2023年10月27日、「最高裁による性別変更の手術要件「違憲」判断を受け、性的マイノリティの現状に向き合い、幸福追求権を踏まえた司法と立法の在り方を求める声明」を発表しました

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最高裁による性別変更の手術要件「違憲」判断を受け、性的マイノリティの現状に向き合い、
幸福追求権を踏まえた司法と立法の在り方を求める声明

 

1 2023年10月25日、最高裁判所は、性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)の定める性別の取り扱いの変更の要件のうち、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」(同法3条1項4号、以下「4号規定」あるいは「生殖腺要件」という。)について、必要性・合理性を欠くものであり、15人の裁判官全員一致で憲法13条に違反し違憲無効であると判断した。自分の身体のことは自分で決めたいという当事者の思いと権利に寄り添う画期的な決定である。
 なお、外性器の切除等を求めた同項5号(以下、「5号規定」という。)については、原審が判断をしていないことから更に審理を尽くさせるため差し戻されている。

2 本事案は、生物学的な性別は男性であるが心理的な性別が女性である抗告人が、性別適合手術である生殖腺除去手術を受けておらず生殖腺要件を満たしていないものの、その意思に反する場合でも生殖腺除去手術を余儀なくする特例法2条は憲法13条の保障する「自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由」を侵害することと等から、違憲無効であると主張し、特例法3条1項に基づき性別の取扱いの変更の審判を申し立てた事案である(抗告人は原審で5号規定の憲法適合性についても主張をしている)。

3 最高裁は、「性同一性障害」に関する医学的知見の進展・社会状況の変化に触れたうえで、憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているところ、自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由が、人格的生存に関わる重要な権利として、同条によって保障されるとした。
 そして、生殖腺除去手術が生命又は身体に対する危険を伴い不可逆的な結果をもたらす身体への強度な侵襲であるから、性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を実現するために当該手術が強制される場合には身体への侵襲を受けない自由に対する重大な制約であるとした。
 その上で、4号規定について、その目的が性別変更審判を受けた者について変更前の性別の生殖機能により子が生まれることがあれば、親子関係等に関わる問題が生じ、社会に混乱を生じさせかねないこと、長きにわたって生物学的な性別に基づき男女の区別がされてきた中で急激な形での変化を避ける必要があること等の配慮に基づくものとしつつも、4号規定制定時の制約の必要性は諸事情の変化により以下のとおり低減していると認めた。すなわち、①親子関係等に関わる問題が生ずることは極めてまれと考えられること、②戸籍については法令の解釈・立法措置等により解決が図れること、③2008年改正後親子関係等に関わる混乱が社会に生じていないこと、④特例法の施行から約19年が経過し性同一性障害を有する者に関する理解の広まりや社会生活上の問題を解消するための環境整備が行われていることである。そして、社会状況の変化から、制定当時は合理的とされた生殖腺除去手術について医学的にも合理的関連性を欠くに至り、「治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、又は性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものになった」として、4号規定が憲法13条に違反すると判示した。
 なお、5号規定(外観要件)については原審に差し戻されたが、3名の裁判官より同規定についても違憲無効であるから原判決を破棄すべきとする反対意見が示されている。

4 人の性のあり方は極めて多様であり、様々な性のあり方をありのまま尊重することは、人としての尊厳をまもることである。このような「尊厳としての性」の保障はすべての人に平等に認められた当然の権利であり、憲法13条、同14条が保障する基本的人権である。そうした性のあり方によって個々人が差別されることなく、安心して生活できる社会の実現が今求められている。今回の最高裁決定は、こうした「尊厳としての性」が保障される社会の実現への第一歩であり、性的マイノリティの権利保障を前進させるものとして高く評価できる。

5 今、司法は、社会の変化を踏まえ、性的マイノリティの現状と権利を踏まえた判断を示す方向にある。
 2023年10月11日には、静岡家庭裁判所浜松支部において、生物学的な性別は女性であるが心理的な性別が男性である申立人による性別の取り扱いの変更の申立てに関し、4号規定が、憲法13条に違反するとの審判がなされている。2023年7月11日、最高裁は、経済産業省に勤務するトランスジェンダー女性が就業する庁舎の女性トイレの使用を制限した処遇についての正当性を争った訴訟で、当該処遇が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとし、各補足意見では自己の性自認に基づいて社会生活を送る利益を重要な利益と位置づける判断が示された。また、5つの地域で争われていた「結婚の自由をすべての人に」訴訟では、地裁判決が出揃い、5つのうち4つの裁判所が、現行の民法・戸籍法を憲法違反としている。
 個人の憲法上の権利を前提とする裁判所の傾向は明らかに変化している。こうした司法の動きに真摯に向き合い、特例法の規定の見直しに向けた議論を早急に行うことが立法府に求められている。
 また、こうした流れをさらに大きくし、性的マイノリティの当事者の権利を擁護し、多種多様な人々がそれぞれのアイデンティティを尊重される共生社会を実現するためにさらなるとりくみが重要である。

6 自由法曹団は、人々の様々な性のあり方において個人の尊厳が守られ、性のあり方によって個々人が差別されることなく、安心して生活できる社会の実現のため、裁判所に対し憲法の理念と基本的人権に則った判断を、そして、立法府に対し必要な法整備に向けた速やかな議論を、求めるものである。

以上

 

2023年10月27日

自  由  法  曹  団

団 長 岩 田 研 二 郎

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