2026年3月10日、『外国人の生活保護利用の「適正化」政府方針(総合的対応策)に反対する声明』を発表しました
外国人の生活保護利用の「適正化」政府方針(総合的対応策)に反対する声明
2026年3月10日
自 由 法 曹 団
団 長 黒 岩 哲 彦
1 政府方針(総合的対応策)の概要とその問題点
(1) 「総合的対応策」の概要
2026年1月23日、政府各閣僚を構成員とする「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」(議長:木原稔内閣官房長官)は、「一部外国人 によるものであるものの、我が国の法やルールを逸脱する行為や制度の不適正利用について、国民が不安や不公平を感じる状況も生じており、こうした状況に的確に対処する必要がある」として、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」(以下、「総合的対応策」という。)を取りまとめた。
総合的対応策は、日本国の「法やルールの中で、国民と外国人の双方が互いに尊重し、安全・安心に生活し、共に繫栄する社会の実現を目指す」(総合的対応策2頁)として、「法やルールを逸脱する行為に対する公正・厳正な対処」や「事実・実態を把握した上での制度適正化」をおこなうとしている(「総合的対応策(概要)(詳細版)」の「Ⅰ 基本的な考え方」)。そして、その具体策として、「生活保護制度の運用の適正化」を掲げ(総合的対応策29~34頁)、「行政措置の対象となる者の見直しも含め、保護の補足性の原理との関係も考慮しながら、外国人のよる制度の適正な利用に向けた必要な措置を検討する」(総合的対応策34頁。下線は引用者による)と結論付けている。
(2) 総合的対応策の問題点の概要
しかし、総合的対応策は「法やルールを逸脱する行為」に対処するとしているが、これは国籍や人種のいかんを問わずに求められものであり、外国人に限って「適正な利用」に向けて対象者を限定する方向で見直しを掲げることは、外国人全体を不適正な利用者であるとの印象を植え付けるものであって、偏見を助長しかねない。かかる意味で「総合的対応策」はミスリードな方針である。
また、現状において、そもそも、外国人には、生活保護法の適用対象とされておらず、したがって、外国人は、生活保護の受給(利用)権を有していないとされている。
その上で、日本政府は、「適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない永住、定住等の在留資格を有する外国人 」を対象に「人道上の観点から、行政措置として、生活保護法の取扱いに準じた保護」を行うという運用がなされている(昭和29年5月8日厚生省社会局長通知)。
そして、この生活保護法の「準用」となる対象は、永住者、特別永住者、日本人の配偶者、入管法の難民認定を受けた者等に限定されており、生活保護制度全体からみれば、外国人の利用者はわずか3%弱に過ぎない。
仮に、現行制度のもとで生活保護を利用している外国人の適正化を図るのであれば、生活保護を利用している外国人に「法やルールを逸脱する行為」があったのか否か、同行為により制度の適用対象者を見直す必要がある事態が生じたのか、を具体的な事実に基づいて検討しなければならないはずであるが、総合的対応策ではこのような具体的な事実に基づく検討は一切なされていない。
以上が総合的対応策の問題点の概要であるが、以下では総合的対応策の個別の方針についてその不当性と根本的な誤りを指摘する。
3 政府方針(総合的対応策)の不当性・根本的誤り
(1) 「行政措置の対象となる者の見直し」の不当性・具体的根拠の欠落
総合的対応策の述べる「行政措置の対象となる者の見直し」とは、現状の措置の対象者をさらに限定する方向での「見直し」を想定しているものと解される。
しかし、上述のとおり、現状の行政措置の対象者は、もとより極めて限定的であり、いずれも、生活保護の対象とすることの人道上の根拠がある者である。総合的対応策には、これをさらに限定すべき必要性を裏付ける具体的・客観的根拠につき一切言及がない。具体的・客観的根拠もなく、本来生活保護の対象となるべき外国人の範囲を狭めることは、決してあってはならない。
