2024年3月29日、地方自治法改正案に関する公開質問書を総務省自治行政局行政局長宛に送付しました

カテゴリ:声明,構造改革

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2024年3月29日

総務省自治行政局行政局長 山野謙 殿

質 問 書

自由法曹団 団長 岩田研二郎

 

 当団体は、「基本的人権をまもり民主主義をつよめ、平和で独立した民主日本の実現に寄与」し、「あらゆる悪法とたたかい、人民の権利が侵害される場合には、その信条・政派の如何にかかわらず、ひろく人民と団結して権利擁護のためにたたかう」ことを目的として平和、人権、民主主義に関わる様々な問題に取り組んでまいりました。
 当団体は、2024年3月1日に衆議院に提出された「地方自治法の一部を改正する法律案」に対して重大な懸念を抱いています。
 憲法92条は、地方自治は地方自治の本旨に基づいて行われる旨を規定し、これを受けて地方自治法は、国と地方公共団体の役割分担の在り方について、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体に委ねること、国は、地方公共団体に関する制度の策定や施策の実施に当たっては、地方公共団体の自主性・自立性に配慮すべきことを定めています。
 ところが今般の改正案は、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体の関係等に関する特例」の章において、一定の場合において国が地方公共団体の行う自治事務に対しても必要な指示をすることができる旨の規定を新設しています。かかる指示権の創設は、地方公共団体の自主性・自立性を蔑ろにし、地方自治の本旨に反するおそれがあると言わざるを得ません。この点も含め、全国知事会からも本改正案に対する懸念が表明されているところです。
 国会における本法案の審議においては、この点の懸念が払拭されることが不可欠であり、当団体としてはかかる観点から審議の推移を注視しているところです。
 そこで本法案策定を担当された貴局に対し、別紙記載内容の質問をさせていただきますので、ご回答いただきますようお願いします。ご回答は、4月12日までに文書をもってお願いいたします。

 

質 問 事 項

1 2000年施行の「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(いわゆる地方分権一括法)は、地方への権限委譲をはかり、国と地方自治体との「主従」関係から「対等・協力」の関係へと転換させたと一般に言われている。この関係を前提に、地方自治法上は、国による「関与」の規定が盛り込まれている。
 他方で、地方制度調査会令和5年12月21日付「ポストコロナの経済社会に対応する地方制度のあり方に関する答申」(以下、「第33次地制調答申」という。)では、国による指示権付与に関し、以下の記載がある(16頁以下)。

①新型コロナ感染症についての記載
 「患者数の大幅な増加に伴い保健所設置市区単位では病床の効率的な利用が困難となった際には、国の要請により都道府県に「都道府県入院調整本部」が設けられた等、感染症法上の役割分担にかかわらず、事実上、国や都道府県が一定の役割を担わざるを得ない事態に至った。新型インフル特措法に基づいて使用制限を要請する施設の範囲や、営業時間の短縮を要請する時間帯について、国と都道府県との間で考え方の相違によって調整が難航した事例もあり、一体となって対応できる仕組みの必要性が指摘されている。
 こうした課題を踏まえ、その都度、新型インフル特措法、感染症法について必要な改正が行われてきた。しかしながら、こうした困難な事態を招いたという事実は、地方自治法を含め、現行法制による国と地方公共団体の関係における国の役割、都道府県と保健所設置市区の関係における都道府県の役割が、大規模な災害、感染症のまん延等の国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に備える個別行政分野の関係法(以下「個別法」という。)が想定しない事態に対し、十分に対応していなかったことを示すものと評価しなければならない。」
②自然災害への対応についての記載
 「例えば、平成25 年台風第26 号(伊豆大島の土砂災害)や平成27 年9月関東・東北豪雨(常総水害)は、災害対策基本法における「非常災害」には至らない災害であった。しかしながら、集中豪雨による住宅地での土砂災害の発生や河川の堤防の決壊による市街地の水没などが発生し、効果的に災害対策に当たる観点から、国と地方公共団体との緊密な連絡調整の下、災害応急対策が実施された。その後、令和3年の災害対策基本法の改正により、このような災害が「特定災害」と位置付けられ、政府対策本部の設置、国から地方公共団体への指示の規定が盛り込まれた。これは、当時の災害対策基本法の規定で想定された「非常災害」に至らないものの、特定の地域に集中的に発生し、人の生命・身体に急迫の危険を生じさせるような災害については、災害応急対策をより的確かつ迅速に行うため、国と地方公共団体とが緊密に連携し、一体となって対応する必要があったことを示すものであった。当該法改正が行われるまでは、上記の新型コロナ対応と同様の課題があったということができる。」
③地方公共団体での人員確保について
 「地方公共団体における必要な職員の確保に関しては、新型コロナ対応において、保健所を中心に、都道府県、保健所設置市区において、事態への対応に必要な職員が不足し、業務のひっ迫により検査、入院調整、健康観察等が遅れるなどの事態が生じた。その際、必要な職員の確保について地方公共団体相互間の求めに基づく応援では対応ができず、国が都道府県及び市町村の全国的な連合組織等とともに調整して広域的な応援を行う局面があった。」

