2025年10月20日、「クルド人に対するヘイトスピーチと闘い、 あわせて拡大する外国人差別・排外主義と闘うことを表明する決議」

カテゴリ:市民・消費者,決議

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クルド人に対するヘイトスピーチと闘い、
あわせて拡大する外国人差別・排外主義と闘うことを表明する決議

 

1 2023年頃より埼玉県川口市と蕨市に居住するクルド人に対するヘイトスピーチが激しくなっている。SNS上では、クルド人の動画や写真が無断でアップされたり、「クルド人は不法滞在者」「テロリスト」「犯罪者」などと根拠のないデマやヘイトの言説が拡散されたりしている。2024年10月にはクルド人の子どもの無加工の映像が「万引きをしている」とのデマとともに拡散された。被害を受けた子どもたちは深く傷つき、トラウマを負った。現在、クルドの人々は安心して戸外を歩くこともできないような事態になっている。
 ヘイトスピーチは、憲法14条1項や、日本が加盟する人種差別撤廃条約の趣旨及び2016年に制定された不当な差別的言動解消法に違反する重大な人権侵害である。ヘイトスピーチは、人種や民族、宗教、性別など、特定の属性に対して憎悪を表明したり、差別を正当化もしくは助長する表現であり、特定の属性を社会から排除することで社会を分断し、その属性を有する人々の心を傷つけ、生存すら困難にするおそれがある。それだけでなく、ヘイトスピーチは特定の属性に対する憎悪を煽り、ヘイトクライムを引き起こしかねないものである。実際、上記のとおりクルド人の子どもに対するいじめや暴力、そしてヘイトクライム事案は複数報告されているのである。
 インターネットにとどまらず、街頭でもヘイトスピーチは発生している。神奈川県在住のある男性は、2023年9月から2024年10月まで、蕨駅周辺で、少なくとも9回のデモを実施し、「自爆テロを支援するクルド協会は、日本にいらない!テロを肯定する外国人との共生は無い!」との横断幕や「暴走危険クルドカーの恐怖」「根絶せよクルド犯罪と偽装難民」とのプラカードを掲げた。デモ参加者は「テロを支援する外国人との協調はありません」「即刻強制送還せよ」「危険極まりないクルドカーで地域住民を恐怖に陥れる、こんなクルドカーは迷惑だ」「クルド人は日本から出て行け」「移民は日本から出て行け」「クルド人を日本から叩き出せ」等と叫んだ。これらは、クルド人という特定の属性に対する憎悪の表明であり、差別を正当化し、助長するものにほかならない。このようなヘイトスピーチを行うことは断じて許されない。
 これに対し、自由法曹団員を中心とするクルドヘイト対策弁護団は、クルド人文化協会に対するヘイトスピーチを伴うデモ・街頭宣伝について、2024年11月20日、クルド文化協会周辺のデモ・街頭宣伝を禁止する仮処分を取得し、現在、さいたま地裁で本訴を闘っている。

2 クルド人のみならず、外国人全般に対する差別的言説や排外主義的風潮も社会に蔓延している。 
 2025年7月の参議院選挙期間中は、自民党や公明党、日本維新の会、国民民主党、日本保守党、参政党などが、外国人の存在を警戒し、排斥する方向での政策の提言を競い合うような事態が生じ、「外国人の増加によって治安が悪化した」「外国人が生活保護を不正に受給している」「外国人留学生が優遇を受けている」といった、根も葉もないデマがSNSを中心に拡散し、排外主義的風潮が蔓延し、「日本人ファースト」を掲げた極右政党である参政党が躍進した。排外主義は、外国人や外国ルーツの人々を貶め、その尊厳を侵し、外国人に対する偏見と差別を助長するものであることはもちろん、異なる国籍や民族間の対立を煽り、共生社会を破壊するものである。そうした排外主義がもたらす社会の分断は戦争への地ならしとなりうる極めて危険なものであり、断じて許してはならない。
 同時に、同年5月に入国管理局が「国民の安心安全のための不法滞在者ゼロプラン」を打ち出したことや政府与党が「違法外国人ゼロプラン」を打ち出したこと、与党の総裁選で候補者が揃って外国人排斥的な政策を打ち出したことをみれば、排外主義の風潮の背景には、物価高や雇用不安、先行きの見えない日本経済等に対する国民の不満の受け皿として外国人を利用し、失政から国民の目を逸らさせようとする、権力の思惑があることが明らかである。
 排外主義の風潮は、社会を分断し、特定民族に対する差別やヘイトスピーチを加速させ、さらには国の政策すら誤らせかねない。実際、日本の政府機関であり、開発途上国への技術協力や資金協力を実施する独立行政法人である国際協力機構(JICA)が国内4市をアフリカ諸国の「ホームタウン」に認定する国際交流事業を撤回した事例は、撤回の判断に「移民政策だ」とするデマが強く影響したと考えられるのであり、今後も事実に基づかない排外主義的言説によって政策が歪められる事態が続く危険がある。

3 外国人差別が拡大し、排外主義の風潮が蔓延して右傾化が進む社会において、その波に飲み込まれることなく、外国人への差別、外国人への偏見や差別につながる排外主義的言説、差別的政策や公人による差別の扇動を許さず、国籍に関わりなく、誰もが個人として尊重され、差別されることなく平和に暮らせる社会の実現に向けて取り組むことが切実に求められている。
 自由法曹団は、クルド人に対するものも含め、あらゆる差別とヘイトスピーチを許さず、これと断固として闘うこと、そして、経済や生活に対する不満や不安を外国人に向けることは問題の解決にならないことを市民に訴え、外国人差別・排外主義と闘っていくことを表明する。

 

2025年10月20日

自 由 法 曹 団
2025年茨城・筑波山総会

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