2023年3月29日、「国民の自主申告権を阻害する税務相談停止命令制度を創設させる改正税理士法の成立に抗議し、納税者の権利を保障した運用を求める声明」を発表しました

カテゴリ:声明,市民・消費者

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国民の自主申告権を阻害する税務相談停止命令制度を創設させる改正税理士法の成立に抗議し、
納税者の権利を保障した運用を求める声明

 

1 2023年3月28日、通常国会において、税理士法の改正を含む所得税法等一部改正案が参議院本会議で可決・成立した。
 改正税理士法には、「財務大臣は、税理士又は税理士法人でない者が税務相談を行った場合において更に反復してその税務相談が行われることにより、不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れさせ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けさせることによる納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼすことを防止するために緊急の措置をとる必要があると認めるときは、その税理士又は税理士法人でない者に対し、その税務相談の停止その他その停止が実効的に行われることを確保するために必要な措置を講ずることを命ずることができる」との税務相談停止命令制度を創設させる規定が盛り込まれており、納税者同士における税務相談を規制し、かつ、罰則を定めるもので、納税者の権利を著しく侵害するものである。

2 同法の審議過程では、衆議院及び参議院財政金融委員会において数多くの問題点が指摘された。特に、税務相談の停止、顧客名簿の破棄、営業広告の停止等の命令について、その命令発出の事実がインターネット上及び官報で公開されること、当該命令違反をした場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑罰が定められていることは問題である。現代のデジタル社会においてはインターネット上に公開された情報の削除は非常に困難なことからその不利益は甚大であり、かつ刑事罰が科されることと合わせ、重大な萎縮効果を招くことになる。
 そのため国会審議においては、当該命令の対象となりうる相談行為について重ねて質問が繰り返されたが、どのような場合が相談停止命令の対象となりうるのか、具体的な答弁はなされなかった。
 無償での相談行為、脱税指南に至らない相談行為が除外されるのか全く明確にされないまま、インターネット上での公表及び刑事罰という多大な不利益をもたらす当該命令の対象が全く限定されないことは、過度に広汎な規制にあたるものとして憲法31条の求める適正手続に反するものと言わざるを得ない。
 さらに、国税通則法第16条1項1号が「納付すべき税額が納税者のする申告により確定すること」を原則とし、国税庁のホームページにも「納税者の自主的な申告と納税に依拠した申告納税制度が導入」されたと明記されているとおり、事業者が自主記帳・自主計算することにより、自らの経営状態を理解し、経営上の弱点を克服して営業を発展させるとともに、自主申告を推進して税務の仕組みを理解することは、国民主権の担い手としての自覚を促すためにも必要不可欠である。
 税務相談停止命令制度は、このような自主的な税務申告を妨げるものにほからならず、戦後の税法・税制度の基本原則を蔑ろにするものである。

3 自由法曹団は、この所得税法等一部改正する法律案の問題点に着目し、全商連等関係各種団体と連携し、制度創設に反対する声明、及び制度の法的な問題点を指摘する法律意見書を発出し、当該法案への抗議を続けてきた。
 審議においては、今後も申告納税制度を尊重すること、当該命令が不利益処分に該当することから行政手続法の適用を受け、命令を発出する前に弁明の機会が与えられることなどが明らかにされたが、刑事罰を含む重大な不利益が想定される税務相談停止命令制度が恣意的に運用される可能性は拭えない。
 自由法曹団は、これからも法的な問題点の指摘を続けて当該制度の見直しを求めるとともに、財務大臣の恣意的な運用がなされることのないよう声を挙げ、納税者の権利を守るための監視を続けることを表明する。

4 国民に重大な不利益をもたらしうる規制立法であるにもかかわらず、対象範囲が明らかにされないまま成立した改正税理士法は、申告納税制度、納税者の権利、ひいては国民主権を揺るがすものと言わざるを得ない。自由法曹団は、納税者の権利を揺るがす同法の成立に抗議するとともに、税務相談停止命令制度の運用において過度な規制とならないよう強く求め、そのために闘い続ける決意である。

以上

 

2023年3月29日

自  由  法  曹  団
団長 岩 田 研 二 郎 

 

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