2022年4月1日、警察法「改正」法案に関する声明を発表しました

カテゴリ:声明,治安警察

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警察法「改正」法の国会採決に抗議し、同「改正」法の廃止を求める声明(確定版)


 

警察法「改正」法案の成立に抗議し、同「改正」法の廃止を求める声明

1 2022年3月30日、参議院本会議において、「警察法の一部改正案」が自民、公明、維新、国民、立憲各党の賛成多数で可決され成立した(以下「本改正法」という)。自由法曹団は、本改正法案に関して、「警察法改正案の拙速な成立に反対し、廃案を求める声明」を発して、同法案の問題点を指摘してきたところだが、以下の通り、「改正」法の問題点は何ら解決しておらず極めて重大な問題を抱えている。

 2 本改正法は、戦後改革の中で生まれた警察組織構造を変革し、民主主義・自由主義への妨害の危険を高めるものである。すなわち、戦後の警察改革のもとでは、戦前の特高警察等により著しい人権侵害・言論封殺等を反省のもと、警察権力の抑制のため、国家警察が解体された。これにより、従来の警察法のもとでは警察庁は、具体的事案への直接的な犯罪捜査権を有しなかった。ところが、本改正法においては、新たな内部局を設け、所掌事務の内容や管轄規定を整備することにより、警察庁が全国を管轄する具体的事案への直接的な犯罪捜査権を有することとなる。つまり、戦前の警察組織の反省のもとに生まれた戦後の警察組織のあり方は大きく変質させられることになるのである。

 しかしながら、このような変質を正当化できる理由は存在しない。今回の改正理由としてあげられているのは、サイバー事案に対応する対処能力の強化やサイバー対策における国際連携の重要性などであるが、本改正法を成立させずとも、すでに全国14都道府県において「サイバー攻撃特別捜査隊」が設置され、サイバー事案への対処の準備は着々と進んでいる。さらに、警察庁は、上記の犯罪捜査権がなくとも、既に国際的組織犯罪条約、サイバー犯罪条約、日米刑事共助条約等において国際的な組織犯罪への取組において国際協力を行ってきた実績がある。いずれの理由も上記変質を正当化する理由とは言えない。

 したがって、本改正法は、実質的な理由なく、警察庁に犯罪捜査権限を付与し、戦前の権力的な国家警察の復活を狙うものであると言わざるを得ず、警察権力による民主主義・自由主義への妨害の危険を高め、許されるものではない。

3 また、本改正法は、監視社会を推し進め、市民のプライバシー権や言論の自由を侵害する危険を拡大するものである。すなわち、現代社会においては、多くの人々が情報端末を所持し、インターネット・SNS上において、容易に自己の意見を表明し、物理的な距離を超えた意見交換・活発な議論が可能となった。こうした議論の中で、世論が形成され、インターネット・SNS上での言論を背景に、検察庁法改悪や入管法改悪を食い止めたことは記憶に新しい。今やインターネット空間は健全な民主主義のための議論の場として欠かせないものとなっている。ところが、本改正法においては、警察庁が「重大サイバー事案」について、全国を管轄とする捜査権を有することとなるものであるが、「重大サイバー事案」の定義は曖昧かつ不明確で、どこまでもその対象が拡大する危険が存在する。こうした問題点が存在する本改正法においては、捜査当局が、サイバー空間において、網羅的に市民の発言や情報発信を収集・利用し、より効率的に市民を監視する危険が現実化していると言わざるを得ない。我々市民は、これまで以上に捜査当局に監視される危険にさらされ、共謀罪・秘密保護法等を通じて形成されてきた監視社会がより一層深刻化し、言論が萎縮する危険を免れ得ない。

 4 以上の通り、本改正法には深刻かつ重大な問題が存在するにも拘わらず、わずかな審議のみで可決成立されるに至った。本来であれば、本改正法の抱える問題点に鑑み、民主的かつ実効性のある警察権力の監視機関の設立(ないし公安委員会の改革)やプライバシー保護等のための独立の人権救済機関の設置等、先決するべき課題を解決しなければならなかったにもかかわらず、これらが実現する見込みもないままである。よって、自由法曹団は、以上のような問題点を抱えながら、何ら対処もせず、戦後民主改革の中においてできた自治体警察による活動を基軸とする現行警察制度を改悪し、個人のプライバシー・言論の自由を危険に晒しかねない今回の警察法「改正」法の国会採決に抗議し、本改正法の廃止を求める。

                                                                      2022.4.1

自 由 法 曹 団

団長 吉 田 健 一

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