確保されない欠陥法であること
 そもそも憲法96条の憲法改正国民投票は、国民の憲法改正権の具体的行使であり、最高法規としての憲法の国民意思による正当性を確保する手段であることから、できる限り多くの国民に平等に投票の機会を保障し、公平公正を確保する手続きであることが憲法上強く要求されている(国民主権;前文、憲法1条、法の下の平等;憲法14条、硬性憲法と憲法の改正手続き;憲法96条、最高法規;憲法97条、98条1項)。
(1) 投票できない国民がいることを放置したままであること
 遠洋航行などで長期にわたり洋上にいる船員等の中には、改正法のままでは憲法改正国民投票ができない人が出てくる。また、郵便投票の対象者が要介護5に限定されているため現在でも投票できない国民が相当数いることが指摘されている。新型コロナ感染症の拡大により、指定病院等に入院中の方や、宿泊施設や自宅で療養を余儀なくされている場合も投票ができない可能性がある。このように、正当な理由なく憲法改正国民投票の機会を奪われている国民がいるとすれば、2005年9月14日の最高裁判例に照らしても、改正改憲手続法が違憲状態にあることは明らかである。
 さらに、繰延投票の告示期日の短縮はそれ自体投票環境の後退であり、憲法改正国民投票に繰延投票が適切なのかという根本問題も提起されている。期日前投票の弾力的運用は、開始時刻の繰り下げと閉鎖時刻の繰り上げという投票時間の短縮となっていたり、共通投票所の設置が、投票所の集約合理化(=投票所の削減)をもたらしているという実態が明らかとなった。また、在外投票については在外投票名簿の登録率も投票率もともに減少しており、在外邦人の投票の機会が十分に保障されない制度上の問題点が指摘されている。
 憲法改正国民投票は、前記の性質上、できる限り多くの国民に対し平等に投票の機会が保障されなければならないが、改正法は、投票できない国民が放置されているなど、違憲の疑いが極めて強いといえる。
(2)憲法改正国民投票の公平公正が担保されていないこと
 改憲手続法については、2007年5月の成立時において参議院で18項目にわたる附帯決議がなされ、2014年6月の一部改正の際にも衆議院憲法審査会で7項目、参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されているにもかかわらず、これらの本質的な問題点が、改正法ではまたもや放置され先送りとされた。
 とりわけ、①ラジオ・テレビ、インターネットの有料広告規制の問題やインターネット、ビッグデータ利用の適正化を図る問題、②公務員・教育者に対する不当な運動規制がある一方で、外国企業を含む企業や団体、外国政府などは、費用の規制もなく完全に自由に国民投票運動に参加できるとされている問題、③最低投票率が設けられていない問題等の見直しは、国民投票の公平公正を確保し、憲法改正の正当性を担保するうえで不可欠の根本問題である。
 今回成立した改正法は、以上のような国民投票の公平公正を担保し、投票結果に正しく国民の意思が反映されるための措置について全く考慮されていない欠陥法であり、このままでは違憲の疑いが極めて強いといえる。

3 改正改憲手続法のもとで、改憲発議を行うことは憲法上許されないこと
 菅首相や自民党など改憲派は、「施行後3年を目途に」、有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの「検討と必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」附則4条の措置がとられなくても、改憲発議は妨げられないとして、自民党改憲4項目改憲原案の議論を一気に加速させることを狙っている。
 しかし、前述のとおり、改正法は、憲法改正国民投票の公平公正が確保されない違憲状態の欠陥法である。そして改憲手続法の違憲状態を解消することは、国会に課された義務であり、その義務の履行を怠ったまま、国会が、改憲の発議権を行使することが許されないことは、前述の憲法改正国民投票の性質上当然である。
 附則4条は、施行後3年を目途という期限をきって、このことを確認したものであり、 法的な拘束力を持つことは明らかである。
 以上より、改正法の違憲状態を解消するために必要な措置が講じられるまでは、国会議員による憲法改正原案の発議(国会法68条の2)、憲法審査会による憲法改正原案の提出(同法102条の7)、国会による憲法改正の発議(憲法96条)は、いずれも、憲法上許されないというべきである。

4 市民と野党の共闘で、自民党改憲4項目(安倍・菅改憲)発議を阻止しよう。
 2017年5月、当時の安倍首相は2020年までに新しい憲法の施行を宣言し、2018年3月に自民党は、9条に自衛隊を明記するなどの4項目の改憲案(素案)を取りまとめて、同年6月に、改憲手続法改正案を国会に上程した。その狙いが安倍改憲を憲法審査会で議論するための呼び水であったことは、今年5月3日菅首相が、改正改憲手続法案について「憲法改正議論の最初の一歩として成立を目指さなければならない」と発言したことからも明らかである。しかし、改憲派の議席が3分の2以上を占める中で、市民と野党は共闘し、安倍9条改憲NO!3000万署名運動を広め、安倍改憲を一歩も前に進めさせることなく、安倍首相を辞任へと追い込んだ。このことは特筆されるべき成果であり、憲法が市民の中に定着している何よりの証左である。
 安倍首相の後継である菅首相もまた、今年6月10日、改正改憲手続法の成立を機に、憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設などを盛り込んだ自民党改憲4項目の改憲論議を進める決意を公言した。本来、「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)を負う首相や国会議員が国民の意思を無視して改憲を先導主導することは憲法に違反する。憲法改正は、国民の中から憲法改正を求める意見が大きく発せられ、世論が成熟した場合に限り行われるべきものである。今、国民は、政府や国会に対し、コロナ対策、命と生活を守る政治を求めているのであって、改憲世論は全く熟していない。
 憲法によって公権力を制約し、国民の権利・自由を保障するのが立憲主義である。憲法に拘束される権力の側が、国民を差し置いて憲法改正を声高に叫び、改憲発議のために憲法審査会の開催を要求することは、立憲主義の危機であり、十分な警戒が必要である。この点、改正改憲手続法の審議の中で、附則4条の解釈も含め、自民党などが進める改憲論議と改憲発議に対して憲法上の楔を打ち込んだことは、今後に大きな意味を持つであろう。
 コロナ禍に乗じた改憲発議を許さず、立憲主義を守るため、改憲問題対策法律家6団体連絡会は、今後も、市民と立憲野党と共闘して奮闘することを宣言する。                               

以上

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