2021年12月22日、「在留資格等による著しい不利益を外国人に課す法制度の抜本的改正及び現行制度下において柔軟な制度運用による生活保障を行うことを求める声明」を発表しました

カテゴリ:声明,貧困・社会保障

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在留資格等による著しい不利益を外国人に課す法制度の抜本的改正及び
現行制度下において柔軟な制度運用による生活保障を行うことを求める声明

 

2021年12月22日
自由法曹団

1 人口減少が進み、特定の産業で労働力不足が深刻化している我が国において、外国人労働者の受け入れが進められている。政府は、2018年6月15日、いわゆる「骨太の方針2018」を閣議決定し、外国人労働者の受入れを拡大する方針を示し、2018年11月には、出入国管理法を改正して新たな在留資格として、「特定技能1号」及び「特定技能2号」を創設した。2021年11月19日、古川禎久法務大臣は、特定技能2号による受入れ拡大を検討していることを明らかにした。2012年12月末時点では約203万人だった日本国内の在留外国人数は、2020年6月末時点で288万人に上っているが、今後も政府の方針により在留外国人数が増加していくことは必至である。

2 しかし、その一方で、我が国の外国人に対する生活支援は極めて不十分であり、我が国で暮らす外国人は多くの生活上の問題を抱えている。そのひとつに、外国人の住居問題がある。2017年6月に発表された法務省委託調査研究事業「外国人住民調査報告書」によれば、過去5年間に、外国人であることを理由に入居を断られた経験がある人は約39.3%、日本人の保証人がいないことを理由に入居を断られた経験のある人は41.2%、「外国人お断り」と書かれた物件を見たのであきらめた経験のある人は26.8%に上っている。
 このような状況を招いている原因のひとつに、我が国における公的な住宅支援政策そのものが著しく乏しく、民間の賃貸住宅に依存していることがあげられる。民間賃貸物件のオーナーは、賃料未払いや紛争になるリスクを避けるため、「外国人であること」だけをもって入居を拒否する事例が多数存在する。国籍を理由とする入居拒否は明白な差別であり許されるものではなく、実際に貸主の損害賠償責任を認容する司法判断がいくつも出されている。しかし、同様の入居拒否事例は後をたたない。
 国や地方自治体には、国籍を理由とする入居拒否が外国人差別に当たることを周知するとともに、公的な住宅支援制度を充実させることが求められる。

3 2020年から今なお続く新型コロナウィルスの蔓延により、多くの外国人が住居を失って経済的困窮に陥り、生活を脅かされている。すなわち、入管法別表第1に定められた在留資格を取得して我が国で就労していた外国人は、職を失うことによって在留の根拠を失い、「非正規滞在」の状態に追い込まれた。住み込みで働いていた多数の外国人は、職を失うことにより住居をも失うことも余儀なくされた。
 日本人であれば、職を失うなどしても、行政へ支援を求め、生活保護の受給により、住居と生活費の確保が可能である。しかし、政府は、外国人は生活保護法の対象とはならないとし、行政措置として保護するとの立場をとっている。しかも、政府が行政措置として生活保護の対象としているのは、入管法別表第2に定められた在留資格で我が国に滞在する外国人、難民認定を受けた外国人、及び入管特例法に基づき在留資格を有する特別永住者のみであり、入管法別表第1の在留資格により滞在する外国人や非正規滞在者は基本的に対象とされていない。しかも、生活保護を受けることができる人であっても、在留資格の更新が認められない又は在留資格の期限が短縮される、在留特別許可が下りないなど、様々な不利益をおそれ、生活保護の申請をためらっている現状がある。
 また、生活者自立支援制度や求職者支援制度については外国人であっても利用可能ではあるものの、日本語の読み書きができず(日本語教育は職業訓練に含まれないとされている)、事実上利用が阻まれている例も多い。
 このように、職を失った外国人に対する我が国の経済的支援制度は、多くの問題を抱えており、その結果、外国人の生存権が著しく制限されていると言わざるを得ない。
 国及び地方自治体には、外国人が経済的に困窮することなく生活することができるよう、生活保護法をはじめとした法令の法解釈をし、実効性ある制度運用を行うとともに、必要な立法措置が求められている。

4 他方、コロナ禍において深刻化した問題として、外国人女性に対するドメスティック・バイオレンス(以下「DV」)がある。就労制限を受けない入管法別表第2の在留資格であっても、「日本人の配偶者等」の在留資格等を有する外国人は、他の在留資格を取得しない限り、離婚等により在留資格を喪失してしまうため、DV等の被害を受けていても、離婚に踏み切れず、助けを求めることもできない状況に追いやられている。新型コロナ感染症で職を失ったり、テレワークが増えるなどして夫婦が自宅内で過ごす時間が増え、DVが増加したといわれている。実際に、2020年度のDV相談件数は前年の1.6倍に上っており、極めて深刻な状況である。
 しかし、配偶者暴力等による一時保護施設の利用は、非正規滞在者については、ほとんどの自治体において認められない運用となっている。非正規滞在者でない場合であっても、生活保護受給の見込みなないことなどを理由に利用を拒まれるケースもある。
 国及び地方自治体には、DV被害を受けた外国人を迅速かつ適切に保護するため、適切な制度の運用と法解釈、立法措置が求められる。

5 以上のように、外国人というだけであまりにも過酷な不利益にさらされているにもかかわらず、政府はその現状を変えようとすることも無く、外国人労働者の受け入れを拡大している。このような政府の態度からは、外国人を人格ある人間としてではなく、単なる「労働力」としてしか扱っていないことは明らかである。しかし、外国人も人格を有する人間である。日本国憲法は、「全世界の国民が、等しく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と前文で宣言しているように、日本国内に居住する外国人も、欠乏から免れ平和のうちに生存する権利が保障されている。外国人であるだけで、生存のために必要な最低限の基本的人権の制約がなされることは断じて許されない。したがって、まずは、かかる憲法の精神に則り、外国人政策に対する上記政府の誤った態度を根本的に見直すことが必要である。
 その上で、職業や家族関係に依存した在留資格の制度を改め、在留資格によって公的サービスの著しい格差がある現状を変えていかなければならない。そのためには、現状の制度変更のみならず、全ての外国人が支援制度を知ることができるよう、言語の面も含め、十分に広報を行うことも必要である。
 よって、自由法曹団は、外国人を単なる労働力としてのみ扱う政府の態度を見直し、入管法をはじめとした在留資格等による著しい不利益を外国人に課す制度の抜本的改正を求める。

以上

 

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