(2018年11月17日掲載分)出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案 に反対し、廃案を求める決議

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出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案 に反対し、廃案を求める決議

1 安倍政権は、本年11月2日、出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改 正する法律案(以下「入管法等改正案」)を閣議決定して国会へ提出し、同法案は11月1 3日に衆議院本会議で審議入りした。

同法案は、外国人労働者の受入れ拡大を図るため、「特定技能1号」、「特定技能2号」 という新たな在留資格制度を創設し、法務省の外局として「出入国在留管理庁」を新設す ること等を内容とするものであり、施行時期は来年4月1日とされている。

これは、外国人労働者に対する人権侵害や労働関係法令違反等が多発している国内の現 状を放置したまま、また、国民的な議論もコンセンサスもないまま、安価な労働力確保と いう経済界の要望を優先して、来年4月からの外国人労働者の受入れ拡大へと突き進むも のであり、あまりに乱暴かつ拙速である。

2 厚生労働省の公表によると、国内の外国人労働者数は約128万人(うち技能実習約2 6万人、2017年10月末時点)となっているが(厚生労働省「『外国人雇用状況』の届 出状況まとめ)、雇用が不安定であること、社会保険の未加入が多いこと、法定労働条件 確保上の問題が認められる事案が多く、適正な雇用・労働条件の確保が求められているこ と、労働災害が増加傾向にあること、日本語能力や能力開発の機会が不十分であること等 が指摘されており(厚生労働省「平成30年度外国人労働者問題啓発月間実施要領」)、多 くの外国人労働者が劣悪な労働環境に置かれている。

とりわけ、外国人技能実習制度は問題であり、「技能実習」という名目のもと、外国人 を「単純労働」に従事させるケースが横行しており、人権侵害や最低賃金法および労働基 準法等の労働関係法令違反、中間搾取等の温床となっている。2017年に全国の労働局 や労働基準監督署が監督指導を行った技能実習生の実習実施者(受入れ企業)のうち、労 働基準関係法令違反が認められた事業場は実に70.8%(監督指導を実施した5966 事業場のうち4226事業場)にものぼり、労使協定を超えた残業、割増賃金の不払い、 危険や健康障害を防止する措置の未実施などが多発しているほか、労災隠しと見られる事 例も報道されている。重大・悪質な労働基準関係法令違反として送検された案件も34件 にのぼる。こうした技能実習制度の実態は、ILO総会、国連人権理事会、米国国務省等 など、国際的にも繰り返し批判の対象とされている。

しかし、今回の入管法等改正案では、技能実習制度を廃止せず、そればかりか技能実習 制度において技能実習2号を終了した者が「特定技能1号」へ移行することが予定され、 技能実習制度と同様に送出しや受入れの過程に民間機関を関与させることにもなってい る。現在の技能実習制度の濫用等による外国人労働者に対する人権侵害等の横行を何ら反 省せず、いっそう拡大させるものといわざるをえない。

3 法案には、受入れ業種・分野、在留期限、報酬基準、ブローカー規制といった新制度の 根幹部分が、明記されておらず、法案成立後に省令等で定めることとされている。これら について、国会のチェックを経ずに改廃できる省令等に委ねることは、受け入れ拡大後の 外国人労働の制度設計を政府に白紙委任するものであって、国民、国会軽視も甚だしい。 また、受け入れる外国人労働者の人数によっては、現在の日本国内の賃金・労働条件等へ の影響も否定できないところ、政府は、衆院法務委員会理事懇談会に、受入れ業種、人数 (「特定技能」14業種の5年間の受け入れ数の試算として最大約35万人)等を示した。 しかし、その根拠はあいまいで、過大な受け入れにつながりかねず、国内雇用への悪影響 が懸念されている。さらに、政府は、本年11月16日、失踪した外国人技能実習生に関 する聞き取り調査に「誤り」があったことを認めた。政府は、それまで、失踪の動機につ いて「より高い賃金を求めて」が約87%としていたが、実は、「より高い賃金を求めて」 という質問項目はなく、正しくは「低賃金」が67.2%だったというのである。これは、 単なる「ミス」とはいえず、「ねつ造」「改ざん」といわざるをえないものである。技能 実習生の人権侵害の実態把握及び環境改善は、法案審議の前提であり、正確なデータに基 づき、徹底的に審議、解明することが求められる。

このように法案には、様々な問題がある。にもかかわらず、拡大ありきで、来年4月か らの新制度施行に固執する安倍政権の姿勢は、厳しく批判されなければならない。

4 安倍政権自身、「未来投資戦略2017」(2017年6月9日閣議決定)では、外国人 材の受け入れのあり方について、「真に必要な分野に着目しつつ…国民的なコンセンサス 形成の在り方などを含めた必要な事項の調査・検討を政府横断的に進めていく」としてい たが、国民的な議論もコンセンサスもないまま、「経済財政運営と改革の基本方針201 8」(骨太の方針2018、2018年6月15日閣議決定)で「外国人材の受入れを拡大 するため、新たな在留資格を創設する」という方針を打ち出し、今臨時国会での入管法等 改正案の成立と来年4月1日からの施行へと突き進もうとしている。

その背景には、「外国人材の受け入れ拡大」という用語に示されるように、現在の国内 における外国人労働者らに対する人権侵害や劣悪労働環境を改善することなく、安価な外 国人労働力を大量に確保したいという経済界からの要求にのみ付き従う安倍政権・自公与 党の姿勢がある。

5 以上のとおり、今回の入管法等改正案は、重大な欠陥法案であって、そもそも、その審 議の前提を欠いている。そうした問題を何ら顧みず、国民的議論もコンセンサスもないま ま、拙速に、今臨時国会で成立させ、来年4月1日からの新制度実施を強行するようなこ とは到底認められない。自由法曹団は、入管法等改正案に反対し、同法案の廃案を強く求 める。

2018年11月17日  自由法曹団 常任幹事会

出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案 に反対し、廃案を求める決議(PDF97KB)

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