(2) 不適正利用の規制の必要性と国籍は本来的に無関係
総合的対応策は、「外国人による適正な利用に向けた必要な措置」を検討すると述べる。しかし、外国人か日本国籍保有者であるかにかかわらず、仮に個別ケースで不正があったとしても、現行の生活保護法に基づく規律を及ぼせば足りるはずである。総合的対応策には、これを超えて、外国人だけを対象に規制を強化する必要性を裏付ける具体的根拠の記載は一切ない。ましてや、総合的対応策の述べる「不安や不公平を感じる状況」というのは、広く外国人が日本人より優遇されているであろうという根拠なき不公平感等を述べるに過ぎない。このような事実に反する不公平感が仮にあるのであれが、その誤った事実認識の基づく不公平感の解消をすることが求められこそすれ、それが外国人に対する生活保護の規制を強化する根拠となることなどありえない。
にもかかわらず、「国民が不安や不公平を感じ」ているなどという、具体根拠を欠く「状況」を理由に、規制を強化したりすることは、断じてあってはならない。
(3) 排外主義的思想に基づく方針である
このように、総合的対応策は、要するに、「国民が不安や不公平を感じる状況」なるものを理由にして、外国人の生活保護制度の不適切利用がある事実などの客観的・具体的根拠を一切述べることなく、生活保護の対象とする外国人の対象をいっそう限定し、規制を強化しようとするものに他ならない。
しかも、上記で述べた通り、外国人の生活保護制度の準用範囲は現状においても極めて限定されており、その適用範囲から外れる外国人に対してはたとえ命の危険があったとしても生活保護の準用が認められていないし(東京高判令和6年8月6日)、準用対象者であっても権利性は認められていないので不服申し立てができず(最判平成26年7月18日ジュリスト1479号28頁)、さらに、事情の如何を問わず外国人登録証の登録地を管轄する福祉事務所が保護を実施するものとされており、「現在地保護」(生活保護法19条1項2号)が行われないためにDV被害者などは準用対象者であっても生活保護を利用できないなど、極めて抑制的な対応が取られているのであって、外国人がこと生活保護制度に関して優遇されている事実等は一切ない。
このように客観的・具体的な根拠もなく、国民が感じる外国人への「不安や不公平感」なるものを理由に、外国人に対する生活保護法上の特別の規制をしたり、生活保護の保障外に置こうとする政府の方針は外国人に対する根拠なき差別的取り扱いであり、外国人が生活保護を利用するのは問題であるとのいわば排外主義的な発想に基づく施策というほかない。排外主義は、異なる国籍・民族間の対立を煽り、共生社会の破壊にも繋がりうるものであり、また、日本国憲法の国際協調主義にも反するものであって、政府がこれを推進することは断じて許されるものではない。
4 外国人にも「行政措置」ではなく権利に基づく生活保護の保障が求められる
外国人労働者を含め、日本国内で生活する外国人は増加しており、総合的対応策が目的とする「国民と外国人の双方が互いに尊重し、安全・安心に生活し、共に繫栄する社会の実現」のためには、外国人にも広く生存のセーフティーネットである生活保護を及ぼしていくことが求められる。
また、個人の尊厳に立脚する憲法13条、健康で文化的な生活を営む生存権を保障する憲法25条、すべての者に相当な生活水準についての権利を認め、締約国にこの実現を確保するための措置を求めている国際人権(社会権)規約11条等に照らせば、すべての人の尊厳に値する生活を実現する責務が国ないし地方公共団体にはあるというべきであって、外国人に対しても性質上可能な限り日本国民と同様の生活保護の保障を及ぼしていくべきである。具体的には、外国人を含むすべての人を生存権享有主体として明記すべきであり、外国人への適用を排除する解釈を生みかねない「国民」(生活保護法2条)の文言を「すべての人」に改正するなど生活保護法の改正が必要である。
5 まとめ
自由法曹団は、「総合的対応策」において具体的根拠なく外国人の生活保護利用の適正化を行うとすることに対して断固として抗議するとともに、外国人にも等しく生活保護を「適用」していく方向での生活保護法の改正を求める。
