2026年6月23日、「国旗の損壊等の処罰に関する法律」の制定に反対し、同法律案の廃案を求める声明を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和,治安警察

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「国旗の損壊等の処罰に関する法律」の制定に反対し、同法律案の廃案を求める

 

2026年6月23日

自  由  法  曹  団
団長 黒  岩  哲  彦

 

1 2026(令和8)年6月1日、自由民主党は、日本の国旗を損壊する行為を処罰する「国旗損壊罪」の制定を検討するプロジェクトチームと関連部会の合同会議において、「国旗の損壊等に処罰に関する法律案」(以下「自民党PT案」という。)を了承し、議員立法として今国会における成立を目指すことを確認した。
 自民党PT案では、保護法益は「国旗を大切に思う国民感情を保護」することであるとされ、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損する行為等」を処罰対象として、「2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金」の刑罰を科するとしている。さらに、自民党PT案においては、自ら国旗を損壊する等の行為を撮影し、SNS等で配信、投稿するなど、不特定多数もしくは多数の者に提供、公開する行為についても処罰対象とするとされていた。
 2026(令和8)年6月16日、上記自民党PT案からSNSへの投稿を処罰対象から外した「国旗損壊罪」法案(以下「国旗損壊罪法案」という。)が、自民党・日本維新の会・国民民主党・参政党の4党によって共同提出された。
 なお、SNSへの投稿を明示的な処罰対象から外したことについて、自民党PTの座長である松野博一元官房長官は、ライブ配信をすることは「公然」と同じで処罰対象となると説明している。
 しかし、国旗損壊罪法案には、以下述べるとおり、立法事実ないし当該行為に新たな処罰規定を創設する必要性がなく、憲法19条が保障する思想・良心の自由、憲法21条が保障する表現の自由を侵害するものであり、罪刑法定主義を定める憲法31条に違反するものであって、到底容認することはできず、国旗損壊罪の制定に反対し、同法案の廃案を求める。

2 そもそも、1999(平成11)年に制定された国旗国歌法の制定過程においては、法律草案から成案になるまでの過程において、国旗国歌に対する尊重義務の義務づけ規定は排除され、政府も「法制化に伴い、国旗に対する尊重規定や侮辱罪を創設することは考えておりません。……国旗の掲揚等に関し義務づけを行うことは考えておらず,したがって,国民の生活に何らの影響や変化が生ずることとはならない」(1999(平成11)年6月29日衆議院本会議小渕恵三内閣総理大臣答弁)と説明し、国旗を損壊した場合の罰則について「国家の威信の保護の在り方として刑罰をもって強制することが適当かという根本的な問題がある」ことから「国旗の損壊等を新たな処罰の対象とすることは考えていない」と説明してきたところである。
 自民党PTが作成した骨子案では「外国国旗の損壊は処罰対象になる一方、自国の国旗についての規定がない。」ことが挙げられているが、刑法92条が定める外国国章損壊罪は、過去において、外国国旗等が損壊されたことに端を発して、外交問題に発展した過去の実例に鑑みて設けられた規定であり、「日本と外国の間の円滑な国交関係の維持」を保護するという実体的根拠を持つ規定である。
 骨子案においては、国内での国旗損壊事例として、1987年の沖縄海邦国体の会場に掲揚されていた日の丸を引き下ろし、ライターで火をつけて掲げた後、その場に投げ捨てて半分ほどを焼失させ逮捕された事例及び2008年に靖国神社の境内で、参拝客が所持していた日の丸を奪い、足で踏み付けた上、竿を折り、逮捕された例が挙げられている。しかし、これらの事例は、いずれも器物損壊罪として処罰された事案であり、「国旗損壊罪」を創設しなければ、処罰できない事例は挙げられておらず、立法事実が存在しないことは明らかである。
 また、器物損壊罪あるいは威力業務妨害罪の法定刑は、いずれも3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金とされているところ、現行刑法でも処罰対象となり得る行為について「2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金」の法定刑の別罪を重ねて制定することについて合理的な説明はされておらず、国旗損壊罪法案には、立法事実ないし当該行為に新たな処罰規定を創設する必要性がないことは明らかである。

