2026年5月19日 「国家情報会議設置法案の廃案を求める緊急意見書」を発表しました

カテゴリ:意見書,戦争法制,治安警察,秘密保護

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国家情報会議設置法案の廃案を求める緊急意見書

                           

 2026年5月19日
                          自 由 法 曹 団

 

1 法案の成立は容認できない 
 国家情報会議設置法案は、当年4月23日に衆議院で可決成立させられ、5月8日から参議院で審議入りした。5月26日にも、参議院の内閣委員会で採決かと言われている。
 しかし、本法案は、会議に参加する省庁に対し、‘司令塔’役を担う国家情報局が求める情報を提供する義務を負わせるものであり、このため各省庁がその役割を果たすために集めた国民個々人のプライバシー情報を含む情報を「第三者」であるところの国家情報会議に無制約で提出させることになりうる。
 また本法案には、国家情報局の求めに応じて各省庁において国内外の多くの人々を監視して情報を収集することを抑止も監視もする機関も仕組みもない。いわば国家情報会議の「やりたい放題」である。
 政府は、「スパイ防止」法制の一環として本法案を位置づけているが、「スパイ」が誰かわからないもとで、「スパイ」とみなす人物を抽出するためには膨大な国民のプライバシー情報を吸い上げ、分析を試みることになる。このため本法案により設置される国家情報会議は、「スパイ防止」というよりは、国民を監視し、その情報を収集・分析をはかる機能を果たすのがその狙いと言え、時の政権にとって都合の悪い行動をする人物、今で言えば「戦争反対」を掲げ、政権の進めようとする施策に反対する人々を監視し、対策を講じることで「戦争できる国」づくりを進めるためのものである側面が強いと言ってよい。
 しかも、これは、「スパイ防止」法制の第一弾であって、第二弾としてその後の提出が予定される「スパイ防止基本法案」や「外国代理人制度法案」、第三弾として「対外情法庁案」や「インテリジェンス関係者保護法案」が予定されている。これらが法律として成立し、運用がされていけば、戦前のように政権に都合の悪いことを言う人が社会から排除され、あるいは投獄され、再び戦争の惨禍が日本を襲うかもしれない。このことは、我々自由法曹団のみならず、「トランプの戦争」に日本が巻き込まれるのではないかと危惧した多くの人々が共有するものである。よって、自由法曹団は本法案の成立に断固反対するものである。自由法曹団は、既に本年3月30日団長声明と4月30日意見書で、国家情報会議設置法案の危険性を明らかにしたが、さらにその問題点を以下に述べる。参議院各議員及び政党においては、これらの重大な問題を踏まえてさらに慎重に審理をされることを求める。

2 国家情報会議設置法案の構造とその危険性 
 国家情報会議は、内閣総理大臣を議長として、安全保障やテロ、緊急事態などの情報の収集調査に係る「重要情報活動」と、外国の利益を図る目的による秘密情報取得といった「外国情報活動への対処」についての調査審議をする機関である(法案第2条)。
 本法案は、付則第5条で内閣法を改定し、内閣情報調査室を格上げして「内閣官房に国家情報局を置く」とする。国家情報局は、国家情報会議の事務局として資料または情報を総合整理するほか(改定内閣法第16条の2第2項)、特定秘密保護法第3条1項で定義されている「特定秘密」の保護に関する事務を行うとされている。さらに付則第2条で国家公務員法を改定し「内閣情報官」を格上げして「国家情報局長」としている。
 つまり、国家情報会議は、内閣総理大臣をトップにして、各省庁にある情報機関を束ねて、その‘司令塔’役として内閣情報調査室を格上げした国家情報局を置いて、各省庁に必要と考える情報を指示して提供させることができるようにしたものである。この会議が収集する情報である「重要情報活動」には「重要な国政の運営に資する情報の収集調査」もふくまれ、「外国情報活動」には「それと一体として行われる不正な活動」も含むとされるなど、収集される情報の範囲や対策の範囲は広汎不明確である。このためどんな情報が収集・集約されるかは現時点でわからず、なんの縛りもないに等しい。
 また、本法案は各省庁に情報の提供を義務づけるものであるから、各省庁が国民への行政サービスを提供するために収集している各種の情報について、個人情報保護法の「法令に基づく場合」として簡単に第三者提供をされかねない。
 しかも、本法案には国家情報会議がどのような情報を収集・集約しているのか、不法または不当に情報を集めたりしていないかを監視ないし点検をする仕組みは用意されていないことは法文上明らかである。むしろ政府答弁においてはそのようなことはしないとまで言い切っている(たとえば415日衆院内閣委員会における立憲民主党・大島議員の質問に対する木原国務大臣の答弁)。
 これでは、国家情報会議は「やりたい放題」になるのであり、しかも集めた情報は「特定秘密」として指定されれば、国民は政府が何をしているのかを知ることもできず、ただ支配される存在となりかねない。このような事態はおよそ民主主義社会に適合しないものである。

