2022年3月22日、『子どもの権利条約に則った生徒指導提要の改訂を求める声明』を発表しました

カテゴリ:声明,子ども・教育

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子どもの権利条約に則った生徒指導提要の改訂を求める声明

 

1 生徒指導提要の改訂
 文部科学省は、生徒指導提要の改訂に関する協力者会議を設置し、同定用の改訂へ向けた検討を進めている。生徒指導提要とは、「生徒指導の実践に際し、教員間や学校間で教職員の共通理解を図り、組織的・体系的な生徒指導の取り組みを進めることができるよう、生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書として、小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論・考え方や実践の指導方法等を、時代の変化に即して網羅的にまとめたもの」とされており、子どもの権利に与える影響は大きい。

2 子どもが権利主体であること
 そもそも、子どもの権利条約では、18歳未満の子どもについて、何よりもまず「権利の主体」であるととらえている。すなわち、子どもに関するすべての措置は子どもの最善の利益が主として考慮され(3条)、子どもの意見表明権(12条)や表現・情報の自由(13条)、思想・良心・宗教の自由(14条)、結社・集会の自由(15条)、プライバシー・名誉の保護(16条)等の権利が尊重されなければならない。
 日本も、1994年にこの子どもの権利条約を批准しており、2016年に改正された児童福祉法では、子どもの権利条約の精神に則り、子どもが権利の主体であること(1条)や、子どもの意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されるべきことを規定しており(2条)、日本においても子どもの権利主体性は尊重されなければならない。
 いうまでもなく、憲法が予定する教育とは、子どもがもつ成長・発達し自己の人格を完成させるために必要な学習をする権利を保障するためのものである(1976年旭川学力テスト事件最高裁判決参照)ところ、かかる子どもの権利主体性は、教育が成り立つ前提条件であり、憲法上の権利(子どもの学習権保障)との関係でも、重要である。

3 学校現場において子どもの権利条約の精神が十分浸透してない
 ところが、これまで学校現場において、上記の子どもの権利条約の精神が浸透してきたとは言えない。
 例えば、2022年の現代においても、下着の色や頭髪の色・形を一律に定めチェックするなど、子どもの権利主体性を損なう校則(いわゆる「ブラック校則」)やそれに基づく生徒指導が存在し、子どもたちに過度なストレスを与えている。また、厳しい指導に起因して子どもが精神的・肉体的に追い詰められ自殺をしてしまういわゆる「指導死」と呼ばれる事案が発生しているとの報告も存在する。さらには、深刻ないじめや不登校を余儀なくされる環境等従来からの問題についても解決をみていない。こういった状況からすれば、学校現場において、子どもの権利条約違反とも言うべき状況が広がっていると言わざるを得ず、非常に憂慮すべき状況である。
 国連子どもの権利委員会も、「日本の第4回・第5回統合定期報告書に関する総括所見」(2019年)において、子どもの最善の利益が教育分野において適切に解釈されているわけでないと指摘するとともに(19パラグラフ)、子どもの意見表明権が尊重されていないことを深刻に懸念すると表明し(21パラグラフ)、意見を形成することのできるいかなる子どもに対しても、年齢制限を設けることなく、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に意見を表明する権利を保障し、かつ、子どもの意見が正当に重視されることを確保するよう促すと勧告している(22パラグラフ)。

4 子どもの権利条約に則った生徒指導提要でなければならない
 上記のように、学校現場において、子どもの権利主体性が十分に尊重されていないのは、「生徒指導の基本書」とされる生徒指導提要に子どもの権利条約の趣旨や子どもの権利主体性がきちんと位置付けられていないことにも原因がある。
 子どもの成長発達を支えるべき学校が、子どもの人格や主体性を傷つけ、かえって子どもの成長発達を損なう場になってしまっては本末転倒である。子どもの権利主体性を認め、その最善の利益が優先される学校を実現するために、子ども権利条約に則った生徒指導提要の改訂が行われなければならない。

 

2022年3月22日           

                        自 由 法 曹 団 
団 長 吉 田 健 一

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