2023年12月26日、改憲問題対策法律家6団体連絡会が議員任期延長改憲公開質問状を発表し、各党に送付しました

カテゴリ:明文改憲

PDFはこちら


 

自由民主党 御中
公明党   御中
日本維新の会 御中
国民民主党  御中
有志の会  御中

議員任期延長改憲公開質問状

2023年12月26日

 

前略

 貴党(会派)は、憲法審査会において、①国家有事・武力攻撃事態、②大規模自然災害事態、③テロ・内乱事態、④感染症まん延事態、⑤その他これらに匹敵する事態において、適正な選挙実施が困難な場合には、内閣の判断により、半年又は1年(再延長の場合にはそれ以上)、国会議員の任期延長を認める憲法改正が必要であるとする点で、自民、公明、維新、国民、有志の会は、概ね意見が一致したと主張されています。
 そこで、以下の質問を致します。
 回答は、文書にて、2024年1月31日限り、末尾の回答書送付先まで郵送又はFAXでお送りください。本質問及び貴5会派の各回答は、適宜の方法により公開の予定です。

草々

 

1 選挙権の制限について

 平成17年9月14日最高裁大法廷判決(在外邦人選挙権制限違憲判決)は、「国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹をなすものであり」、「国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許され」ない。「そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り」、「国民の選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反する」と判示しました。
 2023年5月18日の衆議院憲法審査会で、長谷部恭男参考人は、上記最高裁判決を引用しつつ、「選挙の実施が部分的とはいえ可能である以上は、緊急の事態においても、困難が解消され次第、可及的速やかに順次選挙を粛々と実施をするということが、基本権の観点からしても要請をされているはずでございます。」と述べています。

問1 国会議員の任期延長とは、選挙が実施可能な地域の有権者の立場から見ると、選挙の延期すなわち選挙権の停止であり、長谷部参考人のいう「選挙権の制限」に当たると考えられます。
 貴党(貴会派)は、国会議員の任期延長改憲が、国民の「選挙権の制限」に該当するとお考えですか?

問2 問1で選挙権の制限に「該当する」とお答えの場合
 貴党(会派)が、憲法審査会等で主張されてきた任期延長改憲の内容は、上記最高裁が示した「制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難」な場合に該当するとお考えですか?理由を示してお答えください。
 問1で選挙権の制限に「該当しない」とお答えの場合は、その理由を具体的にお答えください。

 

2 「選挙の一体性」について

問3 貴党(会派)は、議員任期延長が必要であるとする理由として、「選挙の一体性」を挙げておられます。では、「選挙の一体性」は、憲法上・法律上の根拠があるとお考えでしょうか?「ある」とお答えの場合は、具体的な根拠をお示しください。

問4 公職選挙法は選挙区単位の選挙を前提としており、国政選挙において再選挙や補欠選挙を定めています(33条の2、109条、110条、113条)。貴党(会派)は、再選挙や補欠選挙は、「選挙の一体性」に反するとお考えですか?
 「反しない」と考えるならば、その理由を述べてください。

問5 任期延長改憲の要件で、「選挙の一体性が害されるほどの広範な地域」という概念を主張されている会派にお尋ねします。
 それは、具体的にどの程度広範な地域を指すか、明確な基準を示してお答えください。

 

3 「選挙困難事態」について

問6 憲法調査会では、「適正な選挙実施が困難な状態」(自民)、「選挙の一体性が害されるほどの広範な地域において国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難であることが明らかであること」(公明、維新、国民、有志)が必要な要件として主張されています。以下の各事態について、上記の要件を満たす場合として、それぞれどのような事態を想定しているか、できる限り具体的にお答えください。
①  国家有事・武力攻撃
②  大規模自然災害
③  テロ・内乱
④  感染症まん延
⑤  その他これらに匹敵する事態

 

4 緊急集会について

問7 一時的・限定的・暫定的制度
 貴党(会派)は、参議院の緊急集会は、一時的・限定的・暫定的制度であるから、議員任期延長改憲が必要であると主張されています。
 しかし、緊急事態に対処する際には、あくまで臨時の暫定措置にとどめることが緊急事態の恒久化や行政権力濫用を防ぐために肝要であると考えます。参議院の緊急集会は、それが臨時的、暫定の措置を定めた制度である点にこそ意味があると考えられています。
 例えば、2023年5月18日衆議院憲法審査会で、長谷部参考人は次のように述べています。
 「現行憲法の定める緊急集会制度は、①平常時と非常時を明確に区別する、②緊急集会はあくまで暫定的な臨時の措置のみがとられる、③選挙を経て 正規の国会が召集され次第、その当否があらためて審議されるとするもので、十分な理由によって支えられた制度。これに新たな制度を追加する必要性は、見出しにくいと考える。」
 この見解に対して異論があれば、具体的根拠を示して反論してください。

問8 二院制の例外
 貴党(会派)は、参議院の緊急集会は、二院制の例外であるから、議員任期延長改憲が必要であると主張されています。
 しかし、憲法は、緊急の際にも民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するために、参議院の緊急集会に国会の機能を臨時に代行させることとしました。(この緊急集会の制度趣旨、制定経緯について、学説上異論はありません。)
 そうだとすると、参議院の緊急集会が二院制の例外であることを理由に、民主政治を徹底させるための、議会制民主主義の根幹の基本権である選挙権を制限(一定期間選挙権の行使を停止)することは、矛盾すると考えます。
 この見解に対して異論があれば、具体的根拠を示して反論してください。

