2023年1月27日、「国による自主申告運動への介入と結社の自由への侵害を招く 「税務相談停止命令制度」の創設に断固反対する声明」を発表しました

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国による自主申告運動への介入と結社の自由への侵害を招く
「税務相談停止命令制度」の創設に断固反対する声明

 

1 岸田政権は2022年12月23日に「令和5年度税制改正の大綱」(大綱)を閣議決定した。大綱においては、「財務大臣は、税理士又は税理士法人でない者が税務相談を行った場合において更に反復してその税務相談が行われることにより、不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れさせ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けさせることによる納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼすことを防止するために緊急の措置をとる必要があると認めるときは、その税理士又は税理士法人でない者に対し、その税務相談の停止その他その停止が実効的に行われることを確保するために必要な措置を講ずることを命ずることができる」との税理士法改定を行うことが企図されている。
 岸田政権が創設しようとするこの命令制度(相談停止命令制度)は、税務相談の停止、顧客名簿の破棄、営業広告の停止等が想定され、かつ、命令を発出したことをインターネット上及び官報で公開するとし、国税庁長官は命令発出のための調査を行うことができること、当該命令に違反した場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金の刑罰を定めることも内容とされている。

2 税理士法第52条は「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。」と定めており、「税理士業務」には他人の求めに応じて業としておこなう申告代理、税務書類の作成、税務相談がある(法第2条)。例外として許される「この法律に別段の定めがある場合」としては、「地方公共団体の職員及び公益社団法人又は公益財団法人その他政令で定める法人その他の団体」が、2か月以内の期間で、租税を指定して、無報酬で申告書等の作成等に関する事項について国税局長の許可を得ておこなう相談活動があり(法第50条)、「政令で定める法人その他の団体」とは、農業協同組合、漁業協同組合、事業協同組合及び商工会が列挙されている。
 だが、国民主権主義をとる日本国憲法のもとにおいて、納税は納税者の申告に基づくものとする申告納税制度が確立している。国税通則法第16条1項1号は「納付すべき税額が納税者のする申告により確定すること」を原則としており、国税庁のホームページにも「戦後、『租税の民主化』が目指され、昭和22年(1947年)に納税者の自主的な申告と納税に依拠した申告納税制度が導入」されたと明記されている。そして、商工会等国税局長の許可を受けられる団体ではなくとも、事業者が自主記帳・自主計算することにより、自らの経営状態を理解し、経営上の弱点を克服して営業を発展させるとともに、自主申告を推進して税務の仕組みを理解し、国民主権の担い手としての自覚を促すことを目的として、申告者同士の自主記帳・自主計算・自主申告のための無償の相談活動は広くおこなわれてきている。これらの活動は報酬を目的とした税務相談ではないことはもちろん、結社の自由の下に構成された団体内部での活動の範疇に属する共助活動として扱われ、是認されてきた。

3 ところが、大綱の「相談停止命令制度」によれば、これらの結社の自由の下に行われてきた共助活動についても、規制を受けることになりかねず、そうなれば納税者の自主申告は後退することとなる。
 実際、民主商工会事務局員の税理士法違反が問題となったいわゆる倉敷民商事件(最高裁2018年5月29日決定)では、事務局員の行為は中小業者のためのものであって、私利私欲のためではなく、事務局員が手伝い作成された確定申告書類には誤りがなく、「課税の適正」は害されていないと認定されながらも、税理士法52条違反として有罪とされている。このように税理士法の関係法令は、もともと、自主申告の権利や結社の自由への侵害や抑圧に用いられる危険が大きいものである。
 そこにさらに大綱のいう「相談停止命令制度」を導入すれば、財務大臣の恣意的な判断により、結社の自由に基づく共助活動としておこなわれている税務書類作成の助け合いや相談・教えあい活動までが規制され、「調査」名目での介入を行って、会員名簿の破棄や、宣伝物の配布禁止、そして団体名を世間にさらすなどなどの重大な不利益を与えることが可能となる。このようなことを許せば、個別の団体の存続を阻み、結社の自由を侵害することすら容易となってしまう。こうした規制は、納税者の権利としての「自主記帳」「自主計算」「自主申告」、及び、そのための「助け合い・教え合い」を妨害するものであって、税財政の民主主義、国民主権という憲法原則を後退させるものにほかならない。それは、また、こうした「助け合い・教え合い」を実践する団体やその構成員について、憲法第21条が保障する結社の自由を脅かすものとなり、かつ、納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とすると定めた国税通則法16条を踏みにじるものである。

4 さらに、大綱による「相談停止命令制度」は、刑罰を伴うものでありながら、その命令発出の要件が極めて曖昧かつ不明確である。すなわち、大綱において、財務大臣の「命令」に違反した場合には刑罰が予定されているにもかかわらず、その「命令」は財務大臣が「不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れさせ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けさせることによる納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼすことを防止するため緊急に措置をとる必要があると認めるとき』に発することができるものとなっている。これでは、具体的な事実の存否ではなく、財務大臣の主観による、抽象的な「影響」の有無や措置の必要性が「認められる」かどうかが刑罰の要件となっていることに等しい。したがって、刑罰の根拠ともなりうる国民の自由を規制する法律の要件としては不明確かつ過度に広汎であり、憲法31条(法定手続の保障)に違反するものといわざるをえない。

5 自由法曹団は、自主申告運動への国の不当な介入を許し、納税者の「助け合い・教え合い」を否定するとともに、そのための団体の「結社の自由」を侵害する「相談停止命令制度」に断固として反対する。

                 

以上

2023年1月27日

自  由  法  曹  団
団 長 岩田研二郎

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