2023年8月23日、『「ALPS処理水」の海洋放出の強行に強く抗議するとともに、海洋放出の即時停止、 他の処分方法の実行及び汚染水問題の解決のために抜本的な止水対策を求める声明』を発表しました

カテゴリ:原発問題,声明

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「ALPS処理水」の海洋放出の強行に強く抗議するとともに、海洋放出の即時停止、
他の処分方法の実行及び汚染水問題の解決のために抜本的な止水対策を求める声明

2023年8月23日
自   由   法   曹   団
団  長  岩田研二郎

 政府は、2023年8月22日、関係閣僚会議を開催し、東京電力HD株式会社(以下「東京電力」)福島第一原発の敷地内に保管されている「ALPS処理水」について、今月24日にも海洋放出を開始することを決定した。
 東京電力は、上記決定に基づき「ALPS処理水」の海洋放出を強行する見込みである。海洋放出は、福島第一原発の廃止措置が完了するまでの間(最長40年間)、続けられる予定である。
 自由法曹団は、2021年4月20日、政府が同月13日に開催した関係閣僚等会議において、「ALPS処理水」を海洋放出する方針を決定したことに対し、強く抗議するとともに、直ちに撤回することを求める声明を発出した。
 「ALPS処理水」の海洋放出は、2015年に政府及び東京電力が「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と福島県漁連に文書で伝えた約束を反故にするものである。
 自由法曹団は、政府及び東京電力による海洋放出の強行に強く抗議する。

 福島第一原発は、2011年3月、3つの原子炉が同時にメルトダウンとなる世界最悪レベルの事故を起こし、大量の放射性物質を放出した。そして、地下水や雨水等が原子炉建屋内の放射性物質に触れることや燃料デブリ(溶け落ちた燃料)を冷却した後の水(デブリに含まれる放射性物質に触れた水)が建屋に滞留することにより、汚染水が日々発生している。
 東京電力の分析によると、2020年度の汚染水発生量は1日当たり約140立方メートルであり、このうち雨水・地下水等の流入によるものは約90立方メートルである。汚染水の発生を減少させるためには、雨水・地下水等の流入を防ぐ抜本的な止水対策が求められる。
 政府は、汚染水対策の基本方針として、①汚染源を「取り除く」、②汚染源に「水を近づけない」、③汚染水を「漏らさない」の三原則を示しているが、汚染水を抑制するために喫緊の課題となるのは、②汚染源に「水を近づけない」という対策の実行である。
 2013年9月より福島県廃炉安全監視協議会の専門委員(水文地質学)を務める柴崎直明氏(福島大学共生システム理工学類教授)は、福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ(以下「原発団研」という。)を立ち上げ、汚染水問題の調査・研究に取り組んできた。
 原発団研は、抜本的な止水対策として、当面10年程度の中期的対策として建屋近傍の井戸(サブドレン)の増強による地下水管理、長期的対策として、広域遮水壁と集水井・水抜きボーリングの設置を提案している。原発団研によると、これらはすでに確立されている技術であり、新たな汚染水の発生を大幅に減らす効果が見込まれる。
 政府及び東京電力が、原発団研の提案する抜本的な止水対策を取ることなく、不十分な対策で汚染水を発生させ続けてきた結果、海洋放出に踏み切ったことははなはだ遺憾であり、海洋放出によって生じる被害は政府及び東京電力の責任と言わざるを得ない。

 汚染水を処理した後の「ALPS処理水」には、放射性物質であるトリチウムが含まれているが、トリチウムの安全性については、現在のところ確立した知見が存するわけではなく、また 、「ALPS処理水」にはトリチウム以外の放射性物質が含まれていることも明らかになっている。何十年にもわたる海洋放出による環境や生態系への影響は避けられない。そうである以上、放射性物質を含む「処理水」を安易に環境中に放出することは許されない。
 また、2016年当初約34億円と試算されていた海洋放出のコストの急激な上昇も看過することはできない。
 東京電力は、2022~2024年度の3年間で、海洋放出に約437億円かかるものと公表している。さらに、経産省は、「ALPS処理水(『汚染水』)の海洋放出に伴う需要対策基金」として300億円、「ALPS処理水(『汚染水』)の海洋放出に伴う影響を乗り越えるための漁業者支援基金」として500億円の支出を予定している。そのため、現時点の海洋放出のコストは、少なくとも約1200億円となっており、モルタル固化等の地下埋設、大気放出、堅固な大型タンクでの保存と比較しても、費用面での優位性はなくなっている。
 今後は、抜本的な止水対策を取ることにより新たな汚染水の発生を抑止しつつ、海洋放出以外の処分方法を検討し、実行に移すべきである。

 漁業関係者をはじめ福島県内外で海洋放出反対の声が日に日に高まっている。
 みやぎ生協・コープふくしま、宮城県漁業協同組合、宮城県生活協同組合連合会、福島県生活協同組合連合会が呼びかけ団体となり、2021年6月から2023年5月にかけて、海洋放出に反対し、国民の理解が得られる別の方法で処分するよう求める署名活動を実施したところ、累計約25万4000人分もの署名が集まった。
 海洋放出により震災復興の努力が水泡に帰すとの懸念、環境汚染や食品汚染に対する不安等様々な理由から反対や懸念の声が多数出されている。
 2023年8月21日に首相と面会した全国漁業協同組合連合会の坂本会長は、「海洋放出については依然として反対するという立場を堅持する」と明言している。政府及び東京電力は、2015年の「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束を誠実に守るべきである。

5 政府は、IAEA包括報告書(2023年7月4日公表)をもとに、「ALPS処理水」の安全性が確認されたと漁業関係者等に説明して理解を求めている。
 しかしながら、IAEA包括報告書では、海洋放出の代替案(地中埋設、大気放出、大型タンクでの保管等)との比較や海洋放出を正当化できるかどうかは分析の対象外とされている。ここにいう正当化とは、「放射線リスクを引き起こす活動は、全体的な利益をもたらされなければならない」という原則であり、海洋放出によって得られる利益と害される利益を比較衡量し、得られる利益が大きい場合のみ正当化できるというものである。IAEA包括報告書が分析していない「正当化」の点は、まさに住民が分析・回答を望む点である。
 復興の担い手は地元の被災住民である。その被災住民から、生業に対する懸念や放射線被害に対する不安など様々な理由から反対や懸念の声が多数出されている状況下において、「ALPS処理水」の海洋放出を正当化できる理由はない。
 政府及び東京電力は、即時に海洋放出を停止し、漁業関係者や被災住民との対話を継続し、反対や懸念の声に耳を傾け、処分方法についての合意形成を図るべきである。

 自由法曹団は、政府及び東京電力が、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束を反故にし、海洋放出を強行しようとしていることに強く抗議するとともに、海洋放出の即時停止、他の処分方法の実行及び汚染水問題の解決のために抜本的な止水対策を求める。

以上

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