2026年4月18日、「高市政権が強行しようとする裁量労働制の適用拡大に反対し、労働時間規制の強化と大幅な賃上げを求める声明」を発表しました
高市政権が強行しようとする裁量労働制の適用拡大に反対し、
労働時間規制の強化と大幅な賃上げを求める声明
2026年4月18日
自 由 法 曹 団
団 長 黒 岩 哲 彦
1 労働時間規制の緩和(裁量労働制の拡大)に向けた突如の検討の開始
2025年10月21日、自民党と日本維新の会の連立によって高市早苗自民党総裁が新首相に選ばれたが、高市首相は、同日、全閣僚向けの指示書の中で、上野賢一郎厚生労働相に対し、「心身の健康維持と従業者の選択を前提とした労働時間規制の緩和の検討を行う」よう指示した(第2次政権発足時の閣僚指示書でも同様)。かかる、規制緩和指示の問題性については、2025年11月11日付「労働時間の規制緩和ではなく、労働時間規制強化を含む労働者の命と健康を守るための労働法制の実現を求める声明」で具体的に述べたとおり、労働者の命と健康、及び生活時間を守るために法律で定めた「最低基準」を曖昧にするものであり許されるものではない。
大企業・財界は、かねてより労働基準法が定める労働時間規制の緩和について強い要求をしてきた。労働基準法の改正については、従前、労働基準関係法制研究会の検討結果を踏まえ、労政審・労働条件分科会が、2026年通常国会提出での法改正に向けて議論を進めていた。労働基準関係法制研究会の報告書には、重大な問題点や不十分な点が存在するものの(具体的には、2025年2月25日付「労働基準関係法制研究会報告書の問題点を明らかにし、労働者の権利保護のための議論を求める意見書」に述べたとおりである)、少なくとも、現行法以上の労働時間規制の緩和や、裁量労働制の拡大についての言及はなかった。議論が労政審に議論移行となった後も、一部使用者委員から、裁量労働制の拡大について議論をすべきとの意見が挙げられ、検討対象の1つとされたものの、労働側委員からの強い反対の意見もあり、委員会として裁量労働制の拡大に向けた具体的な議論は進められていなかった。
しかし、高市政権発足後、上記の労働時間規制に向けた検討指示がなされたのち、突如として首相直轄の日本成長戦略会議において労働時間規制の緩和等に向けた議論がなされることとなった。これに伴い、労政審労働条件分科会が目標としていた2026年通常国会での労基法の改正が急遽見送られることとなった。また、高市首相は施政方針演説で労働時間規制緩和のうち、特に「裁量労働制の見直し」に踏む込むことを明言した。
上述のとおり、労働基準関係法制研究会の報告書においては、現行法以上に労働時間規制の緩和を進める方向での明言は一切なく、その後の労働条件分科会での議論も、基本的にはそれを踏襲していたと評価できる。しかし、高市政権発足後、このような議論の経過を無視して、突如として裁量労働制の拡大に向けた議論がなされることとなった。
2 日本成長戦略会議の議論には労働者の声が反映されない
高市政権は、労働時間規制緩和の中心的な内容として、裁量労働制の拡大を目論んでいるが、その議論の場を、労政審・労働条件分科会ではなく、内閣直轄の日本成長戦略会議・労働市場改革分科会で行うこととした。現在は、労政審・労働条件分科会だけでなく日本成長戦略会議・労働市場改革分科会でも同じ議論が並行しているところ、日本成長戦略会議は日本成長戦略本部が主催する会議であり、同本部が内閣に属している機関である以上は、日本成長戦略会議での議論が労政審・労働条件分科会にトップダウンで押し付けられる危険性が高い。
また、労政審・労働条件分科会の委員構成は、ILO諸条約を踏まえて公労使三者が等しい人数の構成となっているが、日本成長戦略会議・労働市場改革分科会では、構成員12名の内、労働者側の立場からの委員は1名のみであり、労働者の立場を踏まえた公正・公平な議論がなされるとは到底考え難い委員構成である。
日本成長戦略会議・労働市場改革分科会での議論は2026年3月11日、同年4月3日とすでに行われ、分科会としての取りまとめは今年5月頃、成長戦略会議としての取りまとめは今年夏頃を予定するなど急ピッチで進められている。
従前の議論経過を無視し、首相の強い意向のもと労働者の意見を十分に確認することなくトップダウンで裁量労働制の拡大を含む労働時間規制の緩和を強行することは、断じて許されない。
3 そもそも裁量労働制を拡大する必要性がない
また、高市首相の施政方針演説では「働き方改革の総点検においてお聞きした働く方々のお声を踏まえ」て裁量労働制の適用拡大を行うとしている。これは、2026年3月5日に公表された「働き方改革関連法施行後5年の総点検」のアンケート調査を指すものであるが、同調査結果を踏まえれば裁量労働制の適用拡大をする必要などないことは明らかである。
すなわち、同アンケートでは「労働時間を増やしたい」と回答した労働者はわずか10.5%にとどまり、しかもその58.1%の労働者が所定労働時間が週35時間以下であってそもそもの労働時間が法定労働時間より短い労働者で単純にもっと働きたいという労働者とは区別される。また、「労働時間を増やしたい」と回答した労働者につき、なぜ労働時間を増やしたいか尋ねる質問では、41.6%が「たくさん稼ぎたいから」、15.6%が「収入(残業代)がないと家計が厳しいから」と回答しており、労働時間を増やしたい理由として収入の増加を求めていることは明白である。そうであれば、みなし労働時間を基準として残業代の支給の有無や金額が決定される裁量労働制を適用拡大してもかかる労働者のニーズには合致しないばかりか、残業代が減らされることによる収入減があり得る以上は裁量労働制の適用対象範囲を狭めたほうが良いということになるはずである。
むしろ同アンケート調査の回答結果を踏まえれば、労働時間の規制を強化したうえで大幅な賃上げを求めることこそが求められている。
4 以上、自由法曹団としてはこのような高市政権による労働者の声を無視したトップダウンでの裁量労働制の適用拡大の策動に対し断固反対するとともに、労働者の権利や命・健康を守る労働時間法制の規制を強化したうえで、賃金の大幅上昇(最低賃金含む)や、正規・非正規労働の格差を是正するための労働法制の実現を、強く求めるものである。
以上
