2021年12月22日、「デジタル改革関連法(デジタル監視法)に基づく地方自治への国の介入に強く反対する」声明を発表しました

カテゴリ:声明,構造改革

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デジタル改革関連法(デジタル監視法)に基づく地方自治への国の介入に強く反対する

 

2021年12月22日
自  由  法  曹  団
団長 吉  田  健  一

 

1 デジタル監視法による地方自治への介入を許さない
 2021年5月12日、参議院本会議において、デジタル改革関連法(デジタル社会形成基本法、デジタル庁設置法、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律、公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律、預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律。以下、「デジタル監視法」という。)が自民党、公明党、維新の会、国民民主党の賛成により可決・成立した。
 同法律に対し、自由法曹団は、2021年5月17日付「デジタル改革関連法(デジタル監視法)可決成立に対しする抗議する」声明を発表し、同法によるデジタル独裁と官民癒着、個人情報保護の後退に加え、地方自治への介入を許す内容であることを批判し是正を求めた。
 今般、同法施行に伴い、地方自治体に対するシステム標準化及び個人情報保護条例の見直しが進められている。しかし、かかる標準化及び個人情報保護条例の見直しは、憲法が保障する地方自治の本旨に反するおそれがあることから、強くその見直しを求める。

2 デジタル監視法による情報システムの標準化
 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(以下、「標準化法」という。)は、地方自治体が実施する業務のうち「標準化対象事務」(現在、児童手当、住民基本台帳、国民健康保険、国民年金、生活保護、子ども子育て支援等17業務が指定されている。)を処理する情報管理システムについて、国が定める標準化基準に基づいたものとすることを義務付ける。標準化された地方公共団体情報システムは、原則としてカスタマイズは許されない。
 かかる情報管理システムの標準化は、地方自治体が独自に行ってきた施策を制約するおそれがある。地方自治体の独自の取組みは、多岐にわたるため、標準化されたシステムでは対応することができない可能性がある。実際に、複数の自治体で共通の情報管理システムを利用する共同化を行っていた富山県上市町の議会では、3人目の子どもの国民健康保険税免除の提案に対し、町長が町独自のシステムのカスタマイズはできないとして、これを拒絶した事例もある。
 全国の自治体の情報システムを標準化することとなれば、かかる事例が多発する可能性があり、憲法の保障する団体自治が阻害される。
 したがって、政府は、標準化法による自治体の情報システム標準化を進めるにあたっては、独自施策を阻害することのないよう、汎用性のある標準仕様書とすること及び柔軟にカスタマイズを認めるとともに費用面・技術面でカスタマイズが抑制されることのないよう、十分に配慮すべきである。

3 自治体が作り上げた個人情報保護条例を尊重するべきである
 デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(以下、「整備法」という。)は、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政法人個人情報保護法を一本化した。改正個人情報保護法が自己情報コントロール権の観点から、個人情報保護が著しく不足していることは先の当年5月17日付声明で指摘した通りである。
 さらに、政府は、国会答弁において「地方公共団体の制度についても全国的な共通ルールを規定する」と述べている(令和3年3月9日衆議院本会議における平井卓也国務大臣答弁)通り、自治体が定める個人情報保護条例も共通ルール化する方針を打ち出し、改正個人情報保護法に明記されたわずかな例外を除き、地方自治体における独自の個人情報保護制度を設けることは、基本的には許容しないとするものである。かかる方針は、国に先んじて個人情報保護の在り方を議論し、先進的な個人情報保護制度を構築してきた地方自治の在り方を否定するものであり、憲法が保障する地方自治の本旨に反し、断じて許されない。デジタル改革関連法可決時の付帯決議において、「地方公共団体が,その地域の特性に照らし必要な事項について,その機関又はその設立に係る地方独立行政法人が保有する個人情報の適正な取扱いに関して条例を制定する場合には,地方自治の本旨に基づき,最大限尊重すること。また,全国に適用されるべき事項については,個人情報保護法令の見直しを検討すること。」と定められた通り、地方自治体が住民との合意に基づき作り上げてきた個人情報保護制度は最大限尊重されるべきである。
 地方自治体は、かかる「共通ルール化」に安直に従うのではなく、個人情報保護の重要性を十分に踏まえ、地域独自の取組みとして必要な個人情報保護制度を構築するべきである。このことは、上記の憲法に保障された地方自治の本旨からも求められるものであるし、国会において時澤政府参考人が「条例による独自の保護措置等につきましては,地域の特性に応じて必要な場合には規定される,あるいは内部的なもの等必要なものは定めることができる」と答えているが、「地域の特性に応じて必要な場合」として地方自治体が定める独自の個人情報保護制度は広く許容されると解すべきである。

4 抜本的な個人情報保護法の改正を求める
 近時においては、SNS等を運営する巨大IT企業による個人情報の収集と活用が大きな問題として取り上げられている。EU一般データ保護規則(GDPR)等によって日本よりもはるかに高度な個人情報保護制度を構築しているEU諸国において、それら巨大IT企業による個人情報の収集と活用に異議を申し立て勝利する画期的な判決も見られる。これに比して、日本の個人情報保護制度は極めて不十分というほかない。自由法曹団としては、先の声明で述べた通り、デジタル監視法によるデジタル独裁と個人情報保護の後退に強く反対し、抜本的な見直しを求めるものである。
 少なくとも、現状のまま地方自治体の情報システム標準化及び個人情報保護条例の共通化を実施することは、個人情報保護を著しく減退させるものであり、断じて許容できない。したがって、自由法曹団は、現在進められる情報システム標準化及び個人情報保護条例共通化の方針をただちに停止し見直しをするとともに、各地方自治体においては、住民の個人情報保護を最優先とする制度設計を実施することを求める。

以上

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