3 行政組織法であることの危険性 
 本法案は、行政機構の枠組みを作る行政組織法であるとされている。そのため政府答弁においても、本法律によりプライバシー侵害など起こらないと繰り返し答弁がなされている。
 だが、すでに当年4月30日付の意見書においても指摘したように、大垣警察市民監視事件や自衛隊保全隊市民監視事件のように、国家情報会議を構成することになる大臣がいる省庁による国民に対する違法な監視事件が起きており、政府はこれに対する反省の弁を何ら述べていない。このもとにおいて、国家情報局が国家の安全のためと称してデモ参加者等の情報の提供を各省庁に要求した場合、各省庁において、すでに保有する情報の第三者(国家情報局)への提供はもとより、積極的に新たな監視により得た情報を提供しようとすることが起こることが十分に予想される。
 したがって、組織法だからプライバシー侵害は起こらないというのはとってつけた言い訳であり、法律がもたらす実際の機能・効果を隠したものである。むしろ、組織法としてしか定めず、情報活動が非権力的行政活動であり作用法による規律が不要との主張により、情報管理・分析を規制する行政作用法がないもとで、明示的な法的枠組みを欠いた諜報活動を許容することとなる。そのことは、前記大垣警察市民監視事件のように、行政組織法とされている警察法に基づいて公安警察が違法な情報収集活動を行なっている例からも明らかである。
 そのもとで、国家情報会議の議長である内閣総理大臣の行政全体に対する指揮権を根拠として、あらゆる行政機関が保有する情報を、国家情報局が強制力を持って集約できるようになる危険がある。なお、すでに作用法としては後述する特定秘密保護法などがあり、内閣情報室の国家情報局への格上げにより、特定秘密保護法の問題点をも格上げする面もあると言える。

4 国会答弁に示された現実の人権侵害の危険
 衆議院内閣委員会での質疑においては、マイナンバーに紐づけられた情報・能動的サイバー防御法に基づいて集められたIT情報などについても、政府は利用しないとは言わず、必要があれば利用するという答弁であった(4月22日の中道改革連合・後藤祐一議員の質問に対する木原国務大臣の答弁)。
 また、同日の質疑では、「法に基づかない不適切な監視や人権侵害を行うことは断じてない。」との答弁がなされた。しかし、内閣情報調査室や警備公安警察、自衛隊の情報保全隊、公安調査庁などの既存情報機関がこれまで人権侵害を犯してきたことに対する歴史的検証と反省の答弁はなされなかった(4月22日の共産・塩川鉄也議員の質問に対する木原国務大臣の答弁)。そのうち何件かはその人権侵害が裁判で断罪されているにもかかわらずである(詳細は4月30日付意見書を参照されたい)
 そして、本法案では、国家情報局が各省庁に対し、情報の提供を義務づけられるとされているのであるから、先に指摘したように情報の目的外使用が常態化するおそれがある。

5 政治部門と情報部門の融合の危険
 さらに、組織法としても、国家情報会議や国家情報局という組織の在り方自体に問題がある。
 すなわち、憲法上、行政は法律に基づき執行されねばならず、公務員は時の政治権力にではなく国民全体に奉仕する者と規定され(憲法第15条1項)、その自律性と政治的中立性が保障されなければならない。この観点から、各省の一般職公務員の人事は各省が行なうとされてきた。しかし、2013年に内閣官房に内閣人事局が設置され、幹部官僚人事を政治権力が掌握することとなった。今回の国家情報会議設置、内閣情報調査室の国家情報局への格上げは、こうした行政の自律性を害して政治権力が掌握していく流れの中にある。しかも、とりわけ情報部門は、政治権力がこれを掌握して悪用すると重大な人権侵害を引き起こすため、政治部門との分離がなされ政治的中立性が確保される必要がある。米英豪加などのいわゆるファイブアイズでは政治権力のトップは情報部門と一応分離されている。
 ところが、国家情報会議は内閣総理大臣が議長を務め、内閣官房に国家情報局が置かれるのであって、各省の情報部門を束ねることになる国家情報局と政治部門が一体なのである。国家情報局の前身である内閣情報調査室が、官房機密費を使った政界工作やマスコミ対策を行ない、官邸に仕える政治的な活動をしていた疑いは幾度となく指摘されてきたが、それが一層強化されかねない。高市首相は、自民党総裁選中に対立候補に関する誹謗中傷ととれるような動画を大量に流すよう工作をしていたということが報道されているが、このような工作を政府が行なうようになることが懸念される。衆議院内閣委員会の質疑では、国家情報局の政治的中立性を確保する旨の答弁がなされたが、その制度的担保はない。この点で、国家情報会議設置法案には決定的な欠陥がある。

