2023年6月23日、「大崎事件第四次再審請求事件の即時抗告棄却決定に抗議するとともに、一刻も早い再審法改正を求める声明」を発表しました

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大崎事件第四次再審請求事件の即時抗告棄却決定に抗議するとともに、一刻も早い再審法改正を求める声明

 福岡高等裁判所宮崎支部(矢数昌雄裁判長)は、2023年6月5日、いわゆる大崎事件について、鹿児島地方裁判所の再審請求棄却決定(2022年6月22日)に対する即時抗告を棄却した。
 大崎事件は、1979年10月に鹿児島県曽於郡大崎町で、40代の男性が自宅の牛小屋の堆肥の中から死体で発見された事件である。即時抗告人(再審請求人)の母である原口アヤ子さん(40代男性の長兄の妻)を含めた計4名が殺人、死体遺棄等の罪で起訴され、原口さんは、一貫して無罪を訴えたが、共犯者とされる者の供述などを主な証拠として、懲役10年の有罪判決を受けた。
 第4次再審請求では、最大の争点である40代男性の死亡時期について、弁護団は新たに救急救命医の鑑定書やコンピュータ分析の手法や供述心理学に基づく供述鑑定書などを新証拠として提出し、原口さんの無罪・再審開始を訴えたが、鹿児島地方裁判所は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠には当たらない」として、再審開始を認めない決定をした。
 今回の即時抗告に対して、福岡高等裁判所宮崎支部は、弁護側が新証拠として提出した救急救命医の鑑定書について、一定の証明力は認めつつも、「死体を直接検分しておらず、解剖時に撮影された12枚の写真に基づいている」「死因や死亡時期を高い蓋然性で推論するような決定的な証拠とはいえない」と判断し、新証拠と認めず、原決定について「論理則、経験則に照らしておおむね不合理なところはな」いとして是認した。刑事訴訟法上、再審開始決定の要件として、証拠の新規性、証拠の明白性という高いハードルがそもそも設けられているところ、その高いハードルをさらに厳格に解し、再審開始の余地をかなり狭める不当な決定である。「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則から大きく逸脱する判断と言わざるを得ない。
 大崎事件では、これまで3度も再審開始の決定が出された(2002年3月の第1次再審請求の請求審(鹿児島地方裁判所)、2017年6月の第3次再審請求の請求審(鹿児島地方裁判所)、2018年3月の第3次再審請求の即時抗告審(福岡高等裁判所宮崎支部))ものの、いずれも上級審において取り消され、第4次再審請求の抗告審も認められないこととなった。再審開始の門はあまりにも狭過ぎる。
 他方で、2023年3月、いわゆる袴田事件の再審開始決定が確定した。免田事件・財田川事件・松山事件・島田事件に続く、5件目の死刑確定事件における再審開始決定確定である。この決定によって、無実の人間が死刑の危険にさらされたという「現実」が改めて明らかになった。
 それだけでなく、袴田事件の再審開始決定の確定によって、改めて、現行再審制度の問題点が浮き彫りになった。
 1つ目は再審請求手続長期化の問題であり、2つ目は再審決定の決め手に関わる証拠の隠蔽である。
 2つ目につき、袴田事件では、再審開始決定の決め手となった「5点の衣類」に付着した血痕の色味について、同衣類発見直後のカラー写真ネガフィルム等の重要な証拠が開示されたのは、第二次再審請求の過程であった。
 1つ目の再審請求手続長期化の問題は大崎事件においても深刻である。原口さんは今月15日に96歳を迎えており、入院生活を送る。今月12日に特別抗告をした弁護団は、最高裁に対し、早期の特別抗告審の審理を求めている。
 そもそも、再審制度の目的は「無辜(無実の者)の救済」であるものの、刑事訴訟法にわずか19の条文しか存在せず、その目的を果たせる内容にはなっていない。証拠開示手続も法制化されていないため、検察官は無罪方向の証拠を隠し通すことが可能である。また、一度再審開始の決定を得ても検察官による不服申し立て、すなわち、即時抗告審等の上級審の壁を乗り越えなければ、再審公判が開かれることはない。結局のところ、現行の再審制度の下では誤判を見つけ、えん罪を晴らすことは著しく困難である。これでは、本来、再審法により救われるべきえん罪被害者が救われず、現行再審法制はその目的を十分に果たすことができていないと言わざるを得ない。
 このように、えん罪被害者は制度的に不利な立場にある中、上記のとおり、大崎事件においては3度も再審開始の決定を得ている。職権で再審請求を棄却した第3次請求の特別抗告審(最高裁判所)は、書面審理のみで弁護団に反論の機会を与えないまま再審開始の決定を取り消して、再審請求を棄却した異常なものであり、最高裁判決は、「刑事司法制度の根幹を揺るがしかねない重大な瑕疵が存在する」(全国の刑事法学者92名)、「日本の裁判史上に残る暴挙」(えん罪犠牲者の会)などと社会的にも大きな非難を受けた。こうした再審請求の経緯に照らしても大崎事件が再審開始の上、審理されるべきことは明らかである。それにもかかわらず、再度、再審の道を閉した今回の決定は、再審請求の判断にも「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用されるとした白鳥・財田川決定に反するものであり、不当決定と言わざるを得ない。
 自由法曹団は、2023年5月22日、福岡研究討論集会において、再審法制の問題を是正するよう「袴田事件再審開始決定を受けて、全てのえん罪被害者の救済のために死刑廃止・再審制度の抜本的改革を求めるとともに、一刻も早い袴田事件再審無罪確定を求める決議」を採択した。袴田事件の再審開始決定以降、再審法改正の声は、国会内、市民においても日増しに強まっている。再審法制の不備は憲法上最も尊重されるべき生命身体の自由への侵害を看過するものにほかならず、早急な立法が必要であることに多言は要しない。自由法曹団は、今回の不当な大崎事件第4次再審開始請求抗告審決定が、最高裁における特別抗告審において覆ることを強く求めつつ、ここに改めて、一刻も早く再審法制の問題を是正するための法改正を行うことを強く求める。

  2023年6月23日
自  由  法  曹  団
 団 長   岩 田 研 二 郎

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