2022年6月24日、「差別のない社会を目指し、速やかなヘイトクライムへの対策を求める声明」を発表しました

カテゴリ:声明,市民・消費者

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差別のない社会を目指し、速やかなヘイトクライムへの対策を求める声明

1 2021年8月30日、京都府宇治市のウトロ地区で住宅や倉庫など7棟が焼ける火事が発生し、同年12月6日、22歳男性が非現住建造物放火罪(刑法109条)容疑で京都府警に逮捕され、同月27日に起訴された。被告人は、同年7月、名古屋市の韓国民団愛知県本部と隣の名古屋韓国学校の排水管に火を付けて壊し、器物損壊罪(刑法261条)で10月に逮捕・起訴されている。
 本件の背景については、2022年1月27日付「ウトロ地区放火に関し、断固としてヘイトクライムを許さず、差別根絶を目指す声明」で述べたとおりである。

2 報道によると、被告人は以前から「日本人の注目を集めたくて火を付けた」「朝鮮人が嫌い」と述べており、公判でも意見陳述において反省や謝罪の弁を述べることなく、「私のような彼ら(在日コリアン)への差別偏見、ヘイトクライムに関する感情を抱いている人は国内のみならずいたるところにいる」「今後、同様の事件、さらに凶悪な事件さえも起こることは容易に想像できる」「今回の放火、単なる個人的な感情に基づくものではない」と発言し、在日コリアンへの差別意識を明言するとともに、さらなるヘイトクライムが起こりうることを述べた。
 検察官は、被告人に対し懲役4年を求刑し、判決期日は2022年8月30日に指定されている。

3 本件犯行は典型的なヘイトクライムであり、日本社会において形成されてきた差別意識の発露であることは、被告人自身が公然と述べている通りである。
 人種や民族等の属性を理由とする差別的言辞(ヘイトスピーチ)は、人間の尊厳を踏みにじる許しがたいものであるが、それが本件のようなヘイトクライムへと発展すれば生命、身体への直接の危機となる。被告人が第2、第3のヘイトクライムを予言したことはまさに震撼とするものであり、そのような連鎖を断ち切ることは喫緊の課題といえる。しかし、実際には本件放火事件以外にも、2021年7月29日には奈良県大和高田市韓国民団県北葛支部で着火剤を用いた不審火事件、同年12月19日には大阪府東大阪市の韓国民団枚岡支部の室内にハンマーが投げ込まれ窓ガラスが破損する事件が生じるなど、在日コリアン関連施設への類似の事件は依然として繰り返されており、ヘイトクライムと思われる犯罪の連鎖は続いているものと言わざるを得ない。
 このようなヘイトクライムの連鎖を止めるためにも、在日コリアンに対する差別に限らず、外国人、LGBTQなど多くのマイノリティへの差別が存在する社会から脱し、全ての人を包摂する社会づくりをすることが急務である。

4 ヘイトクライムは、前述の通り、人間の尊厳を踏みにじり、生命・身体への危機に直結するものであるが、さらに社会の分断を招き、自由で平等であるべき民主主義社会を根底から破壊するものであり、多文化共生の実現のためにも決して許されるものではない。
 ヘイトクライムを防ぐための施策・啓発を進めるための速やかな対応を日本政府に求めるとともに、日本政府並びに地方自治体は本件のようなヘイトクライムを公に非難するとともに、これ以上の被害を出さないために、その原因となるヘイトスピーチを社会から根絶する決意を直ちに表明することを求める。
 布施辰治をはじめとして朝鮮人差別問題並びに人権擁護活動に取組み続けてきた歴史を有する自由法曹団として、民族差別等を助長するヘイトスピーチ、ヘイトクライムを許さず、多文化共生社会の形成のため多くの人びととともに尽力していく決意である。

                 

2022年6月24日

                       自 由 法 曹 団

                       団長 吉田  健一

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