2026年10月19日、「自民党インテリジェンス戦略本部が提言するインテリジェンス戦略及びスパイ防止法制に強く反対する決議」

カテゴリ:戦争法制,決議,治安警察,秘密保護

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自民党インテリジェンス戦略本部が提言する
インテリジェンス戦略及びスパイ防止法制に強く反対する決議

 

1 自由民主党インテリジェンス戦略本部は、2026年8月6日、「我が国の『情報防衛力』の強化に向けて」と題する提言(以下、「提言」という)を公表した。提言は、2025年10月の自民党維新の会の連立合意に基づき、2026年3月3日に公表した①国家情報会議の設置、②国家情報局の創設、③対外情報庁の創設、④情報要員養成機関の創設、⑤インテリジェンス・スパイ防止法制の整備を内容とする「我が国のインテリジェンス機能の抜本強化に関する提言」のうち、2026年特別国会において成立させた国家情報会議設置法に続いて進めようとする、インテリジェンス政策・スパイ防止法制を具体化した内容となっている。

2 まず、提言は、「情報防衛力」として抑止・収集・監視の一体的強化が必要であるとし、そのうち抑止体制(防諜体制)の整備として、①外国代理人の登録等義務と、②外国勢力による不正な干渉行為に対する刑事罰を含む「外国干渉防防止法(仮)」の整備に向けた検討を進めるとしている。
 外国代理人登録制度については、諸外国における実例があるものの、オーストラリアやカナダでは外国による選挙への干渉事例を踏まえて制度整備されたものであるところ、これまでに日本において公職の選挙等に対する外国の干渉が存在する実例は明らかにされておらず、直ちに制度を設ける必要性は乏しいことは明らかである。
 外国干渉の防止のために、不実表示(なりすましや欺罔)による政治介入や秘密指定されていない国家情報の取得について厳罰化し、あらたに刑事罰の対象とすることは、内心の探知を狙う無制限な捜査を引き起こし、報道機関の取材活動や表現の自由を萎縮させることになり、市民の権利自由の侵害につながることが懸念される。
 また、処罰対象とされる外国からの干渉は、事実上ロシアや中国等の特定国に限定され、「同志国」による干渉は黙認される恣意的な運用となる恐れが極めて高い。

3 次に、提言は、「情報収集能力(シギント、ヒューミント、オシント、ジオイント)の強化」が必要であるとし、それぞれの強化策を提示する。
 このうち通信情報収集(シギント)においては、通信傍受法の対象拡大のみならず、犯罪発生前の段階で行政承認によって行われる「行政傍受」の導入を検討するとされているが、これは憲法第21条が保障する通信の秘密を侵害し、憲法第35条の令状主義や第31条の適正手続き保障にも反するものであり違憲の疑いが極めて濃厚である。
 また、人的諜報(ヒューミント)については、「対外情報庁」と情報要員育成機関を置くことで安全保障目的の海外工作活動を進めようとしており、平和主義の理念を根底から覆すものである。また、公開情報分析(オシント)におけるSNS等の解析の民間委託や適性評価(セキュリティ・クリアランス)の拡大は、国家による一般市民のプロファイリングやプライバシー侵害を招く恐れが強い。さらに、人工衛星を用いた空間情報(ジオイント)の自衛隊連携強化は敵基地攻撃能力の発揮など軍事的緊張を著しく高める施策に他ならない。

4 一方で、提言は、議会や行政委員会による情報機関の監督・監察機能の強化にも言及しているが、議会による監視は、少数の議員で構成される委員会によるものであり、情報監視審査会と同様、間接的にインテリジェンス活動の監視をする制度にとどまるものであり、行政委員会は「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)31項が設置を求める「制度的にも、運用上も、財政的にも監視対象の機関から独立した監視組織」ではなく、直接的に情報機関の監視監督を実現するには不十分であると言わざるを得ない。

5 そして、提言では、具体的事例を挙げないまま「外国勢力による工作が『地方自治体』『大学』『企業』『重要インフラ』そして『国民一人ひとりの自由な判断』にまで及んで」いると断じており、ここから、政府・自民党の意向に従わない存在を、外国勢力による工作の影響によるものと捉えていることがうかがわれる。
 さらに、提言は、政府は、「情報リテラシー及びサイバーセキュリティに関する教育・啓発を官民で推進」していくべきとし、国民は「自由と民主主義をともに守る主体である」と位置付ける。
 いうまでもなく、国民は、政府・自民党とともに「自由と民主主義を守る」主体ではなく、政府・自民党に「情報リテラシー及びサイバーセキュリティに関して教育・啓発」を受ける客体でもあり得ない。
 そして、情報機関の真の顧客は、官邸要路と国家安全保障局であるとする。
 このような発想自体、1930年代後半、国民を戦争に動員するため政府が「国民の思想・精神の管理統制」を強化し、社会全体が戦争遂行を最優先とする「総力戦国家」へ転換されていった歴史を彷彿とさせる考え方であり、提言は、政権批判的な存在を排除・監視し、官民一体となった軍事国家体制へ組み込もうとする危険な思想に基づくことを露呈している。

6 そもそも日本は「スパイ天国」と言えるような状況にないことは政府自身が認めているところであり、「厳しい安全保障環境」にあるとしても、防衛上の機密が漏洩することを防ぐ手立ては講じられてきており、2000年のポガチョンコフ事件以来、20年以上にわたり外国への漏洩事案は報告されておらず、あらたに広く市民を監視する立法を必要とするものではない。
 日本は、侵略戦争に突き進んだことの痛苦な反省に立ち、「諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう」との決意のもとで、戦後復興を成し遂げ、現在も近隣諸国と緊密な経済関係を築き貿易と外交で平和と安全を保持してきた。
 自民党提言が示し、政府与党が進もうとしている道は、戦後の歩みを棄て去り、米国主導の戦争協力体制および市民総監視の軍事国家体制につながる道である。

7 自由法曹団は、1921年の創立以来、侵略戦争に反対し、自由と民主主義と人権の擁護を掲げて活動していた団体として、市民のプライバシーや通信の秘密などの基本的人権を脅かし、日本を市民総監視の軍事国家体制へ導く提言に強く反対し、外国代理人登録制度やスパイ防止法の制定に反対するあらゆる人々と手を携え、その制定を阻む闘いに全力を尽くす決意であることをここに表明する。

 

2026年10月19日

自  由  法  曹  団
2026年東京・浅草総会

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