2025年8月21日、「日本政府に対してパレスチナの国家承認を求める声明 」を発表しました
日本政府に対してパレスチナの国家承認を求める声明
1 2023年10月7日以降始まったイスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区に対する大規模侵攻・攻撃によって、ガザでの死者は6万34人に達した(2025年7月29日現在)。ガザ保健当局によれば、そのうち1万8592人は子供であり、9782人は女性である。廃墟と化したガザの市街地の瓦礫の下敷きになっている人の数は数千人とも報じられ、実際の犠牲者の数は現在の発表を大きく上回る可能性がある。
ガザ地区では、2025年3月2日以降のイスラエルによる検問所を通じた物資搬入の禁止・制限によって、多くの民間人に人工的飢餓が発生している。食料安全保障の世界標準である総合的食料安全保障レベル分類(IPC:The Integrated Food Security Phase Classification)に基づく報告によれば、2025年9月末までにガザ地区の人口の22%にあたる47万人に対して、飢餓の最も深刻なフェーズである「飢饉」(IPCフェーズ1~5段階のうち5)の危機が迫っており、ガザ地区の全ての住民が急性食料不安(IPCフェーズ3)に陥ると予測されている。[1][2]
加えて、同年5月に活動を開始した、アメリカとイスラエルが主導するガザ人道財団(GHF:Gaza Humanitarian Foundation)がガザ地区に設置する3~5箇所の配給所に多数の民間人が殺到するなか、イスラエル軍による銃撃等によって875人が命を落としている。[3]
2 ヨルダン川西岸地区でも状況は深刻である。イスラエル軍による攻撃ならびにイスラエル人による違法な入植及び入植者らによるパレスチナ人に対する攻撃は西岸地区でも激化しており、国連人道問題調整事務所(OCHA)の発表によれば、2023年10月7日から2025年6月末までの間に955人のパレスチナ人がイスラエル軍や入植者によって殺害され、数万人が家を追われているという状況である。[4]
このようなパレスチナ自治区全土における極めて非人道的な事態が常態化する中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ガザ地区全域の占領を打ち出し[5]、ガザ住民を域外に退去させる考えを示している。2005年のガザ地区等撤退、2007年以降のガザ地区封鎖による間接的占領を経て、ガザ地区を再び直接占領する方向性が国家レベルで明確に示されたといえる。
3 イスラエルによるガザ地区やヨルダン川西岸地区での蛮行は2023年10月に突然始まったわけではない。
1948年5月のイスラエル独立宣言及びこれに引き続く第一次中東戦争によって、パレスチナの地に居住していたパレスチナ人70~80万人が難民となった。パレスチナ難民の帰還権は、1948年の国連総会決議194及び1974年の国連総会決議3236等において国際的に承認されながらも、イスラエル政府は、パレスチナ難民が帰還権を有するとの考えを一貫して否定している。
また、パレスチナはオスロ合意及びオスロ合意Ⅱによって「自治権」を付与されながらも、ガザ地区においては2007年以降の完全封鎖、ヨルダン川西岸地区においてはA、B、C地区の区分や分離壁の建設等によるイスラエル人とパレスチナ人の居住区の分断など、イスラエルのパレスチナに対するアパルトヘイト的政策や直接的・間接的占領による分割統治が長年にわたって行われ、パレスチナ人の自決権はイスラエルによって常に侵害されてきたのであって、ガザ地区やヨルダン川西岸地区の人々は、イスラエルの入植者植民地主義による侵略の犠牲となり続けてきたのである。
4 現在のイスラエルによるパレスチナ侵攻等が、ジェノサイド条約上の集団殺害であることは明らかであるが、これは、イスラエルによる長年にわたるパレスチナ人の自決権の否定がエスカレートした末の一つの帰結にほかならない。
このような状況の中、国際社会においては、イスラエルに対する非難が高まるとともに、パレスチナを国家承認する動きが強まっている。すでに国連加盟193カ国中147カ国がパレスチナを国家として承認しているが、2025年7月、フランスが同年9月の国連総会においてパレスチナを国家承認する意向を表明したのを皮切りに、G7諸国においては、イギリス、カナダがそれぞれ条件を付しつつも、パレスチナ国家承認に向けた動きを見せている。また、同年8月、オーストラリア、ニュージーランドが相次いでパレスチナを国家承認する方針を発表している。
日本国政府は従前より、1967年6月4日時点の境界線(グリーンライン)を国境ラインとする「二国家解決案」を支持しつつも[6][7]、その実現については当事者間の直接交渉によって解決されるべきであるとの立場を採っている。しかしながら、イスラエル・パレスチナ両者間の圧倒的な非対称的関係に照らして均衡的な力関係に基づく直接交渉なるものが困難であること、そして、その非対称性を生み出しているのが、イスラエルを国家承認しつつもパレスチナに対してこれを行わないといった日本国政府や欧州主要国の不均衡な態度に起因することは明らかである。イスラエルとパレスチナとの間の非対称的関係が、イスラエルによるパレスチナ侵攻、そしてこれによる6万人以上の人民の殺害というあまりにも凄惨な形でエスカレートした現在においてもなお、パレスチナを国家として承認しない合理的理由は存在しない。
ガザ危機の解決のためには、2024年7月に出された国際司法裁判所(ICJ)の勧告に基づき、イスラエルによる占領地での違法駐留の終結、入植活動の即時停止と退去を実現すること、そして、パレスチナ人の民族自決権の実現、独立国家として承認することこそが必要である。
自由法曹団は、日本政府に対し、憲法9条を持つ国として、国際社会の先頭に立って違法駐留の終結と入植活動の即時停止と退去をイスラエルに強く迫ると同時に、パレスチナ人の民族自決権及びパレスチナ難民の帰還権を保障するため、可及的速やかに無条件でパレスチナを国家承認することを求める。
2025年8月21日
自 由 法 曹 団
団 長 岩田研二郎
[1] 「ガザ、飢きんの恐れ」ユニセフら新報告 物資搬入の即時再開求める 7.1万人の子ども、緊急栄養治療が必要に
[2] IPC : ガザで「飢饉という最悪のシナリオが進行中」と警告 | 公益社団法人 日本WHO協会
[3] https://news.un.org/en/story/2025/07/1165396
[4] https://www.ochaopt.org/content/west-bank-monthly-snapshot-casualties-property-damage-and-displacement-june-2025
[5] https://mainichi.jp/articles/20250807/ddm/007/030/096000c
[6] https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/middleeast/tachiba.html
[7] https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaikenw_000001_00058.html