2022年1月27日付、「ウトロ地区放火に関し、断固としてヘイトクライムを許さず、差別根絶を目指す声明」を発表しました

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ウトロ地区放火に関し、断固としてヘイトクライムを許さず、差別根絶を目指す声明

 2021年8月30日、京都府宇治市のウトロ地区で住宅や倉庫など7棟が焼ける火事が発生し、同年12月6日、22歳男性が非現住建造物放火罪(刑法109条)容疑で京都府警に逮捕され、同月27日に起訴された。被告人は同年7月、名古屋市の韓国民団愛知県本部と隣の名古屋韓国学校の排水管に火を付けて壊し、器物損壊罪(刑法261条)で10月に逮捕・起訴されている。
 ウトロ地区は、第二次世界大戦中に日本軍の戦争遂行のために集められた朝鮮人らの生活地域であり、戦後にかけて形成された在日朝鮮人集住地区である。望まずして日本に渡ってこざるを得ず、敗戦後は帰国もままならず、多くの差別と困難の中で生活を続けており、その苦悩の歴史は、加害国である日本国が向き合うべきものであり、歴史的価値の極めて高いものである。
 ウトロ地区では2022年4月に地域の歴史を伝える平和記念館が開館する予定であり、その際に展示が計画されていた資料などおよそ40点が焼損したほか、現場は現住建造物の密集地域であり、放火場所に隣接し焼損した住宅には現実に住民が生活を営んでいるという極めて危険性の高い犯行である。
 ウトロの放火並びに名古屋市の器物損壊に関し、詳細な動機は不明であるが、報道によると被告人は「日本人の注目を集めたくて火を付けた」「朝鮮人が嫌い」と述べているとされており、一連の犯罪の対象が在日コリアン関連施設であることも踏まえれば、民族差別など憎悪や偏見による犯罪であるいわゆるヘイトクライムに該当する可能性が高い。当該放火事件以外にも、2021年7月29日には奈良県大和高田市韓国民団県北葛支部で着火剤を用いた不審火事件、同年12月19日には大阪府東大阪市の韓国民団枚岡支部の室内にハンマーが投げ込まれ窓ガラスが破損する事件が生じており、在日コリアン関連施設への類似の事件は依然として繰り返されている。
 ヘイトクライムは単なる個人の偶発的な犯罪ではない。朝鮮人に対する偏見などの差別意識が社会に根付いた結果としてヘイトスピーチが繰り返され、それによってさらに強まった差別意識により、朝鮮人に対する敵視、偏見並びに憎悪が増長され、同じ人間であることを否定し、罪の意識なく犯罪が行われることとなるのである。
 そして、ヘイトクライムは、その対象とする属性やコミュニティへの攻撃であり、特定の属性を持つ人々を排除することを目的とするものである。ヘイトクライムの存在は、社会の分断を招き、自由で平等であるべき民主主義社会を根底から破壊するものであり、多文化共生の実現のためにも決して許されるものではない。
 国連において「ヘイトスピーチに関する国家戦略・行動計画」に関連し、ヘイトスピーチが残虐な犯罪の前兆となり得ることが指摘されている。かつて、関東大震災の混乱と戒厳令の中で自警団と称する日本人らが多数の朝鮮人ないし中国人らを殺害した歴史を振り返れば、ヘイトクライムを放置することは、差別的感情によるジェノサイドの危険性をもたらしうるものであり、到底看過することはできない。
 2021年12月26日にヘイトクライムのない社会をめざす市民集会においてウトロ出身の弁護士は「一番怖いのは社会の無反応だ」と述べた。差別に関心を持たず、これを放置することは、社会の分断を広げ、憲法上保障されるべき人権を軽視する社会を招くものとなる。ヘイトクライムを許さず、差別根絶を目指す取組みが必要不可欠である。
 布施辰治をはじめとして朝鮮人差別問題並びに人権擁護活動に取組み続けてきた歴史を有する自由法曹団として、本件ウトロ地区放火に対して厳に抗議するとともに、多文化共生社会を目指し、民族差別を助長するヘイトスピーチ並びにヘイトクライムを許さず、差別根絶のため多くの人びととともに立ち向かっていくことを表明する。
                 
  2022年1月27日

自    由    法    曹    団
団    長     吉    田    健    一

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