2023年5月26日、「防衛産業基盤強化法案及び防衛財源確保特措法案の衆院での可決に抗議し、 参院で徹底審議のうえ廃案にすることを求める声明」を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和,戦争法制

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防衛産業基盤強化法案及び防衛財源確保特措法案の衆院での可決に抗議し、
参院で徹底審議のうえ廃案にすることを求める声明

 

1 衆議院は、岸田内閣が今国会に提出していた防衛産業基盤強化法案(軍需産業支援法案)を2023年5月9日に可決し参議院に送付したことに続き、同月23日、防衛財源確保特措法案(軍拡財源法案)も野党各党が反対する中、与党の賛成多数で可決してやはり参議院に送付した。
 これらの法案は、岸田内閣が2022年12月16日に閣議決定した、国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」(以下「安保3文書」)に沿って国内体制を整備していくために出されたものであるが、そもそも「安保3文書」は日本政府自身が「憲法の趣旨とするところではない」として認めてこなかった敵基地攻撃能力の保有を打ち出し、「専守防衛」の路線を大きく変更するものである。また、このような防衛力強化(大軍拡)のために、防衛予算を倍増させ(GDP比2%)、これからの5年間の防衛費(軍事費)を総額43兆円とするものであって、日本の軍事大国化を図るものにほかならない。にもかかわらず「安保3文書」は、国民的な討議を経てコンセンサスが得られたものではなく、内閣限りで唐突に打ち出されたものである。これに沿って提出された前記2法案が十分に国民に内容が周知されることなく、国会での徹底した審議も経ずに拙速に衆議院での採決に付され可決されたことについて自由法曹団は強く抗議する。

2 参議院に送付された軍需産業支援法案は、自衛隊の任務に不可欠な装備品等を製造する企業に対し、原材料や部品の供給網を整備する経費を国が援助し、事業の継続が難しくなった場合には国が製造施設を国有化し、装備品(武器)の輸出にかかわる経費も助成するという「至れり尽くせり」の軍需産業の支援法案である。さらに、この法案には、国が提供した装備品等秘密を契約企業の従業員らが漏洩した場合について、「1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」という刑事罰の対象とする内容が含まれており、その企てや教唆をしただけでも同様の扱いを受けることとなっている。
 そのうえさらに、岸田政権は、軍需産業支援法案を今国会に提出しただけではなく、「同志国」軍に武器供与を行う枠組みである政府安全保障能力強化支援(OSA)の実施方針を決定するとともに、防衛装備移転3原則の運用指針を見直して、殺傷性のある武器輸出を解禁すること等について検討を行っている。
 こうした公平性を欠く軍需産業の優遇、武器輸出の拡大や秘密保全体制の強化は、日本経済と産業の軍事化を一層押し進めるものにほかならない。

3 また、軍拡財源法案は、大軍拡のための5年で43兆円もの財源を確保するための特別措置を定めるものであって、①財政投融資特別会計から一定の資金を一般会計に繰り入れる(今年度は2000億円)、②外国為替資金特別会計からも一定額を一般会計に繰り入れる(今年度は1兆2004億円余り)、③独立行政法人国立病院機構及び独立行政法人地域医療機能推進機構の積立金の一部を国庫に納付させる(今年度は420億+324億=744億円)、④こうして集めた資金をプールして、軍拡財源として「計画的かつ安定的」に使えるようにするための「防衛力強化資金」を設置する(これにより防衛省はプールされた資金を複数年度にわたって自由に使えるようになる)というものである。
 法律上一般会計に繰り入れることができないようになっている資金を軍拡財源として流用したり、こうした資金をプールして自由に使えるようにしたりすることは、財政規律を損ない、予算の単年度主義、財政民主主義をも破壊する反民主的なものである。また、本来、医療や年金に回すべき医療関係機構の積立金を軍事費に回すことは、国民生活の犠牲のうえで軍事を優先するものにほかならない。しかも、コロナ禍で歴代政府が公的医療を弱体化させてきたことが露呈したもとで、さらに医療や年金に回すべき資金を奪うことは、新型コロナウイルスの感染拡大に対する何らの反省もないことを示すものと言える。加えて、この手法は医療関係機構以外の独立行政法人も今後対象とされかねず、拠出させる金額も国会ごとに決めるため、さらに増大する危険がある。まさに軍事費のための拠出が「青天井」になりかねない。
 さらに、政府は、5年で43兆円の大軍拡財源を捻出するため、復興税の一部を軍事費に充てるとともに、さらに不足する分については、所得税・たばこ税・法人税の増税を計画している。復興を犠牲にし、現在及び将来の国民に負担を押し付けてまで、大軍拡にひた走る政府の姿勢は許されるものではない。
 軍拡費用を特別扱いして、これまでのルールを無視して国費を流用したり、医療や年金や被災地復興を犠牲にしつつ国民に新たな負担を一方的に押し付けるやり方は、戦争遂行のために国の財政と国民の生活を破綻させた戦前の国家体制を思い起こさせるものである。

4 自由法曹団は、1921年の創立以来、基本的人権をまもり民主主義をつよめ、平和で独立した民主日本の実現に寄与することを目指してきたが、岸田内閣による「ふたたび戦争する国」に日本を導こうとする諸措置に強く反対し、参議院で審議中の軍需産業支援法案及び軍拡財源法案は徹底審議のうえ廃案とすることを求める。

 

   2023年5月26日

                         自  由  法  曹  団
                         団長  岩 田 研 二 郎

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