2022年11月22日、『共謀罪適用対象拡大に断固として反対する声明』を発表しました

カテゴリ:声明,治安警察

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共謀罪適用対象拡大に断固として反対する声明

 

 政府は、今臨時国会に、マネーロンダリングにかかわる罪(犯罪収益等収受罪等)の法定刑引き上げに関する法案を提出した。この法案は、2022年11月11日に衆議院内閣委員会、同月15日に衆議院本会議で可決され、現在、参議院内閣委員会で審議されている。この法案は、マネーロンダリング対策における国際協調を推進するための政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)の勧告に基づき、マネーロンダリングにかかわる罪の法定刑の引き上げ等を図るものであるが、複数の法律を一括で「改正する」いわゆる「束ね法案」として審議されている。
 こうした「束ね法案」は、対象となる個々の法律ごとの改正の必要性や問題の所在をあいまいにし、わかりにくくするものといわざるをえない。その中で、同法案は、現行法上、テロ等準備罪(組織犯罪処罰法6条の2の共謀罪)の対象犯罪から除外されている犯罪収益等収受罪及び薬物犯罪収益等収受罪について、共謀罪の適用対象とすること(共謀罪適用除外犯罪を列挙した同法別表第四から両罪について削除する「改正」を含むこと)が国会審議の中で明らかになった。

 そもそも、同法案の提出理由は、FATFの勧告に基づくものと説明されているが、同勧告では、共謀罪の拡大についての言及がないことが衆議院内閣委員会の議論においても確認されている。また、共謀罪の対象犯罪は、法定刑によって当然に決まるわけではなく、共謀罪を成立させる理由として政府が強く主張していたTOC条約の締結もすでに済んでおり、この観点からも対象拡大の必要性はない。それにもかかわらず、FATFの勧告を理由としたマネーロンダリングにかかわる罪の法定刑の引き上げに乗じて、共謀罪の対象を拡大しようとすることは立法事実のない法「改正」と言うほかなく、国民の目を欺いて、共謀罪の適用領域を拡大していこうとするものであって許されない。

 共謀罪は、他人の権利・財産などへの侵害の危険が未だ具現化していない曖昧な「計画」(合意)の段階で、その計画に加わった者に対して国家が刑罰権を発動するという犯罪類型であって、国民の内心の自由、正当な言論・表現を抑圧し、適正手続原則に反し、憲法19条、21条、31条に違反するというべきものである。したがって、そもそも共謀罪自体が廃止されなければならないものであり、その対象が軽々に拡大されることなど絶対にあってはならない。

4 共謀罪は、その成立過程においても、国民や人権団体から強い反対の声が上がり、大きな反対運動が巻き起こる中、強行的に成立させられた法律である。成立後においても、市民や人権団体からは引き続き廃止を求める声が出続け、今日においても、その問題性は指摘され続けている。それにもかかわらず、政府は、そのような事情を知りながら、共謀罪の対象犯罪拡大について、あたかもFATF勧告に基づくマネーロンダリング対策の一環であるかのようにして、この部分について法制審議会にも諮問しないまま、「束ね法案」に潜り込ませて審議し、成立させようとしている。政府のこういった審議対応は、強い反対のある共謀罪の対象拡大について、真正面からの国会での議論を意図的に回避することを企図しているものとしか考えられず、政府の国会(国民)軽視の姿勢の表れというほかない。このような形で行われる法「改正」は、国民主権の民主主義国家において断固として許されるものではない。

 自由法曹団は、2017年6月15日付「共謀罪法案の強行採決に抗議する声明」をはじめ、繰り返し、共謀罪の成立に反対し、その廃止に向けた取り組みを続けてきた。自由法曹団は、参議院における共謀罪拡大の危険性等に関する徹底した審議を求めるとともに、共謀罪の対象犯罪の拡大をもくろむ法案の成立に断固として反対する。

 

2022年11月22日

                     自由法曹団 団長 岩田 研二郎

 

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