2025年6月12日、「賃貸借の終了請求制度の創設を含む「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」の成立に抗議し、借家権者・区分所有者の権利を守る法運用を求める声明」を発表しました

カテゴリ:声明,市民・消費者

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賃貸借の終了請求制度の創設を含む「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」の成立に抗議し、借家権者・区分所有者の権利を守る法運用を求める声明

 

1 本年5月23日、参議院は、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」を本会議で可決し、成立させた(以下「本法」という)。しかしながら、本法は以下の通り、大きな問題がある。

2 最たるものが、賃貸借の終了請求制度の創設である。現行借地借家法は、建物賃貸借契約の貸主が更新拒絶や解約を求める場合に、「正当の事由」(借地借家法第28条)を要件とし、「正当の事由」の存否については、賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情を主たる要素として、「建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況」、立退料等の「財産上の給付の申し出」などを補完的に考慮して判断される。したがって、建替え決議があったことのみを理由にして、「正当の事由」を認めるといった機械的な一律の判断をするものではない。しかしながら、本法の賃借権消滅請求権は、建替え決議のみで、用対連基準による通損補償をすれば、賃借権を終了させることができるため、借地借家法が保護する賃貸借契約が継続する権利をはく奪するものである。賃借人は、建替え決議に際して議決権を行使できないため、自ら関与できない手続きによって、一方的に賃借権の消滅を甘受しなければならないが、合理性・相当性に疑問がある。

3 また、区分所有法の建替え決議の決議要件が「区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数」とされているものを、建物の耐震性・耐火性不足、老朽化等、一定の客観的要件を満たす場合には「4分の3」とすることとしている。しかし、現状において区分所有建物の建替えが困難となっている原因は、その決議要件の過重性ではなく、建替えによる利用容積率の低下や建替えに要する区分所有者の負担額の増加といった経済的、現実的な問題に起因するところが大きい。決議要件を緩和しただけでは、結局、建替え負担額を拠出できる富裕層のみが建替えの利益を享受でき、資金を欠く区分所有者は建替え決議により退去を強いられるといった結論を招きかねない。

4 参院国交委附帯決議7項では、「マンション再生事業等により、借家権者や、高齢の区分所有者など住宅の確保に特に配慮を要する者が新たに住まいを確保する必要がある場合には、それらの者の居住の安定の確保を十分に図ること。また、公営住宅等の公的賃貸住宅の活用が図られるよう、地方公共団体への的確な支援に努めること。」とされている。本法の施行後は最低限、同附帯決議を遵守し、借家権者や区分所有者の権利を不当に侵害しないことが求められる。そして、同附帯決議が遵守されない場合には、附則8条2項により、本法の抜本的見直しを検討すべきである。

5 以上の通り、自由法曹団は、本法の成立に対して強く抗議するとともに、最低限、附帯決議7項に基づき借家権者・区分所有者の権利を侵害しない法運用をもとめ、これが履行されない場合には本法の抜本的見直しを行うことを求める。

 

2025年6月12日

                              自 由 法 曹 団
                              団長 岩田 研二郎

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