以上

 以上の記載を踏まえ、地制調答申は、国が個別法に基づく指示が行えないことを指摘し、「地方公共団体の事務処理が違法等でなくても、地方公共団体において国民の生命、身体又は財産の保護のために必要な措置が的確かつ迅速に実施されることを確保するために、国が地方公共団体に対し、地方自治法の規定を直接の根拠として、必要な指示を行うことができるようにすべきである。」としている(19~20頁)。
 かかる記載を受けて今般の地方自治法改正において国による指示権が設けられたものと思われるが、当然、その前提として、従前の「関与」では対応ができないために「指示権」の創設が必要と判断されたものと考えられる。
 しかしながら、上記の事態に対し、国と地方自治体が適切に情報共有しコミュニケーションを取りながら従前の「関与」することでは対応できなかったことの根拠が判然としない。
 そこで、上記の例示のうち、従前の「関与」では対応できず、国による「指示権」が認められていれば適切に対応できた事例を具体的に示されたい。また、その事態においては、なぜ従前の「関与」では奏功しなかったのか、その原因を示されたい。

2 改正案では、自治事務と法定受託事務を区別することなく、一様に国の指示権を認めるものとなっている。しかし、自治事務と法定受託事務では大きく性格が異なるものであり、このような性格の異なる事務を同一に扱うことは不適切である。両者を区別しないで一様に補充的指示権を付与することとした理由は何かを示されたい。

3 第33次地制調答申が公表されたのは2023年12月21日であり、その僅か71日後に地方自治法の改正案が閣議決定されている。他方で、2017(平成29)年地方自治法の改正(同年3月10日国会提出。内部統制に関する方針の策定等。)に先立つ第31次地制調答申は2016(平成28)年3月16日発表(359日後)、2014(平成26)年地方自治法改正(同年3月18日国会提出。指定都市制度の見直し等。)に先立つ第30次地制調答申は2013(平成25)年6月25日発表(266日後)となっている。
 このように、従前は地制調答申による問題点の指摘の後、一定の期間を経て改正法案が提出されているところ、これは地方自治体からの意見聴取や全国知事会や全国町村会との協議等の調整が必要であることも一因と考えられる。しかるに、今般の地方自治法改正案は、国と自治体の関係を大きく変更する規定を含むにもかかわらず、従前の例に比較し地制調答申の発表から極めて短期間の間に国会提出されているが、かかる改正案について、地方6団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会)からの意見聴取や意見交換は行ったのか、行わなかったのであればその理由を明らかにされたい。行ったのであれば、その協議・検討の具体的内容を示されたい。

4 全国知事会会長の2024年3月1日付コメントによると、知事会からは、補充的指示権を国に付与するにしても、事前に十分な協議・調整をおこなうこと及び目的達成のために必要最小限度で行使すべきことが要望されていた。しかし、法案にはこの点は入っておらず、事前に地方自治体の意見の提出等を講じるよう努めること、指示権の行使は必要な範囲とすることが定められているのみである。全国知事会会長の上記要望があったにもかかわらず、地方自治体の意見の提出等を講じるよう努めることに留め事前の「協議」や「調整」をはかることを除外した理由及び指示権の行使を「必要最小限度」に留まらず「必要な範囲」まで許容した理由を示されたい。

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