6 国家情報局が所轄する特定秘密保護法の問題点 
 上記の通り、国家情報局は、付則第5条により、集約された情報のうち各省で既に特定秘密として指定されていないものも特定秘密として指定し、提供された特定秘密を「保護」する役割を担うことになると考えられる。特定秘密保護法第3条1項は「当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」を特定秘密として指定することを規定する。外国情報活動の対象は「公になっていない情報のうちその漏えいが重要国政運営に支障を与えるおそれがあるもの」とされるので、特定秘密よりも幅広い。しかし、現行の秘密保護法制のもとでは以下の問題が指摘されている。
① 秘密指定における除外事項が定められておらず、国と社会にとって重要な事実が秘密とされ、共有されなくなる可能性がある。しかも、秘密に指定された情報がそのまま廃棄され、何が秘密に指定されたかが、結局明らかにならない。
② 秘密指定されても一定の年限の後に秘密指定が解除される制度はあるが、運用基準に定められ(特定秘密保護法第18条)、秘密指定機関の裁量にゆだねられているため、秘密指定された情報の全貌を知ることはできない。秘密指定された重要な情報が、明らかにされないまま廃棄されてしまう可能性がある。
③ 特定個人に関する誤った情報が秘密指定されていても、これを外部からチェックして誤りを訂正することのできる、ドイツには用意されているようなシステムがない。
④ 各行政機関は、特定秘密を取り扱う職員や契約事業者の従業員の適正評価およびその対象者の調査をする(特定秘密保護法第12条1項)。その場合、調査内容はブラックボックス化しており、外国を利して日本を害する活動やテロとの関係として(現在は運用基準で禁止されているものの)個人の思想信条や市民活動歴などを調査される可能性がある(同条2項)。また、犯罪歴、懲戒歴、薬物使用、精神疾患、飲酒、経済状態などのプライバシーが調査される。
⑤ 適性評価の結果得られた個人情報が目的外利用される危険がある。たとえば、同法第16条1項は、原則として特定秘密の保護以外の目的による利用を禁じ、その例外として国家公務員法第38条を挙げる。しかし、同条には懲戒歴、特定の犯罪歴のある者、暴力革命政党・団体への加入者が規定されている。これらの個人情報は目的外利用される危険がある。
 国家情報局への情報集約の下では、特定秘密保護法のこれらの問題がさらに拡大される危険がある。特定秘密保護法第6条には、他の行政機関による特定秘密の利用の規定があるが、これを実際に行ないやすくするのが国家情報局なのである。
 その一方で、特定秘密保護法にはあるプライバシー保護のための規定(上記の①②⑤などや特定秘密運用についての国会への報告(同法第19条))が、特定秘密に当たらない重要情報には適用されない。そのため、国家情報会議設置法は、特定秘密保護法よりもプライバシー侵害性の高いものとなる危険が大となる。

7 まとめ 
 本法案については、衆議院での十分な審議がなされないまま、与党の圧倒的多数の議席の下で可決されてしまった。しかし、良識の府であるべき参議院においては、前述のような、国家情報会議と国家情報局の問題点、すなわち、対象情報の広汎不明確性、政治部門と情報機関と警察組織の癒着の危険性、政治的中立性の担保の欠如、国家情報局を統制する独立した第三者機関の欠如、個人情報の目的外利用禁止の担保の欠如、国会への報告の欠如、そして、そもそも、立法を必要とする事実があるのかという根本から徹底した審議をなすべきである。
 さらに、この国家情報会議などの組織のもとに、それを「実効あらしめる」ための「スパイ防止」法制、外国人代理人制度、対外情報庁の設置などに進むことは許されない。警察や情報機関による弾圧と闘う多数の事件に取り組んできた自由法曹団として、上記のような問題点を解消する担保がない限り、国家情報会議設置法案を徹底審議のうえ廃案とすることを強く求める。

以 上

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