2025年12月8日 高市・自維連立内閣の暴走を食い止めよう(団長声明)を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和,治安警察,秘密保護

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高市・自維連立内閣の暴走を食い止めよう

 

1、2025年10月21日召集の第219回臨時国会において、高市早苗自民党総裁が日本維新の会の支援を受けて内閣総理大臣に指名され、高市連立内閣が発足した。
 高市首相は、故安倍首相の後継を標榜しており、自民党と維新の会との連立合意書では、日米同盟を基軸に、極東の戦略的安定を支え、世界の安全保障に貢献すること、②責任ある積極財政に基づく効果的な官民の投資拡大を進めつつ、肥大化する非効率な政府の在り方の見直しを通じた歳出改革を徹底することによって、社会の課題を解決することを目指すこと、③憲法改正や安全保障改革、社会保障改革、統治機構改革を含む中長期にわたる日本社会の発展の基盤となる構造改革の推進、がうたわれている。

2、だが、高市内閣がやろうとしていることは、「安保3文書」の前倒し改定と、防衛関連費の国内総生産(GDP)比2%とする目標のさらなる増額である。これをアメリカ政府の要求に応じてGDP比3.5%にまで高めれば、20兆円を超え、国家予算の2割以上を軍事費が占めることになる。社会保障関係費を始め他の予算を著しく圧迫するだけでなく、将来的に防衛増税(例えば消費税増税)によって国民生活へのしわ寄せを生じさせることが容易に想定される。
 また、高市首相は、日米首脳会談で、日米同盟は世界で最も偉大な同盟だと自画自賛し、第二次安倍内閣が武器輸出三原則を改定して定めた防衛装備移転三原則にある制限(輸出可能装備品5類型)すら撤廃し武器輸出を大幅に拡大しようとしている。高市首相は持論として、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とした非核三原則が「邪魔」と主張していたが、同原則の見直しも検討すると報じられている。さらに自衛隊の階級名を旧日本軍と同様に変更することも検討されている。
 高市首相は、国会答弁において、台湾有事が「存立危機事態(日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態)になりうる」と主張し、台湾有事においてアメリカと共に介入・参戦していくかまえを表明した。これは高市内閣が従来の内閣よりも踏み込み、台湾有事をきっかけに戦争に突入していく狙いを持っていることを端的に語ったものと言える。
 このように、高市内閣は、トランプ・アメリカ政府の要求に沿って大軍拡をおこない、歴代内閣が設けたルールも改変し、アメリカと共に戦争に突入していこうと前のめりになっている。そして、そのための最大の制約となっている憲法を変えようと、自民・維新の会の連立合意では憲法審査会に条文起草委員会を常設し、緊急危機事態条項の創設を皮切りに改憲に踏み出そうとしている。
 しかも、高市内閣は「積極財政」をうたい、経済対策として、物価高対策や「危機管理投資」と並べて、「防衛力と外交力の強化」をうたい、防衛産業の成長を「経済対策」の柱の一つとして位置づけている。
 このような高市・自維連立内閣の方針は、日米同盟の名の下、防衛ではなく、日本を再び戦争する国にしようという現実的な狙いを持ったものである。安倍内閣以上に危険な内閣と言ってよい。

3、さらに、自民・維新の会の連立合意では、インテリジェンス機能の強化として、一方で「日本版CIA」ともいえる国家情報局をおき、情報要員(スパイ)養成機関を創設するとし、他方で、「スパイ防止関連法制」の制定を掲げている。
 前者については、大軍拡や日米作戦指令部の統一と並んで、諜報活動面でもアメリカと協力し、一体化をはかろうとするものと言える。
 後者については、すでに特定秘密保護法や重要経済安保情報保護法が制定されているもとで、これに輪をかけて「スパイ防止」の名の下に保護する情報とは一体なんであるのか不明であり、そもそも立法事実が欠けている。また、情報漏洩以前の、探知や協議・計画の段階から処罰の対象とされた場合、対象秘密が不明確なことと合せて、政府・捜査機関による濫用のおそれが高いことは、冤罪が確定している大川原化工機事件の例を見れば明らかと言える。高市首相は「外国勢力から日本を守る」と国会答弁で述べているが、この「外国勢力」の定義が不明確であり、外国人の団体一般を広く含めると、国際交流をしている者はすべて監視の対象となりかねない。さらに高市首相は、「外国勢力からの工作、情報の窃取」以外にも、「社会の安定を乱す、民主主義を損なう様々なリスクに対応する」と述べており、こうなるとスパイ活動ではなく政府を批判する運動も「社会の安定を乱す」ものとして処罰対象とされかねない。しかも、自民党が1985年に提案し、廃案となったスパイ防止法では最高刑が死刑とされており、重罰によって国民を威嚇し、黙らせることを企図した戦前の治安維持法をほうふつとさせるものである。
 この高市内閣による「インテリジェンス」政策は、自らアメリカと共にスパイ戦争に参加し、他方で、国民を重罰の威嚇のもとに統制しようとするものであり、自由と民主主義を圧殺し、人権を侵害するおそれの高いものである、

4、参院選で示された民意に添うならば、やるべきは企業団体献金の禁止など「政治とカネ」の問題にけじめをつけ、物価高対策として消費税減税など国民の懐が温かくなる施策をとり、食料安全保障のため農家を支援し食糧自給率を高めること等であろう。
 ところが、高市内閣は、これらの課題には背を向けて、「身を切る改革」ではなく、民意を切る国会議員比例定数削減を打ち出し、消費税減税は先送りし、OTC類似薬の保険適用外しなど社会保障費の4兆円削減と、維新の会の求める副首都構想を打ち出している。
 国民の求める改革をせずに、維新の会とともにひたすら「戦争する国」にむけて邁進しようとしている高市・自維連立内閣の暴走を許せば、戦後日本の平和主義、民主主義、立憲主義が大きく変質させられる危険がある。自由法曹団は、この自維連立政権の暴走に反対する国民各層の運動や野党各党と力を合わせ、自由と民主主義の擁護のために全力を尽くす所存である。

 

2025年12月8日

自 由 法 曹 団
団 長 黒 岩 哲 彦

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