2025年7月23日、「福井女子中学生殺人事件再審無罪判決を歓迎し検察官による上告の断念を求める声明」を発表しました。

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福井女子中学生殺人事件再審無罪判決を歓迎し検察官による上告の断念を求める声明

 2025年7月18日、名古屋高等裁判所金沢支部(増田啓祐裁判長)は、福井女子中学生殺人事件について、検察官による控訴を棄却して、前川彰司さんに対する再審無罪判決を言い渡した。

 本件は、1986年に福井市で起きた女子中学生に対する殺人事件であるが、被告人とされた前川さんは、逮捕後、客観的証拠がないことが判明したにもかかわらず、検察官により強引に起訴された。1990年の確定審第一審の福井地方裁判所は、前川さんと犯行を結びつける物証がないことや前川さんの犯人性を根拠づける事件関係者の供述の信用性を否定し無罪判決を言い渡した。しかし、確定審控訴審の名古屋高等裁判所金沢支部は1995年に、事件関係者の供述が「大筋で一致している」として逆転有罪判決(懲役7年)を言い渡し、最高裁判所の上告棄却により有罪判決が確定した。

 前川さんは出所後、2004年7月に第1次再審請求を申し立て、2011年11月に名古屋高等裁判所金沢支部が再審開始決定を出したが、検察の異議申立てにより異議審である名古屋高等裁判所本庁は再審開始決定を取り消し、特別抗告審もその判断を維持し、再審への道がいったんは閉ざされた。

 前川さんは2022年10月に第2次再審請求を申し立て、その再審請求審において、警察保管の捜査報告メモを含む計287点の証拠が新たに開示され、事件関係者1名の証人尋問も実施された。その結果、2024年10月に名古屋高等裁判所金沢支部は再審開始決定を出した。

 本判決は、このような第2次再審請求での再審開始決定を受けて始まった再審公判での無罪判決であり、争点となった事件関係者の目撃証言の信用性を否定するとともに、第一審の無罪判決に、経験則、論理則違反があることを明らかにするような検察官の立証はなく、原判決の事実認定は正当であり、事実誤認はないとして、検察官の控訴を棄却した。

 それだけでなく、本判決は、事件関係者の一人が、自らの刑事事件について有利な量刑を得るなどの自己の不当な利益を図るために、前川さんが本件殺人事件の犯人であるとのうその供述を行い、捜査に行き詰まった捜査機関において、他の事件関係者に対して当該事件関係者のうその供述に基づく誘導等の不当な働きかけを行い、他の事件関係者も迎合した供述をした結果、前記のうその供述に沿う事件関係者供述が形成された合理的疑いが払拭できず、事件関係者の供述はいずれも信用できないとした。

 また、事件関係者の取調担当警察官が、当該事件関係者が控訴審において、検察の主張に沿った証言をした後、結婚祝いと称して金銭を交付することにより、証言を歪めた疑いを認めた。

 さらに、検察官が、上記事件関係者の供述の信用性にかかわるテレビ番組の放映日が事件当日ではないことを第一審の途中で認識しながら、第一審の論告、控訴趣意書において、テレビ番組の放映日が事件当日であるとの主張を繰り返したことについて、公益を代表する検察官としてあるまじき不誠実で罪深い不正の所為と言わざるを得ず、到底容認することはできないと、語気を強めて批判した。

 

 再審をめぐっては、今国会で、通常国会の会期末に野党主導の議員立法による再審法改正案が上程されたものの継続審議となり、再審請求審における証拠開示規定創設や検察官による不服申立て禁止が、法改正によって実現するか、いまだ見通せない状況にある。さらに、並行して進められている法務省主導の法制審議会では、証拠開示や検察官による不服申立て禁止に否定的な意見も出されている。

しかし、本件は、第1次再審請求審での再審開始決定が検察官の異議申立てにより覆されたことにより、今回の再審無罪判決が言い渡されるまで12年もの貴重な時間が浪費された事件であるとともに、第2次再審請求審で広範な証拠開示が実現したことで再審開始に結びついた事件であって、改めて議員立法での再審法改正が必要であることを示している。再審請求審における証拠開示規定と開始決定に対する検察官の不服申立て禁止は、えん罪被害者の人権を救済するため、一刻も早く立法化されなければならない。

 自由法曹団は、これからも捜査機関による違法不当な捜査をなくすために取り組み、冤罪防止に向けた活動をさらに強め、一刻も早い議員立法による再審法改正を求めていくものであるが、本件で約39年の長きにわたって雪冤のために真実の声をあげ続けて、再審の重い扉を開き、無罪判決を獲得された前川さんやそのご家族、支援者、弁護団の奮闘に心からの敬意を表する。また、捜査機関や検察官の不当な所為を厳しく批判する本判決を高く評価して歓迎するとともに、検察官に対して、上告の断念を強く求めるものである。

  2025年7月23日

自  由  法  曹  団

団 長  岩 田 研 二 郎

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