問9「70日」の期間制限について
 2023年5月18日衆議院憲法審査会、同5月31日参議院憲法審査会で、長谷部参考人は、つぎのように述べました。
 「そもそも、憲法54条が日数を40日、30日と限ったのはなぜかと申しますと、解散後なにかと理由を構えていつまでも総選挙を実施しない、あるいは、総選挙後いつまでも国会を召集しないなど、現在の民意を反映していない従前の政府がそのまま政権の座に居座り続けることのないようにとの考慮からであります。緊急集会の継続期間が限られているように見えるのは、その間接的、派生的効果にすぎません。にもかかわらず、そのことを根拠に、従前の衆議院議員の任期を延長する、そしてさらに、従前の政権の居座りを認めるというのは、まさに本末転倒の議論」「条文のそもそもの趣旨、目的は何なのか、何が本来の目的で、何がその手段にすぎないのか、その論点を踏まえた解釈が求められている」
 この見解に対して異論があれば、具体的根拠を示して反論してください。

問10 政権や議員の「居座り」の危険性
 2023年5月18日の衆議院憲法審査会で、長谷部恭男参考人は以下のように述べました。
「衆議院議員の任期を延長いたしますと、そこには、総選挙を経た正規のものとは異なる、言ってみれば異形のものではございますが、国会に付与された全ての権能を行使し得るある種の国会が存在をする。そこでは通常の一般的な法律が成立をすることになります。そうなりますと、言い方が問題かもしれませんが、緊急時の名をかりて、通常時の法制度そのものを大きく変革する法律が次々に制定されるリスクも含まれているということになりかねません。悪くいたしますと、任期の延長された衆議院と、それに支えられた従前の政権が、長期にわたって居座り続ける、緊急事態の恒久化を招くということにもなりかねません。」
 このような「居座り」の危険性、緊急事態の恒久化の危険性に対して、どのように対処することをお考えですか?具体的にお答えください。
 また、「居座り」や「緊急事態の恒久化」の危険はないと考える場合、その理由をお答えください。

問11 早期に総選挙を実施させる復元力
 2023年5月31日参議院憲法審査会で、土井真一参考人は参議院の緊急集会について、以下のように述べました。
 「衆議院議員の候補者の皆さんはもちろん、内閣を構成する内閣総理大臣及び国務大臣の多くが慣行上衆議院議員から選ばれていますので、自らの 正統性を支える衆議院が存在することになるよう、できる限り早期に総選挙が実施されることを強く働きかける復元力になり得ると考えられます。」
 緊急集会のこのような性質と比較した場合、現在主張されている任期延長の憲法改正案では、できる限り早期に総選挙を実施しようとするインセンティブが働きにくい、すなわち、国会を正常な状態に戻す「復元力」が働きにくいと考えます。
 上記の「復元力」が働かない恐れについて、どのように対処することをお考えですか?具体的にお答ください。 
 もし、「復元力」が働かないことはないとお考えの場合は、その理由をお答えください。

 

5 国会機能の維持

問12 貴党(会派)は、任期延長改憲は、緊急時に国会機能を維持するために必要と主張されています。そうであるならば、現時点においても、国会機能が損なわれている現状がないか、あれば直ちにそれを改善すべきと考えます。
 憲法審査会は、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査」を行うことができます(国会法102条の6)ので、ほとんどの国民が必要とは考えていない憲法改正(例えば2023年10月NHK世論調査参照)の議論に時間を費やすよりも、現に違憲もしくは違憲の可能性のある事態がある場合は、それを改めるために調査を行い審議を行うことが先決事項と考えます。
 この点についての、貴党(会派)の見解をお聞かせください。
 2017年6月22日や2021年7月16日の野党による臨時国会の召集要求(憲法53条)に対して、内閣が3か月以上も召集を行わなかった事態について、貴党(会派)の見解をお聞かせください。

以上

【質問人】
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 海渡 雄一
自由法曹団 団長 岩田研二郎
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 笹山 尚人
日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
日本民主法律家協会 理事長 新倉 修

研究者23名(順不同)
1. 宮井清暢(富山大学名誉教授)
2. 植野妙実子(中央大学名誉教授)
3. 永山茂樹(東海大学教授)
4. 根森健(東亜大学大学院教授)
5. 井口秀作(愛媛大学教授)
6. 芹澤齊(青山学院大学名誉教授)
7. 小林武(沖縄大学客員教授)
8. 高佐智美(青山学院大学教授)
9. 奥野恒久(龍谷大学教授)
10. 藤野美都子(福島県立医科大学特任教授)
11. 藤井正希(群馬大学准教授)
12. 二瓶由美子(元桜の聖母短期大学教授)
13. 飯島滋明(名古屋学院大学教授)
14. 木下智史(関西大学教授)
15. 清末愛砂(室蘭工業大学大学院教授)
16. 石村修(専修大学名誉教授)
17. 田島泰彦(元上智大学教授)
18. 和田進(神戸大学名誉教授)
19. 澤野義一(大阪経済法科大学特任教授)
20. 青野篤(大分大学教授)
21. 稲正樹(元国際基督教大学教授)
22.若尾典子(元広島女子大学・佛教大学教授)
23.清水雅彦(日本体育大学教授)

 

【回答の送付先・お問い合わせ先】
日本民主法律家協会
〒160-0022
東京都新宿区新宿1-14-4 AMビル2.3階
TEL 03-5367-5430
FAX 03-5367-5431

TOP