2025年5月9日、「刑事IT化法案の衆議院本会議の可決に抗議し、参議院での廃案を求める声明」を発表しました

カテゴリ:声明,治安警察

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刑事IT化法案の衆議院本会議の可決に抗議し、参議院での廃案を求める声明

 

1 本年2月28日に国会提出された刑事IT化法案(情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案)は、4月18日に衆議院法務委員会で可決され、また、同日付で衆議院本会議に上程のうえ、可決された。
 同法案は、以下のとおり、IT化の口実のもとに捜査機関にのみ著しい便宜を与えるものであり、また、個人情報やプライバシーを侵害する電磁的記録提供命令の創設や、IT化とは何ら関係がない盗聴法の対象犯罪の拡大が盛り込まれるなど、極めて危険な法案である。

2 法案には様々な問題が存するが、主だったものを挙げると、①逮捕状、捜索差押令状等の請求・発付のオンライン化、②電磁的記録提供命令制度の創設、③公判手続等のビデオリンク方式化、④ビデオリンク方式による証人尋問手続の拡大、⑤通信傍受法(盗聴法)の対象犯罪の拡大である。
 ①の令状請求・発付のオンライン化がなされると、現在以上に必要性の乏しい事案で令状請求がなされるなど濫発の危険性が高まることになり、憲法33条及び35条で定める令状主義の精神を没却しかねない。また、③公判手続等のビデオリンク方式化及び④証人尋問手続のビデオリンク方式の拡大については、裁判所が「相当と認めるとき」は弁護人が異議を出してもビデオリンク方式によることができてしまうという点で、被疑者・被告人の防御権や反対尋問権を侵害するおそれがある。さらに、⑤通信傍受法(盗聴法)の対象犯罪の拡大については、IT化にかこつけて2項強盗や2項詐欺などを盗聴対象にするもので、盗聴法それ自体が違憲立法であることに鑑みれば、当然に対象犯罪の拡大も違憲であり、どさくさに紛れて盗聴法の適用場面を拡大することは許されない。

3 また、法案の最も重大な問題点として、②電磁的記録提供命令制度の創設がある。これは、クラウド上やパソコン上に保存されているデータを捜査機関に直接移転できるようにするものであるが、被疑事実との関連性がないデータまでもが大量に取得されてしまうおそれがあり、また、一度収集された無関係のデータを消去する規定が存在せず、捜査機関に蓄積されてしまい、さらに、従前の記録命令付差押では存在しなかった命令対象者への罰則規定が導入されるなど多くの問題がある。
 特に、現在のデジタル社会においては、クラウド上に大量のデータがストックされており、被疑事実と関連しない大量のデータが差し押さえられてしまうこととなる。その上、電磁的記録提供命令の対象者に対しては秘密保持命令を付すことができ、電気通信事業者が提供命令対象者となり秘密保持命令を付された場合は、本来のデータ帰属主体に自身のデータが差し押さえられたことの通知すらなされない。これらの点で盗聴法よりも個人情報及びプライバシー侵害の度合いが高いとすら評価できる。

4 衆議院での審議においては、法案に存する様々な問題について質疑が何度も出されたが、法務大臣や政府委員はいずれも正面から回答することなくはぐらかすような答弁に終始した。また、最終的に可決された修正案には、電磁的記録提供命令について無関係の情報を消去する実効的な仕組みなどは入れられず、「犯罪事実と関連性のない個人情報ができる限り収集されることのないよう・・・関係者へ周知する」、「収集された情報が個人の重要なプライバシー情報等を含みうることに十分に留意」するなどとの附帯決議が付されたのみであり、根本的な問題は何ら解消されていない。

5 自由法曹団は、本年3月24日に「刑事IT化法案に反対する意見書」を発表したが、衆議院での法案審議では、同意見書で指摘した法案の危険性が一層明確になった。
 私たちは、刑事IT化法案が衆議院本会議で可決されたことに対して厳重に抗議するとともに、参議院での審議においては、法案の問題点をさらに明らかにし、これを廃案とすることを強く求める。

 

            2025年5月9日

自  由  法  曹  団
団 長  岩田 研二郎

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