2026年10月19日、「ガーナ国籍男性の生活保護利用を認めなかった最高裁決定を批判し、国籍・在留資格を問わずすべての人に生存権の保障を求める決議」

カテゴリ:決議,貧困・社会保障

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ガーナ国籍男性の生活保護利用を認めなかった最高裁決定を批判し、
国籍・在留資格を問わずすべての人に生存権の保障を求める決議

 

1 2021年11月、特定活動(「本邦の医療機関において医療を受けることを必要とする特別な事情を有する者が行う疾病のため療養する活動及び日常的な活動」)の在留資格で在留しているガーナ国籍の男性(以下、「本件男性」という。)が、重い病のため人工透析を受けなければ生命を維持できない状態となり、千葉市に対して生活保護の申請を行ったが、千葉市長は本件男性が生活保護法上の「国民」に該当しないことから申請を却下した。
 本件男性は、却下処分の取り消し等を求めて、千葉地裁に提訴したが、同裁判所は2024年1月16日、生活保護法1条及び2条の「国民」は日本国民を意味し外国人は含まれないとした2014年7月18日最高裁判決を踏襲し、外国人を保護の対象とするか否かは立法府の裁量に属するとして憲法25条違反の主張を退けたうえ、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知。以下「昭和29年通知」という。)に基づく保護申請の却下は抗告訴訟の対象となる処分に当たらず、行政措置としての保護の法的性質は贈与契約にすぎないとして、本件男性の請求をことごとく退けた。
 東京高裁も、2024年8月6日、「その限られた財源の下で給付を行うに当たり、自国民を在留外国人よりも優先的に扱うことも許容されている」と述べて、これを維持した。
 そして、最高裁第二小法廷は、2026年9月9日、上告理由が民事訴訟法所定の事由に当たらないという形式的な理由のみで、上告棄却をした(以下「本決定」という。)。

2 以上の各判決及び本決定は、法の文言と立法裁量、行政措置は恩恵に過ぎないなどと繰り返すばかりで、生存そのものが脅かされているひとりの人間の切実な訴えに対して正面から向き合おうとしなかった。とりわけ本決定の多数意見は、外国人を生活保護法の対象外とすることの憲法適合性について何らの判断も示さないまま審理を拒んだものであり、憲法の番人としての責務を放棄したものと言わざるを得ない。本決定は、外国人の生存権を行政の裁量等に委ね、生活に困窮する外国人を法の保護外に置くものであって、断じて容認できない。
 ただし、本決定には、裁判長である三浦守裁判官の反対意見が付されている。同反対意見は、憲法25条の生存権は「人間の生存と尊厳という最も重要かつ普遍的な価値を基礎としており、その価値は国籍によって左右されない」から、権利の性質上日本国民のみをその対象とするものとはいえないとしたうえで、生活保護法による保護の対象から外国人を除外することの憲法適合性は、権利の内容を具体化する立法裁量の問題ではなく、「既に具体化された権利の主体の要件に関し、日本国民と外国人を区別して、外国人の権利を否定することの合理性の問題」であり、憲法25条及び14条1項との関係で、その除外が在留資格その他の事情を踏まえた合理的な根拠に基づくことを要するとした。
 同反対意見はまた、社会権規約2条2項の差別禁止義務は即時の効力を有し、国籍による差別の禁止を含むこと、難民条約23条が公的扶助について内国民待遇を定めていること、政府自身が両条約の締結に際し、国会において生活保護は実質的に内外人同じ取扱いで実施しており批准に支障はない旨を答弁し、1981年には国民年金法等の国籍要件を撤廃したことなどを指摘し、外国人は合理的な根拠に基づく場合を除き、在留する国の社会の一員としてその国民と同等の取扱いを受けるという平等原則が規範として確立しているとした。
 そのうえで、療養活動を指定された特定活動の在留資格で在留する外国人(以下「療養活動外国人」という。)は、本邦の医療機関で医療を受ける必要があり、国籍国に帰国してその保護を受けることが困難な特別の事情を有する者であるから、困窮の程度に応じた必要な保護を否定することは「その生存に危険を生じさせるものであって、著しく人道に反し、個人の尊厳をないがしろにするもの」であり、難民等と同様、日本国民と異なる法律上の取扱いをすべき合理的な根拠を見いだし難いとした。そして、生活保護法1条及び2条のうち、少なくとも難民・補完的保護対象者及び療養活動外国人を除外する部分は憲法25条及び14条1項に違反して無効であり、これらの者は同法による保護を受ける権利を有すると結論づけたのである。

3 自由法曹団は本決定の多数意見に反対し、三浦反対意見に全面的に賛同する。国が人道上の理由から療養のための在留を認めながら就労を禁じ、そのうえ生活保護法による保護も行政措置による保護も認めないというのは、生きるための手段を国自身がすべて奪うに等しい。1990年の厚生省の口頭説明ですら、特定活動の在留資格を有する者については個別的に判断すべき事情があり得るとしていたのであり、本件男性のような療養活動外国人を保護の対象から排除する合理的な理由はどこにもない。
 もっとも、同反対意見自身が「『少なくとも』というのは、本件についての判断に必要な範囲で述べる趣旨であり、その他の外国人を除外することが合憲であることを意味しない」と明言しているとおり、難民や療養活動外国人等に限られず、在留資格を問わないすべての外国人との関係で生存権が保障されなければならない。
 同反対意見は、70年以上にわたり外国人に対する生活保護について法律上の制度を定めることを怠り、地方公共団体の裁量に委ねてきたことは「国として、外国人の生存と尊厳をおろそかにするもの」であり、生活保護を法律上の権利ではなく恩恵的な給付にとどめることは「我が国社会を共に構成する外国人一般に対する差別や偏見を助長するおそれがある」点でも、個人の尊厳及び平等という憲法の基本的な価値を損なうと厳しく指摘している。
 生存権が人間の生存と尊厳という普遍的な価値に基礎を置く以上、その保障は、国籍によっても、在留資格の有無や種類によっても左右されてはならない。1946年制定の旧生活保護法は、「生活の保護を要する状態にある者の生活を、国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護」するとしており、国籍による限定を設けていなかった。世界人権宣言及び社会権規約は、社会保障(9条)及び相当な生活水準(11条)についての「すべての者」の権利を定めている。
 特に在留資格を持たない人々こそ、最も過酷な状況に置かれている。仮放免者や難民認定申請中の人々の多くは、就労を禁じられ、国民健康保険にも加入できず、生活保護も行政措置による保護も受けられないまま、支援団体や個人の善意によって辛うじて命をつないでおり、病気になっても必要な医療を受けられずに重症化する事例が後を絶たない。
 外国人の生存権を行政措置という恩恵にとどめ、在留資格によって保護の対象を選別する現行制度は、憲法13条、14条1項及び25条、社会権規約並びに難民条約に反する。国会は、生活保護法を改正し、国籍及び在留資格の有無・種類を問わず、日本に在住するすべての人が、権利として保護を受け、不服申立て及び訴訟による救済を受けられることを明記すべきである。

4 よって、自由法曹団は、千葉地裁、東京高裁及び本決定に強く抗議するとともに、生活保護法1条及び2条の「国民」を「すべての人」に改めるなど同法を抜本的に改正し、国籍及び在留資格の有無・種類を問わず、日本に在住するすべての人に、権利としての生活保護を保障することを求める。

 

2026年10月19日

自  由  法  曹  団
2026年東京・浅草総会

 

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