2025年5月15日、「給特法等「改正」法案に反対し、教員定数の増員と時間勤務手当の支給を求める」声明を発表しました
給特法等「改正」法案に反対し、教員定数の増員と時間勤務手当の支給を求める
2025年5月15日、衆議院本会議において、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(以下「給特法」という)及び学校教育法等の「改正」法案(政府提出原案及び修正案。以下「給特法等『改正』法案」という)が可決された。給特法等「改正」法案は、以下述べる通り、時間外勤務に対する手当を原則支払わないとする現行制度が維持され、教員の長時間労働の解消につながらない等の重大な問題がある。
1 給特法等「改正」法案では教員の長時間勤務は解消しない
給特法の改正の出発点は、教員の深刻な長時間勤務の実態である。文科省は2016年の勤務実態調査で、実に中学校教員の約6割がいわゆる過労死ラインを超える勤務をしている実態が明らかとなって以降、「働き方改革」を推進してきた。しかしながら、2022年の全日本教職員組合の「教職員勤務実態調査」では、持ち帰り業務も含めた教員の時間外勤務の平均は月96時間10分であり依然として過酷な勤務実態にある。
現状の「働き方改革」のみでは、長時間勤務解消の対策として不十分であることは明らかである。
2 教員の増員が必要不可欠である
教員一人ひとりの業務を減らすためには、教員定数増が不可欠である。この間の参考人質疑でも、給特法等「改正」法案のもとになった中教審特別部会委員をはじめ、多くの参考人が、教員増が必要であるとの意見を述べたことは重要である。
給特法等「改正」法案では、教育委員会や校長に業務量管理などの計画策定や方針策定を義務付けているが、教員が担っている業務は多岐にわたり、子どもの課題が複雑化する中で、子どもの学ぶ権利を保障する観点からは業務削減には限界がある。
教員の長時間勤務を解消し、子どもの学習権を保障するために、さらに抜本的な教員の定数改善が不可欠である。
3 時間外勤務手当の不支給制度を温存するのは不当である
公立学校では、時間外勤務手当等を支給しないと定めた給特法によって、いわゆる「定額働かせ放題」の状態となり、これが長時間勤務が蔓延する原因となってきた。もはや、時間外勤務手当を支給しない扱いは著しく不合理である。
ところが、給特法等「改正」法案は、時間外手当を支給しない現行制度がそのまま維持される内容となっていて、教員の長時間勤務に歯止めをかけることができない。また、同法案は、教職調整額を段階的に10%まで引き上げるとしているが、教職調整額の増額自体には、勤務時間を削減する効果はない。
法案審議で、文科省は「時間外在校等時間」なる時間を主張し、この時間に教員が学校教育活動に関する業務を行っても、労働基準法上の労働時間には該当しない業務がある旨の答弁を行った。学校の教育活動に従事しても労働時間として認めないというのでは、教員の労働時間の実態が曖昧となり、長時間勤務の歯止めが無いままとなるおそれがある。4月25日に参考人に立った高橋哲大阪大学准教授は、教員の時間外勤務が労働時間に該当しないとの文科省の見解は法的根拠のないものであって、教員の業務に従事した時間が労働基準法上の「労働時間」であることを明確にすることが必要だと厳しく指摘した。可決された給特法等「改正」法案は、附則で2029年までに「時間外在校等時間」を月平均30時間程度に削減することを目標とする旨が記載されたが、これまで法的根拠がなかった「時間外在校等時間」について、かえって月30時間もの時間外業務を行うことを容認しかねず重大な問題がある。
4 「新たな職」や「新たな級」の創設は学校現場の分断を招く
給特法等「改正」法案は、「新たな職(主務教諭)」を創設している。また文科省は、今後これに対応した「新たな級」(職務給)導入しようとしている。
「新たな職」の創設で人事評価や管理をさらに強化し、その結果を職種の昇進や昇給に反映させることで、学校現場の階層化がさらに進む。これにより教員が対等な立場での共同を困難にするおそれがあり導入すべきでない。
5 まとめ
以上、衆議院で可決された給特法等「改正」法案は、時間外勤務手当が支給されない現行制度を維持し、学校現場の階層化を進める主務教諭や「新たな級」の導入をするものであって、教員の長時間勤務解消につながらないばかりか、学校現場の共同を困難にするおそれがあるなど重大な問題がある。
自由法曹団は、教員の長時間勤務を解消するために、給特法等「改正」法案に反対し、教員定数の抜本的増員と教員への時間外勤務手当の支給を求める。
以上
2025年5月15日
自 由 法 曹 団
団長 岩田研二郎