3 国旗である「日の丸」について、戦前の侵略戦争を行った軍国主義の象徴であり、国歌である「君が代」とあわせて、「国体」の象徴と捉える人もいるなど、日の丸に対する個人の感情は多様である。
 保護法益とされる「国旗を大切に思う国民感情」は極めてあいまいな概念であり、国家を象徴する国旗を大切に思う国民感情を刑罰によって醸成しようとすること自体、民主主義を否定し、国家が国民の道徳形成に介入し国家への忠誠を強制した戦前の全体主義国家への回帰であって、思想良心の自由を保障する憲法19条に抵触するものである。

4 また、本罪の構成要件は、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させる方法により」、「公然と」、「損壊し、除去し、又は汚損」する行為とされており、他者の意識に働きかける行為を処罰対象とするものである。
 アメリカ合衆国連邦最高裁は、1989(平成元)年、アメリカ国旗を焼却した行為について、「表現的行為を構成し、修正第1条の発動が許される」と判断し、国旗冒涜により有罪とすることはできないと判断した(Texas v. Johnson、491 U.S. 397 (1989))、アメリカ連邦最高裁は、1990(平成2)年、連邦議会が制定した国旗保護法の適用に際しても、国旗は国家の統一や愛国心の象徴として尊重されるべきである一方で、国旗に対する向き合い方自体、それによって象徴される国家への意見表明でもあるとし、表現の自由・思想良心の自由は、民主主義社会の根幹をなすものであって、政府が特定の思想や意見を抑圧するために表現の自由を制限することとなることを理由として国旗損壊行為を処罰することは許されないことを改めて確認している(United States v. Eichman、496 U.S. 310 (1990))。
 このように国旗を損壊等の行為は、国旗が象徴する国家に対する抗議の意見表明としてなされる行為であることも多く、これを処罰対象とすることは、政府への批判や抗議を示す政治的表現を委縮させる危険が大きく、憲法21条が保障する政治的表現の自由を侵害するものである。
 骨子案では、「お子様ランチの旗」や「絵画に描かれた国旗」、アニメやゲーム、生成AIによって創作されたものは処罰対象外と例示されているものの、法律案では「『国旗』とは、国旗及び国歌に関する法律に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物」(法案第1条)とされ、アニメやゲーム、生成AIによって創作されたものが対象外となることは明示されていない。また、骨子案では、「実物の国旗を用いた実写映画等の芸術的表現は、社会通念上、相当と認められるものは、対象外と考えられる。」とされているが、法案では、処罰対象となる行為について、法案第2条3項は「行為の外形、周囲の状況、その他の客観的な事情を総合的に勘案して行う」こととしており、芸術的表現が処罰対象とされる恐れは排除されていない。
 そうであれば、映画や映像、アニメやゲーム、生成AIによる創作されたものも処罰対象となる可能性が排除されておらず、表現活動全体に委縮効果を及ぼすものであって、憲法21条が保障する表現の自由に正面から抵触することになる。

5 加えて、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」という構成要件自体、どのような方法であるのか全く特定されておらず、あいまい不明確かつ抽象的な刑罰法規は憲法31条の罪刑法定主義の一内容である「明確性の原則」に反するものであり、違憲無効となるというほかない。
 また、「不快」、「嫌悪の情」といった主観的かつ抽象的な構成要件は、捜査機関による該当性判断が拡大され、かつ恣意的になされる危険が大きく、この点からも憲法31条による適正手続の保障を害するものでもある。

6 以上のとおり、国旗損壊罪法案には、立法事実ないし当該行為に新たな処罰規定を創設する必要性がなく、憲法19条が保障する思想・良心の自由、憲法21条が保障する表現の自由を侵害するものであり、罪刑法定主義を定める憲法31条に違反するものである。
 自由法曹団は、国旗損壊罪法の制定に強く反対するとともに、基本的人権を脅かす同法案を廃案とすること求める。

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