2025年5月22日、「サイバー先制攻撃法の成立に抗議し、 運用の監視と同法の廃止に向けた取り組みの継続を決意する声明」を発表しました
サイバー先制攻撃法の成立に抗議し、運用の監視と同法の廃止に向けた取り組みの継続を決意する声明
1 本年5月16日、参議院は、サイバー先制攻撃法案(能動的サイバー防御法案)を本会議で可決し、本法を成立させた(以下、「本法」という。)。
本法は、以下のとおり、政府による国民の通信情報の監視を認め、サイバー先制攻撃を認めるものであり、戦争国家につながる危険な法律である。
2 本法は、①海外から国内設備を通って海外に送られる通信、②海外から国内への通信、③国内から海外への通信、の各通信情報を政府が把握・分析しようとするものである。①の場合には送受信者の同意なしに、また事業者が政府との協定により政府に提供する場合には取引先や利用者の同意なしに、政府が通信情報を取得できることになる。
政府はIPアドレスやメールアドレスなどの機械的情報により選別して、不正行為に関係のない通信情報は削除するとしているが、政府が一度取得した情報を流出・流用する危険は否定できない。また、将来的には、国内同士の通信を対象とする可能性も否定されていない。
本法は、憲法21条で保障された通信の秘密やプライバシーを侵害して、国民を監視下に置くものといわざるを得ない。
3 また、本法では、サイバー攻撃のおそれがある場合などに、警察や自衛隊が「無害化措置」を講じることを認めている。無害化措置により、国外にあるサーバーのプログラムを削除・停止させることになり、相手国の主権を侵害することとなる。のみならず、それ自体がサイバー攻撃に当たり、サイバー上の先制攻撃を認めものである。サイバー上であっても、先制攻撃により相手国のインフラ機能などに障害が生じるおそれがあり、憲法9条が禁止する「武力行使」に当たる可能性もある。さらには、サイバー上の攻撃と反撃が過熱して相手国との戦争に至るおそれもある。
「サイバー先制攻撃」を認める本法は、憲法9条に違反し、戦争事態を招き寄せるおそれがあり、許されない。
4 衆議院での審議においては、法案について、通信の秘密を不当に制限しないと明記するととともに、政府が取得した通信情報の件数などを独立機関が国会に報告することを義務づける等の修正がなされた。
しかしながら、通信の秘密を不当に制限しないことは自明の理であるところ、これを明記したところで、本法の根本的な問題点は解消されない。また、独立機関が国会に報告するからといって、そもそもの問題が排除されるわけでもない。
さらに、参議院の内閣委員会において、取得した情報を使用する際は犯罪捜査目的ではなく、サイバーセキュリティー対策に関する場合に限定することなどを政府に求める付帯決議が採択されたが、制限の実効性は疑わしく、根本的な問題の解消にはならない。
5 私たち自由法曹団は、本年3月12日に「能動的サイバー防御法案に対する意見書~国民監視と先制攻撃の危険な問題点を解明する」を発表し、本年4月15日には法案が衆議院本会議で可決されたことに対して厳重に抗議しているが、今般改めて、本法の成立に対して強く抗議する。
それとともに、市民の権利が害されることを許さないため、法の運用を監視するとともに、本法を廃止とするため、市民とともに、引き続きたたかう決意を表明する。
2025年5月22日
自 由 法 曹 団
団長 岩 田 研 二 郎