2023年6月26日、個人情報保護委員会への質問状及びこれに対する同委員会の対応についてをアップしました

カテゴリ:声明,市民・消費者

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個人情報保護委員会への質問状及びこれに対する同委員会の対応について

 

2023年6月26日
自由法曹団 団長 岩田研二郎

 

1 我が国における個人情報保護制度は、行政(特に捜査機関)による個人情報の取得・収集に対する規制が極めて弱いこと、個人情報の第三者提供が広範に認められうること、AI等の発展に伴うプライバシー侵害等の対応が不十分であること、監督機関である個人情報保護委員会の監督権限が薄弱であること等、数々の問題が指摘されているところである。
 2021年5月12日に可決成立したデジタル改革関連6法は、デジタル化に関する強大な権限を持つデジタル庁の創設をはじめとし、個人情報の利活用を強く進めるものである一方、従前3法に分かれていた個人情報保護法を統一する等大幅な法制度の変更をしながらも、個人情報保護の強化はほとんどなされていない。
 自由法曹団は、同法の審議に先立ち、個人情報保護制度の改悪に反対する声明(2021年1月21日付)を、同法成立後はこれに抗議する声明(同年5月17日)を発出し、個人情報保護の強化なくして近時急激に進められている個人情報の利活用に反対し是正を求めたところである。

2 今般、上記のような法制度自体の不備に加え、監督機関である個人情報保護委員会において、監督対象である民間企業から多数の出向者を受け入れていること、同委員会が作成したガイドライン等において個人情報保護に関する施策等に関し強権的に自治体の自主性を奪うような記載がなされていること、国会審議や民間企業からの問い合わせに対し個人情報を保護する立場の機関としては不適切と考えられる対応をしていること等が確認されたことから、2023年4月4日付で同委員会に対し質問状を送付し、同月末日までに回答することを求めた。
 質問の骨子としては、以下のとおりである。

(1)個人情報保護委員会の組織体制等について
① 同委員会の委員について、6つの分野の知見を有する者から選ばれると定められているにもかかわらず、現在の常勤委員(委員長及び委員5人)には、民間企業の実務に通じた者が2人いるのに対し個人情報の保護等への学識経験のある者は1人も選ばれていない実態、並びに専門委員5人のうち4人が「民間企業の実務に精通している者」として選任されている実態などが、個人情報保護法131条4項に照らし著しく均衡を失している状況にあると考えられることから、人選の理由を教えていただきたい。また、将来の体制確保をどう考えているのか教えてほしい。
② 議事録等が公開されている委員会の会議以外の、委員及び専門委員による会議実施の有無、参加者選定の基準、開催頻度、及び議事内容の記録等の管理の有無等を開示してほしい。
③ 監督対象である民間企業(JR東海、KDDI、NTTドコモ、セブン&アイ・ホールディングス、みずほ銀行、日本IBM、日立製作所、富士通など)から18名もの職員を受け入れている(2022年3月現在)ことの公正性についてどう考えているか教えてほしい。また、将来的な民間企業出身者の受け入れを廃止する考えがあるかどうか回答してほしい。
④ 民間業者から受け入れた職員について、その勤務形態の別(常勤、任期付非常勤、非常勤等)、業務内容、出身元企業への所属の有無や忠実義務、並びに任期満了後の処遇を教えてほしい。
⑤ 職員の増員予定の有無、及び専門性のある総合職採用予定の有無を教えてほしい。
(2)公的部門(国の行政機関等・地方公共団体等)の個人情報保護の規律について
① 同委員会が発出したガイドライン等では、自治体が条例で独自に個人情報の取扱い制限等の規定することなどを国は許容しない、とされていることの考え方について
② 個人情報保護条例に関し、地方公共団体の「自治」を尊重すべきとする憲法上の規定に対し、当該ガイドライン等で「許容されない」とすることは自治立法権(条例制定権)への侵害に当たるとの指摘があることへの考え、当該規律の法的根拠、及び例示を定める際の議論状況について
③ 当該ガイドライン等の作成について、事務局の関与の有無、委員長及び委員と事務局との間での具体的な議論状況、及び委員の意見集約の方法について
(3)事務局の対外的な行為への対応について
① 事務局長が答弁において個人情報の提供への同意の撤回を否定したことについて、個人情報保護法の解釈との関係性についてどう考えるか
② JR東日本が東京オリンピックに際してセキュリティ対策として公表した「不審者・不審物検知機能(うろつきなどの行動解析、顔認証技術)を有した防犯カメラを導入し、不審者などを探索します。」「顔認証技術の導入に当たっては、個人情報保護委員会事務局にも相談の上、法令に則った措置を講じています。」との取組みについて、その後、駅での出所者の顔認証が中止となったことに関し、同委員会(又は委員長)が関与したのか否か、関与があった場合のその内容、及び関与がなかった場合にはその理由について

以上

3 しかるに、期限までに回答がなかったため、自由法曹団から回答を求める催告(2023年5月12日付)を送付したにも関わらず、個人情報保護委員会からは回答どころか一報すらなされなかった。
 本件質問事項は、いずれも個人情報保護の観点から極めて重要な内容であるとともに、個人情報保護委員会(ないし同委員会委員長等)の対応についての質問であるから、何ら回答に困難を来すものではない。これらの質問事項に回答しない個人情報保護委員会の態度からは、同委員会が本件質問事項に関する事実及び対応について不適切であると考えてはいないものと推測される。しかし、いずれの問題についても、個人情報保護についての監督機関であり個人情報保護に責任を持つべき独立行政委員会としては、その権能及び独立性に大きな疑念を抱かせ、その対応としても不十分と言わざるを得ず、同委員会が十分な組織体制及び理念を備えていないものと判断するほかない。
 個人情報保護委員会は、いずれの問題についてもその実情を国民に対して明らかにするとともに、組織体制の改善を図るべきである。

4 本年6月2日には、マイナンバーカードにおける他人情報の登録事例が数々明らかになり、既存保険証廃止による弊害が明らかにされる等、数々の問題が明らかになったにもかかわらず、マイナンバー法改正案が成立した。マイナンバーカードをめぐる様々な問題は、本来マイナンバー制度に関して責任をもって監督し個人情報を保護しなければならない個人情報保護委員会が、その監督責任を怠ってきた結果であると考えられる。これらの問題が明らかになり国民の個人情報保護に対する意識が高まりつつある今こそ、個人情報保護のための抜本的な改革及び監督機関たる個人情報保護委員会の組織としての在り方を見直すことが不可欠である。
 自由法曹団は、個人情報保護の充実のために、個人情報保護制度の抜本的な強化と、監督機関である個人情報保護委員会の組織の在り方を根本的に見直すことを強く求める。

以上

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